下
彼は私の口元を見つめながら、涙を流し続けた。今までその言葉や想いたちを待っていたかのように微笑みながら泣き続けた。私は生きた中でこんなにも汚い言葉を使ったことがないにも関わらず、平気にどんどんと彼をけなしていく…。彼は、お酒の酔いとメンタルの酔いでおかしくなりながらも私に求め続けた。私は人として、あの勢いが無くなりかけてきて安心を求め始めていた。でも、それを大きく裏切ってくれるのが私の人生だった。
私は…たしかに人としてやって来たことがあるかもしれないと思い返してきた。だけどいつも私に思い出として残っているのは、『ヒトとして、どうだったのか…』だった。ワガママなつもりがなくても、度が過ぎて嫌われてることに気付いたり、一生懸命が他人の反感を大きく買うことをいつの間にかしていたり…
「反省していないのね!」
と云われる度に、あとはどうやって償えばいいかわからず…出来ることとして、地獄に行って痛めつけて貰うことしかなかった。自殺をしたところで白い手の人がいるだろうし、もし出来るなら、誰かを天国に行かせることをして…私は大いに地獄で火炙りなどを受けようと願った。
彼が、私の両腕を強引に取り、彼の首根に手を押しつけた。拒否と願望が私を混乱させるなかで、私の眼に映る人間は安らかな顔して正面を向いていた。
彼の合図と共に、私は手を掛けた……
私の扉に鍵を掛ける人が居なかったみたいだ…
彼の扉にも鍵を掛けてあげられる人が居なかったみたいだ…
私たちは道を切り開いて進むのだけど、心の何かの扉には鍵を掛けることが必要みたいだ。だれしもが持っているであろう、自分の鍵では閉められない厄介なな扉を。そこに鍵を閉めてくれる誰かさえいれば、、。
秒針を刻む時計と灰色の街だけが、助けを叫んでいた。
私は眼をつむって宙に浮いているから判らないけれど…彼を殺した事は、この足元にある遺書に書き綴っておいた。酔っていたから判らないが、彼の首に手を掛けた後、彼はそんなにも苦しむこともなく顔を緩めてグッタリした。意識確認はしてないが、私が殺したことには間違いがない。「天国に行けるといいね、バイバイ。」
「地獄行くよ。怖くないよ、ごめんなさい、関わりあった人たち、、、」
私はそうして拓いた扉にしたがって、道をあゆみ終えた。この世界の中では…
暗闇が明ける頃、ある住宅街の一軒家で不運な空気が流れていた。まるで空き巣が入ったかのような散らかりの中に、物影がふたつあった。そのなかのひとつ…………
宙に浮いた物影の下に、倒れているような物影がピクンと神経を跳ね返すかのように動いた……………