呪われた勇者(ギャグです。)
オレには黒歴史がある。
魔法少女だったとかそんなんじゃなく。
10年前オレはそれはもう手がつけられないくらい天狗だった。
魔力は歴代の魔術師よりもあったし、剣術もオレに敵う奴なんて誰もいなかった。
みんな『神童』だの『神の使い』だのオレの事をもてはやした。
それにオレはのせられて自分の力量を見極められなかった。
そこに、まぁ、恐ろしいほどにタイミング良く魔王が誕生してくださったおかげで。
魔王討伐のパーティーを組むはめになったのだ。
魔王のところまで行くのには苦労なんてなかった。
魔物なんて拳骨一発で涙目になって『ワルイコトシナイヨゥ。』って言うからそれだけにしてやった。
実際になにもされなかったし…。
問題は魔王と戦った時だった。
秒殺だったのだ。
オレの負け。
下手したら一秒もかからなかったかも。
いままで『地元じゃ負け知らず。』だったからさムキになって、やめときゃいいのに何度も向かっていたのが間違いだった。
『羽虫のくせに生意気だ。』
魔王のこの一言とともに呪いをかけられちゃったんだよオレ。
しかも厄介な奴。
そう!10年たった今でもオレの見た目は8歳のままなんだ。
あ、ちなみに魔王は性格も言動もアレなんだけど、わりと友好的で人間には危害をくわえるつもりはないって言ってた。
なんのために魔王討伐しようとしてたんだオレ達は…。
意味ねぇじゃん。
無駄に呪いがかかっただけじゃねぇか。
そんな突っ込みを猛烈に入れたい。
10年間ずっと修行してきたけどとても勝てる気がしない…。奴の靴を舐めてもいいからとりあえず呪いを解いてほしい…。
で、今魔王の城に居る。
魔王は、大きくまっ黒な玉座に足を組ながら気だるそうに座っていた。
「羽虫の分際で何しにここへ来た。」
安定の魔王です。
「オイ!10年前の事を忘れたのか!」
魔王は眉間にシワを寄せて考え込む。
「10年前?何かした気がするな。」
オレってそんな認識なのか!?
いくらなんでも酷くないか!?オレは10年間ずっと悩みながら修行してきたのに!!
「もう、靴でもなんでも舐めるからオレの呪いを解いてオレに跪け!!」
もう、怒りで何言ってるか自分でもわからない。
「…。」
魔王は黙り混みオレの方をじいーっと見ていた。
やべぇへそ曲げられたら呪いを解いてもらうどころか殺される。
「…。悪かった。すぐに呪いを解いてやる。」
「あ、ありがと…。」
オレがお礼を言うのはおかしいかもしれないけど。素直にそんな言葉が口から出てくる。
「少し目を瞑っていろ。」
「あぁ。」
言われた通りにすると。
身体が一気に温かくなり、内側から力が漏れ出てくるような感覚がした。
そして…。
まるで鉛が入ったように胸が重たくなった。
(なんだこれ…。新しい呪いなのか?)
オレはどうやら魔王に新しい呪いをかけられたようだ…。
ふざけるのも大概にしろよ…。
オレが10年間どれだけ辛い思いをしたのか…。
なんでまた軽い気持ちで呪いなんてかけるんだ。
「オイ。どういうことだ?また呪いをかけるなんて…。」
魔王を睨み付けるが、奴はオレを驚いたような表情で見つめ顔を赤らめる。
そして…。
「きゃわたん…。」
「は?」
「いや、なんでも。ない。」
「どういう事なんだ!胸に鉛の呪いをかけるなんて…!」
「いや、何にもしてないが?」
魔王は戸惑った様子でオレに言い返す。
「君、女だろう?」
「そんなはず…。」
魔王はじいーっとオレを見つめて答えを待つ。その様子は熱に浮かされたようでなんだかそわそわする。
あれ?オレってそもそも男だけっけ?
そういえばあるべきものはついてない気がする。
いつか生えてくるって信じていたけど…。
……
ん?オレって女だったのかぁあぁぁ!
認めたくない!認めたくない!
「そんなわけないだろ…。オレの股間には直径30センチの大砲が生えてくるはずだ!」
魔王は呆れたような疑いの視線を向けてくる。そして、大きくため息をついて。
「そうか…。原因を究明したい。身体の隅々まで調べる。しばらく滞在するがいい。」そう言いながら部下に何か指示を出している
「あぁ。」
「とりあえずこれを着て。」
なんと魔王は親切にもオレに服を用意してくれていた。
真っ白な清楚なワンピースだ。とても生地は上質でオレが着てもいいのか悩むが…。
意外といい奴なのかもしれない。
友達になれるかも。
こうしてオレは魔王の城に一生住むことになった。