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逆転

作者: 肉たっぷりミートソース

 気がつくと目の前の風景は変わり果てていた。

 飲むときはいつも目にしている居酒屋のカウンターや厨房が無くなり、色のない空間になってしまっている。

 騒がしい喧騒も消えており、手にしていたはずのジョッキも消え失せていた。


(なんだこりゃ?)


 驚きを声に出して表現したつもりだったが、耳には聞こえてこない。


(あ~、あ~~?声が出ない?)


 なぜこんなことになったのか考えてみる。

 今朝は至って普通の朝だった。

 前回の仕事が終わってから2年あまり。

 懐には大寒波が訪れている。

 そろそろ仕事を探さなければならないのはわかっているのだが、ついだらけてしまっていた。

 今日こそは探そうと思って思い切って街に出たが、吸い込まれるように居酒屋に入ってしまったのだ。


 何に、というわけではないが一人で乾杯をし、ジョッキを口に運ぼうとした瞬間に目の前の風景が変わっていたのだ。


「仕事を探しに来たのよね?」


 異常な空間の中いきなり話しかけられた。

 振り返ると居酒屋でよく見るネーチャンが立っていた。

 この居酒屋は安くて量も多いので昼飯や晩飯によく来る。

 自ずと店員達と話すことになるのだが、このネーチャンは必ずといっていいほどいるので、立ち入った話もよくするようになっていた。

 当然、俺が失職中で貯金を切りぐすして生活していることも知っている。


「私が神様にお願いしておいたの。」


 ネーチャンがそう言うとネーチャンの体からまばゆい光が漏れだした。

 あまりにも眩しいので手をかざす。

 数拍で光は収まり、見てみるとネーチャンは金髪を背中に垂れ流した白人に変わっていた。


「彼の者の願いを聞き入れてそなたに仕事を与える。これから向かう場所で職を探し、10年間生活せよ。自分が働いた報酬で生活出来なければ年数には数えぬのでそのつもりでな。多少の援助はしてやる。よいな。」


(拒否権があるのかよ!)


 そう叫びたかったが声が出なかった。

 また一瞬で景色が変わり、俺は薄暗い森の中にいた。



「どこなんだよ、ここは。」


 思わず独り言を言う。

 今度はきちんと声が出た。


 静かな森の中に虫や鳥の声だけが響き渡る。

 俺は国中の鳥や虫の声をすべて聞いたわけでは無いが、今聞こえてくる声は今まで聞いたことがあるものと明らかに異なるような気がした。


 ここにいても始まらないので取り敢えず周囲を探ってみる。

 適当な方向に暫く歩くと、遠くの方で何者かがガサガサと森を歩く音が聞こえてきた。


 俺は黙って身をかがめ、音のする方にそっと近づいていく。

 見えた。

 ヒト型だ。二本足で派手な音をたてて何かを引っ張っている。

 キョロキョロと顔を動かしている様子から何かを探している様に見える。


 こちらに気づいている様には見えないので更に近づいてみると、ヒト型の何かは人間、しかも女性の様だ。

 やけに小さい。俺の背の半分ほどしか無いのでは無いだろうか。

 引っ張っているものは大きい箱だった。

 棺桶に似ているが、棺桶にしては小さい。

 この辺りの人間は全員小さいのかもしれない。


 武器を携えているようには見えず、服装も上流階級が着るような真っ白なシャツと男が履くようなピッタリとしたズボンを履いている。

 どちらもシワ一つ無い綺麗なもので、とてもではないが森を歩く様な格好には見えない。

 バックパックを背負っているが、それもツギが一つも無い綺麗なもので微妙に光沢を放っているところを見ると、絹で出来た物では無いだろうか。

 間違いなくあの女はとんでもない貴族のお嬢様だ。

 何らかの理由で護衛とはぐれ、護衛が持っていた荷物を自ら持って歩いているのだ。


 あの女はこの場所について聞くにはうってつけではないかと考えた。

 ここにはあの女以外の人間はいないようだし、俺の事を怪しむ様なら永久に口止めしてしまえばいいのだ。


「もう駄目!疲れた!ふわぁ~~あ!」


 俺が襲いかかろうとした瞬間、女が歩くのをやめて喋った。

 驚いて襲いかかるのをやめるが、少し音をたててしまった。

 ところが女は俺の方を振り返りもせずに大きな伸びをし、バックパックを下ろして木の根に座り込んだ。


「もうこのへんでいいかな。いいよね?」


 今女が見ている方向は自分が引っ張ってきた箱だ。

 箱に向かって話しかけている様にも見える。

 この女、俺に気づいていたわけでは無かったのか?


 俺は次元収納から愛用の仕込み杖を出し、女の前に飛び出た。


「ヒャ!キャ~~~~~!!!ななな何?なに・・・あぁ・・」


 女はそのまま目を瞑り、動かなくなった。

 まさか驚きのあまり死んだか?


「おい」


 声をかけて肩を揺らして見ても反応が無い。

 背中に手を当てて見るとドクドクと音がする。

 呼吸も普通なので気絶してしまっただけなのだろう。


 仲間がいれば回復の法術で治してやる事もできたかもしれないが、俺一人ではどうしようもできない。

 起きるまで待つとするか。


 女をそっと地面に横たえるとチョロチョロと水の音が聞こえてきた。

 音がした方を見ると、女の股間が濡れていた。

 俺は着ていたマントを脱ぎ、女にそっとかけてやった。



 俺が焚き火にあたっていると、後ろからゴソゴソと音がした。

 日は傾いてもう夜といってもいい時間だ。


「起きたか?」


 俺が女に声をかけると、女はビクッと震えた。


「あなたは誰?なぜここにいるの?私をどうするつもり?」


 こわばった声で聞いてくる。

 まぁいきなり現れたんだから無理もない質問だな。


「俺はモーガンだ。気がついたらここにいたんだ。お前をどうするか、については俺の質問にどう答えるかによるな。」

「外人?それにしちゃ日本語が上手ね。どこから来たの?」


 前半部分はよくわからなかったが、取り敢えず質問に答える。


「生まれはビスコールだが、最近はアモルにいた。妙な事があって今ここにいるんだ。ところでここはどこなんだ?」

「ビスコール・・・アモル?それってどの辺の国だっけ?ここは樹海よ。富士の樹海。聞いたことぐらいあるでしょ?」


 ジュカイ?フジという国のジュカイの森なのか?


「悪いが聞いたことがないな。フジという国もはじめて聞いた。」

「フジは国じゃないわよ。富士山の富士。国の名前は日本よ。あなた日本語を話してるんだから知ってるでしょ?」


 ニホン・・これも初耳だ。そういえばあの居酒屋のネーチャン、神様にお願いしたって言ってたな。

 俺が知らない世界にぶちこみやがったか?


「とにかくわかった。ここは日本なんだな。言葉については俺は日本語とは思っていない。だがアモルの言葉と日本語が似ているだけだろう。」

「日本以外で日本語をしゃべってる国なんて聞いたことないわよ。アモルはどっかにある国なのかもしれないけど・・私は知らない。」


 この女、ニホンゴにこだわるな。

 言葉が通じるんだから別にどうだっていいじゃねーか。


「過去はどうあれ、今俺はここにいる。ここにいる以上は生活をしていかないといけないんだが・・そうだ!お前の家貴族だろ?俺を雇う気は無いか?」

「貴族?!何言ってんのよ。そんなもの現代日本にあるわけ無いでしょ!あんた何時代の人間よ!っていうか仕事探すならハローワークにでも行きなさいよ。」


 女は怒ったように捲し立てた。

 この国では貴族という単語は悪口なのかもしれないな。

 そんなことよりハローなんとかが気になる。そこで仕事が探せるのか?


「ハローなんとかっていうのは?」

「ハローワークよ。私も行ったことは無いけど、仕事がない人が行くみたいよ。」


 ふむ。ギルドの様な物か。


「ハローワークとやらの場所を教えてくれないか?」

「携帯無いの?」


 女が質問を返してきた。

 居酒屋で飲もうとしているところを突如移動させられたんだ。

 携帯食料など持っているわけがない。


「質問をしているのは俺だ。」


 俺がそう言うと女は黙ってバックパックから薄い板を取り出してその表面を擦ったり、叩いたりし始めた。

 ギルドなら知らない奴はほとんどいないはずだが・・

 女の行動の意味が分からないが、こういう時に答えを渋るのはやっぱり金か。

 俺の財布には居酒屋で払うはずだった銅貨5枚しか入っていない。


「ただで、とは言わない。多少なら金はあるし、それで不満なら何か仕事を受けてやるよ。そうだ。お前の家まで護衛するって言うのはどうだ?俺はアモルでは王国特別指名冒険者なんだぜ。」


 この2年は依頼らしい依頼も無かったから懐も寂しくなったが、護衛料に金塊一つ分でも出す様な奴はゴロゴロいる。

 それをギルドの場所を教えるだけで受けられるなら破格の待遇だ。


 女はふと顔をあげ、じっとこちらを見つめてきた。

 驚いているのかと思いきや、口を開いて出てきた言葉は意外なものだった。


「・・・それ、あまり口にしないほうがいいわよ。今警察も相当厳しいからね。」


 女はそれだけ言ってまた手元の板に目を落とし、何かに悩むように眉間に皺を寄せた。


 口にしない方がいいとはどういう意味なんだ?

 目立つと仕事が増えて面倒だと言うことなのか?

 それともこの国では自慢出来るような事では無いという意味か?

 王国特別指名冒険者は俺が知ってる国ではどの国でもそのような制度があった。

 国で最も優れた数人の冒険者に与えられる最高の称号だ。


 まぁこのニホンという国は貴族が悪口になるみたいだし、俺の常識とは違う部分も多いんだろうな。

 別の呼び方で呼んでいるのかもしれない。


 女は再び顔を上げて聞いてきた。


「あなた日本には初めて来たのよね?」

「そうだ。」

「この近くだと甲府にあるみたいなんだけど、・・・電車には乗ったことある?」


 デンシャ?

 質問からすると乗り物なのだろう。


「デンシャは知らないが、馬に地竜、船に飛行船、マウンテンタイガーにグラスバッファロー、スタードラゴンまで一通り乗ったことはある。」


 スタードラゴンは非常に希少な生物で、俺以外で遭った事があるやつを見たことがない。

 俺はそいつと闘い、打ち負かして主従契約を結んだ。

 俺が、王国特別指定冒険者に成れたのもスタードラゴンを使役できるという理由が一番大きいと考えている。

 だが女は驚くどころか、呆れた様な顔をして頭を掻いた。


「う~ん、仕方ないわね。甲府まで乗せてってあげる。あ、でもその前にちょっと待っててね。」


 女はそう言うと俺のマントを腰に巻きつけながら立ち上がり、バックパックを掴んで俺から隠れるように森の奥へ行ってしまった。


 逃げたわけでは無さそうだ。

 棺桶のようなものは置きっぱなしだし、耳を澄ませるとゴソゴソと何かをやっている音が聞こえてくる。

 突如、妙な音が聞こえてきた。

 女の方からだ。

 法術を使うときに似たような音がする事もあるが、このような音は聞いたことがない。

 咄嗟に火を消し、近くの木に登って様子を伺う。


 周囲に女以外のヒト型はいない。魔物もいないようだ。

 というか、あの女がうるさい音を立ててゴソゴソと着替えのような事をしているので良く聞くことが出来ない。

 抗議にいこうとして木から降りると、ちょうど女がこっちに来るところだった。


「今の妙な音はお前が立てたのか?」

「妙なって・・あ、ラインかな?」


 女が手に持っていた板を数回叩くとまた先程の音がその板から聞こえてきた。


「この音?」

「そうだ。その音だ。その板が音を出しているのか?」


 俺が聞くと女は吹き出して笑い始めた。


「プ~~!ハハハハハ!!板?そうね!確かに板ね。あははははは!!」


 楽しそうに笑っているが俺は何がおかしいのかちっとも分からない。

 俺の憮然とした表情に気づいたのか、女は笑いを抑えた。


「笑ったりしてごめんなさい。え~っとモーガンさん。自己紹介がまだだったわね。私は鈴木さおり。よろしくね。あと、これありがとう。」


 女は俺のマントを返してきた。

 先程着替える前は緑色のズボンだったが今はオレンジ色のスカートになっている。


「よろしくな。スズキサオリ。」


 俺はマントを受け取ってさっと羽織り、スズキサオリと握手をした。

 スズキサオリは笑顔を見せた。


「鈴木は名字なの。友達は私の事サオって呼ぶから、モーガンさんもそう呼んでもいいよ。」

「サオか。短くていいな。俺も仲間にはギルって呼ばれてる。」


 俺がそう言うとサオは不思議そうな顔をした。


「ふ~んギルね。モーガンと全然違うのね。」

「モーガンはアモルで貰った名前だ。仲間はビスコールからの付き合いの奴が多いからギルと呼ばれてるんだ。」


 国から名前を貰えるのは貴族やごく一部の功績を立てた奴だけなんだが、この国には貴族がいないし、サオには良くわからないだろうな。


「なるほどね。後でゆっくり聞かせてね。とりあえず車までいきましょう、ギル。」


 サオはそう言ってバックパックを背負って歩き始めようとする。

 俺は驚いて聞いた。


「待て。今はもう夜だ。相当の理由がない限り夜に森を歩くのは避けるべきではないのか?」

「理由ね。理由なら十分すぎるほどあるわ。まず今は夕方の6時で寝る時間まではたっぷりある。それにお腹も空いたし寒い。私は文明人だし野宿なんかまっぴらごめんなの!家に帰って熱々のお風呂にゆっくり浸かりたいの!わかった?!」


 怒りっぽい奴だな。


「サオ、あの棺桶は持っていかなくていいのか?」


 俺がそう言うとサオは勢い良く振り返り、俺を睨んできた。

 しばしの沈黙のあと、サオが震える声で聞いてきた。


「み、見たの?」

「見たって何をだ?これは俺の推測なんだが、お前は・・なんというか・・金持ちの家の娘なんだろう?身近な誰かが死んでそれを埋葬しにいくときに、襲われてポーターが逃げたか殺されたかしたんじゃないのか?」


 サオは怯えているようだったが、俺の推測を聞くと少し安心した様な表情になった。


「当たらずとも遠からず・・・でも無いか。その推測は大部分ハズレよ。それは棺桶じゃなくてスーツケース、旅行用の鞄よ。要らないから置いていくの。さぁ急ぎましょう。」

「わかった。」


 棺桶じゃなくて鞄か。

 しかし要らないならなんでここまで引きずってきたんだろうな?

 この国は本当に不思議だ。


 サオが板をトントンと叩くと板から眩しい光が漏れ出し、サオの足元を照らした。

 後ろからついていくがサオは時々立ち止まって板を見ている。


 しかしのろい。

 歩くのが遅い上に周りの木々が見えてないようで、手探りをしながら歩く上に偶に躓いたりしている。


「サオ、その板は地図なのか?」

「そうよ。」


 俺が聞くとサオは振り返りもせずに答えた。


「サオ、俺が背負ってやる。サオは後から道を教えてくれ。」

「え!いいよ・・その・・恥ずかしいし。」


 恥ずかしい?

 あぁ、歩けないと思われるのが恥ずかしいという意味か。


「この近くにいるのはせいぜい蛇ぐらいだ。見られたって恥ずかしくない。」

「え?蛇?!」


 俺がすぐ先に隠れている蛇を指差すと、サオは俺の足に抱きついてきた。

 頭のてっぺんが丁度腰の辺りに当たる。

 俺はサオの腰の辺りをつかんで持ち上げ、強引に背負った。


「ちょっとちょっとちょ~~~~!!!いきなり何すんのよ!」

「背負うって言っただろ。さぁどっちなんだ。今まで進んでた方向でいいのか?」


 俺はサオが今まで進んでいた方向に歩き出す。

 ほんの百歩程で道に出た。


「ちょっと速すぎるわよ。ナビが見えないけど・・あ!ここ見覚えある。えーっと右!右に行って。」

「ミギ?」

「こっちよこっち!」


 ソード側の肩が叩かれた。


「ソード側な。」


 軽く訂正してからソード側に向かって歩く。

 数十歩歩くと道がおわり、柵があった。


 柵の向こう側は不思議な空間だった。

 まるで岩山の上のように地面が石でできている。

 森の中は夜だったが、ここはまだ夕方ぐらいの明るさだ。

 よく見ると少し離れたところに明るいランタンを吊ってある棒が有るようだ。


「もういいわ下ろしてくれる?」


 背中のサオが言ったので下ろしてやる。


「ちょっと。どうせならガードレールの向こう側に下ろしてよね。」


 文句を言いながらサオは柵を越えようとする。うるさいやつだ。

 低い柵だがサオの胸のあたりまであるので越えるのは難しいかも知れない。

 俺は黙ってサオを持ち上げ、柵の向こう側に降ろしてやった。


「あ、ありがとう。ギルもこっちに来て。車は向こうよ。」


 サオはタッタと歩いていってしまった。

 俺も柵を越える。

 見た目通り岩山のような硬い感触だ。


 サオの歩いていった方を見ると、サオの体よりも大きな白い箱の前に立っていた。

 箱には黒い車輪がついている。


「うわ。車が小さく見える。ギル、これに乗れる?」

「もちろんだ。」


 いくら大きいと言っても所詮は箱だ。

 俺が箱の上に乗ろうとして足をかけるとサオが慌てたように言った。


「わ~!違う違う!!一回足を降ろして。」


 言われたとおりに足を下ろす。


「私の言い方が悪かったわ。ちょっと待ってね。」


 サオはそう言うと箱の一部を開いて中に入り込んでしまった。

 バタンバタンと音がした後、出てきたかと思うと箱の側面が開いた。


「ギル、ここから中に入れる?」

「この中に入るのか?そりゃ箱にしちゃ大きいが・・・まぁやってみるか。この中に入らないとハローワークに行けないんだよな?」

「そうなの。ちょっと狭いかもしれないけどさ。」


 サオが申し訳なさそうな顔で言う。

 俺は箱の側面から中を覗き込み、そのまま中に入ってみた。

 体のいろいろな部分を曲げてやっと腰まで箱の中に入る。


「入ったぞ。これでいいのか?」

「まだ足が出てるわよ。足も中に入らない?」


 膝を曲げて足を中に入れ込む。


「もう少し!あとちょっと!オーケー!いいわよ!」


 俺が必死に体を中に入れ込んでいると、後からバタン!という音がした。

 顔の横にある部分が開き、サオが中に入ってきた。


「軽じゃ窮屈ね。でも仕方ないわ。じゃあ行くわよ。」


 サオが何かをすると箱が唸り声を上げて震えた。

 そして唸ったまま箱が動き始めた。


「ギルは背が高いのね。故郷の・・アモルだっけ?そこでも不便だったんじゃない?天井に頭ぶつけたりしてさ。」

「俺が?そんなことはない。俺よりももっとデカイやつもいたぞ。俺はどちらかというと小柄でスピードを重視するタイプだったんだ。だが確かにビスコールではデカイ方だった。」


 俺が話してもサオは前を見たままだし箱も唸り声を上げっぱなしだ。

 最初はうるさいと思ったがだんだん慣れてきた。


「ビスコールって?」

「俺が生まれた国だ。5歳までそこで暮らしたんだが仕事が少なくてな。」

「え?5歳から仕事をしてたの?!」


 サオが変なところに食いついてきた。


「当然だろ。早い奴は3歳半から始めるやつもいるが、大抵は4歳からだ。俺も4歳から始めたぞ。」


 しばしの沈黙が流れる。箱だけが唸り声を上げている。


「ギルって今何歳なの?」

「俺か?俺はもうすぐ10に成る。人生の折り返し地点だ。サオは今何歳なんだ?」


 サオは一瞬だけ驚いたようにこちらを見たが、また興味なさげに前を向いてしまった。


「私?・・そうね。ギル、日本に来て間もないから無理もないけど、女性に年を聞くのはとても失礼なのよ。」

「そうなのか。難しいな。じゃあ無理には聞かないが別の質問をさせてくれ。俺の住んでたところでは貴族というのは偉い人達だったんだ。税金は取られるが、魔物が来たら軍を出して守ってくれる。そんな奴らだったんだが、ニホンではどういう意味になるんだ?」


 俺はその後サオに色々な質問をぶつけた。

 サオは前を向いたまま興味なさげに答えてくれたが、同様にたくさん質問された。


 サオからの答えは衝撃的だった。

 この国には魔物がいないのだ。

 法術も無いらしい。

 農家や職人もいるらしいが、大抵の人は同じ国民のために仕事をしてお金をもらっているらしい。

 誰かのためにやった仕事の報酬を、自分のために仕事をしてくれる人に支払う。

 結局誰が払って誰が儲けているのかわからないな。


 時間の数え方も違うらしい。

 アモルでは1200日で1年と数えるが、ニホンでは365日で1年だ。

 あの神様とやらがどっちの数え方で10年と言ったかわからないが、少なくともしばらくはここで生活する必要がありそうだ。



お読み頂いてありがとうございました。

逆に転移するから逆転です。


こんな設定の小説があれば面白そうだなと思うのですが、沢山の小説の中から探しきれていません。

もしかしたら初なのかもしれないと思ってます。


この小説にインスパイアされた作家の方がもっと面白い作品を書いてくれたら良いな、なんて勝手に思ってます。

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