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4.カフェオレ天気予報

「あまっ。甘い。お花畑じゃない」

「お花畑? コーヒーに砂糖入れすぎた?」

「それもあるけど。アンタの頭の中がね」

そう言いながら雪ちゃんはコーヒーにミルクを入れた。

雪ちゃんが好きなカフェオレだ。混ざった色が綺麗だな。

いまは雪ちゃんと部署の中にある休憩室にいる。簡単な会議室みたいな個室になってるけど仕切りは薄い。

ちょっと視界の明るさが少ない気がして近くにある小さな窓に目を向けると、窓に水滴がついていた。同じように雪ちゃんも気付いた。


「あ、雨降ってきたね」

「そうだね」

「結音、傘持ってきた?」

「置き傘と折りたたみもあるよ。雪ちゃんは?」

「私、前に降ったとき家に置き傘持って帰ったままだ」

「傘貸すよ?」

「ん、サンキュー」


窓の外を見ながらコーヒーを一口飲んで、朝の天気予報を思い出した。

「…台風来そうだね」

「空もだけど、結音もヤバイかもよ?」

「なにが?」そういい終わる前に休憩室のドアが開いた。


「雨宮さん、少しいいかしら。時間はとらせないから」

ドアの向こうに美人なお姉さんが立っていた。窺うようにこちらへ、そっと首を傾けている。

「……はい」

返事を返しつつ、相手の名前を思い出そうとする。姿は見たことあるけど同じ部署ではない。

違う部署の人がどうして私の名前を知っているのだろう。

彼女の後ろに続いて出ようとしたとき、雪ちゃんが携帯を持ちながら小さく言ってくれた。

「駄目だと思ったらサインだしなさいよ。駆けつけるから」

だから、なにが?



暫く歩いてエレベーターとは反対の通路隅っこまで行くと、彼女の体がくるりと向き直った。

「雨宮さん」

「はい、なんでしょう」

彼女の、無造作に見えてしっかりと巻かれた長い髪が揺れる。

真っ白いふわふわな毛並みの長い猫が怒ってるみたいに見える。

彼女の眉はつりあがっていた。

「村瀬さんと付き合っているの?」

「え?」

どうして、いきなり村瀬さんの名前が出てくるのか分からないでいると、もう一度確認する声で言われた。

「どうなの?」

「……付き合っていません」

「……そう」

全然納得したように見えない。その通りで勢いは消えていなかった。

「村瀬さんと距離をおいてくれないかしら」

「嫌です」


ちゃんと目を見て言うと、驚いたように彼女の目が見開かれマスカラたっぷりの睫毛がパチパチと音を立てた。

「……あなたって結構はっきり言うのね」

「好きなことには正直だって言われます」

ご飯のときとか。


「好き……ね。まぁ、いいわ。付き合っていないのなら私は告げるだけだし。いまのは忘れていいわ」

意味が分からない私を残して彼女は背を向けてコツコツと歩いていった。

遠ざかっていく彼女の背中を見つめたままでいると、パタパタと早足で近付いてくる音が耳に届いた。


「結音、大丈夫だった? なにもされてない?物陰から見てたんだけど、よく見えなくて」

「大丈夫。……よく分からないんだけど」

困惑して雪ちゃんを見ると、彼女はなぜか納得したように頷いた。

「えーと、いまの人ね……名前は、いいか。覚えなくても」

自分に言い聞かせるように、もう一度頷いて言葉を続けた。

「彼女はね、村瀬さんが好きなのよ」

「好き?」

よく飲み込めずにいると雪ちゃんが補足した。

「恋愛的な意味でね。結構はっきりアプローチしてたみたいよ」

「……」

「村瀬さんもモテるよね」

雪ちゃんの声を聞きながら、胸の奥で小さなトゲがくすぶった。

「でも、私に言わなくていいと思う」

「うん。牽制というか、発破かけたかったんじゃない。彼女も意外とお節介よね」

余計に分からない。彼女のなにが、そうさせたのか。どうして私なのか。

ほんとうに、わからない? 自問自答する。

手を伸ばせば届く距離に答えがありそうな気がするけど、伸ばせないでいる。

足元から動けない。満たされてそれで終わりじゃなかったんだね。

'15.9.7修正

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