第1節 始まる異世界生活①
────享年16歳。高校2年生。不登校。オタク。志河 天気。
本日から僕は……。
『勇者、始めます。』
×××
僕、志河 天気はオタクで不登校でも誰もが想像するような根暗な人ではない。
高校1年までサッカー部でキャプテンを務め、クラスでは学級委員。成績も常に上位。次期生徒会長とまで言われていた次第だよ。
そんな僕が何故不登校になったのか。不思議でならないと思う。
オタクなのは元からだった。
ただ、不登校になったのは高校2年の春からだ。
僕は高1の冬、大会で突然倒れた。
末期のガンだったらしい。今までサッカー出来てたのが奇跡な程に進行したものだった。
余命半年って言われた時は悪い夢かと思ったよ。
残酷でもそれが現実なのはすぐに自覚した。
人間の体ってのはすごく面白くて、末期のガンだと言われて数日後には体が言うことを聞かなくなり始めていた。
そして、いつ死んでもおかしくない夏。
「死なないでよ!天気!!」
病室に響く女の子の声。声の主は僕の幼馴染である天野 姫花。
オレンジ色のセミロング、緑色の瞳、白い肌。
ずっとそんな彼女の事が好きだった。ずっと隣にいれると思っていた。
たとえ、彼女の好きな人になれなくたって良い。隣にいれればそれで、と思っていた。
それすら叶わないなんて思ってもいなかった。
とっくに声なんて出ない。でも、これだけでも……これだけは伝えたい。
ほとんど意識なんてない。目もほとんど見えない、もちろん声だって微かに音が聞こえる程度だ。
それでも彼女の位置は何となくわかった。今ここにいることも。
僕は彼女の頬へと弱々しいが確実に手を伸ばす。
それは声にはなってないかもしれない。それでも心の中でだけでも強く叫ぶように、強く思う。
『────たとえ、どこへ行こうと。君だけは守ってみせる。』
僕は最後に精一杯の笑顔を見せ、その日その時息を引き取ったのだ。
×××
あの時息を引き取ったはずの俺は目を覚ました。
前後左右、上も下もわからない真っ暗なようで明るい。明るいわけではなく暗くない。そんな不思議な空間に立っていた。
「ここは……っ!?」
この不思議な空間で、自分の存在を感じることができない事に気付いてしまった。
それもそうだ、手を見ようとしたのだがそこには何もなかった。
つまり僕の実体がないという事だ。
「当然っていえば当然か。僕は死んだんだもんね。……あながち、ここは魂だけの空間って所かな。」
『察しがいいな……。』
「っ!?だ、誰だ!」
『お前を勇者として転生させてやる神……ってとこだ。』
「転生……?僕は生き返る気なんてないよ。もう僕の人生は終わったんだ。」
転生っていうのは生き返るとは少し違うかもしれない。
けど、僕は……志河 天気はあの場で、あの瞬間に死んでいる。
どんな形であれ、再び生を受けるわけにはいかない。
それは一生懸命に今を生きる人たちを冒涜しているような気がするから。
『お前が転生しない事でたくさんの命が失われると言われてもか?』
「それどういう意味かな。」
『俺はお前に力を授けるつもりだ。間違いなく世界を1度救う。つまり、お前が断れば世界は救われない。見捨てられるか?お前の力で救える世界を。』
彼の口ぶりからして、多分これから僕が転生するのは異世界なのだろう。
「僕が転生して、勇者にでもなれってこと?でも、さっきも言ったように僕は『心配いらない、お前は世界を救ったら消えるだろう。お前は勇者として転生し、伝説として消える。』
それなら生き返ると言っても期限の付いた一時的なモノ、断る理由が本格的になくなった。
もうここまで来て断ると、僕がただの嫌な奴な気もしてくる。
「わかった。僕が勇者になるよ。」
救える命を救うために、僕はこの魂を燃やし尽くそう。彼女も……姫花もそんな僕の方が良いだろう。
世界を救う事で、君を守れなかった罪を償おうなんてのは変な話かもしれない。
だけど、これが僕なりの精一杯の罪滅ぼしだ。
『いい返事だ……。』
×××
異世界って言ってもあんまり僕の生きてた世界とは差がないらしい。
異種族などがいたりして違う点も多少はあるけど。
確かに着いてみると日本とは違うけど、西洋とかはこんな感じなのかな、と思った。
「とりあえずどうすれば良いのだろう。」
僕は踏み出すと同時に1人の女性とぶつかってしまう。
「あ、すいませ……」
オレンジ色のセミロング、緑色の瞳、白い肌、何か動物の耳の生えた彼女は……獣の耳だけ除けば、その姿はまるで
「姫…花?」
この出会いが僕の異世界生活を狂わせ始めている事を、僕を転生させた自称神すらこの時は知らなかった。




