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願い  作者: 室姫暁人
6/8

別離

あの凄惨な事件の後に美香はつかの間の平穏を手に入れた。

すべてが終わったんだと・・・そう思っていた。

 これは後に聞いた話なのだが、あの惨劇の後、朦朧とする意識の中、

私は病院に運ばれた。

左腕から左手にかけての怪我とLSDの治療、そしてカウンセリングのために。

腕の怪我に関しては縫うことになった。

まだ小さいため怪我の治りも早い。

傷跡はほとんど目立たなくなるという。

 LSDの治療に関して、あまりすることがなかった。

肉体的な依存がないに等しく、また効果も直に切れるからである。

私に対してできることはLSDが抜けた後、

俗にいうトリップのあとの抑うつに因る自殺などに目を光らせる。

こちらのほうが主だったらしい。

 カウンセリングだが、私はあまり話そうとしなかった。

無理もないだろう、あの出来事の後だ。それはカウンセラーを悩みの種となった。

しかし、カウンセラーや周囲の人間の尽力もあり、少しずつカウンセリングが効果を発揮し始めた。

自分のことを話すようになった。

 

 そして、両親のことだが、私はおじさんとおばさんに引き取られることになった。

おじさんとおばさんは長年子供を欲しがっていた。

もともと両親とも仲は良かったし、私もなついていた。

しかし、経緯が経緯であるだけに私含め3人共何かしら感じていたのは事実である。

それでも、私自身は引き取られることにはそこまで抵抗がなかった。

 

 私をあの時助けてくれた警官は新人だったらしい。

その警察官、日高要一というのだが、家族ぐるみで付き合いが生まれた。

やはりあの事件で受けた影響は大きかったようで、

独断専行で犯人を射殺してしまったこと、

そもそもあの公園と私の生家があれだけ近かったのに

なぜ警察は事件を予見できずを防げなかったのか、

と警察全体の責任問題にもなったそうだ。


 日高さん自身にも心の傷が残ってしまった。

過剰防衛とはいえ人を殺してしまったのだ。無理もない。

それでも日高さんは警察を続けることにした。

「自分のおかげで助かった、君のためにもやめる訳にはいかない。」と。

その気持ちは小さいながらに嬉しかった。しかし、少しだけ重荷にもなった。


 そんなこんなで凄惨を極めたあの事件は一定の収束を見せた。

 

 あの事件から2年、私は10歳、ちょうど小学校4年生になっていた。

事件についてはその不可解さ、残虐性故に報道規制が敷かれた。

なのでその事件について知ってる人間は自分の家族と警察関係者くらいだった。

私はあの事件から立ち直り以前と変わらない様子で学校に通っていた。


 しかし、変わってしまったこともある。

生まれてからずっと住んでる街を離れることになった。

あまりにもセンセーショナルな話題。いくら報道規制が敷かれていても

さすがに人の口に戸は立てられない。 

私は好奇の目でさらされることになった。耐えられない。

さらに自宅が犯罪の発生現場であり、通ってた学校が目と鼻の先にある。

学校にだって通いづらくなる。

 

 そして、何より私のメンタルケアの観点から見て望ましくない、とのカウンセラーの判断。

元いた街から遠く離れた、大きな街で過ごすことになった。

私はもちろん転校した。

それにともなって、おじさん、おばさん、

今のお父さんお母さんも転職を余儀なくされた。

両方共職場が私の住んでた街の中にあったのだ。

あんな事件の遺族なのだ。会社で噂にならない訳がなかった。


 様々な要因が重なり街を離れることになった私達。 

ここにはまず知り合いが誰もいない。

そして私の知ってる景色が何一つとしてない。

子供というのは強いもので、あれだけの事件があったにも関わらず、環境に適応して、

新たな友人関係も築くことが出来た。

私は平穏を取り戻したのだ、あの時はそう思っていた。


 ― 今思えば、事件について一切を考えないようにすることが、

小さな私にとって出来た精一杯の心の防衛だったのかもしれなかった ―



1話がかなり長くなりそうなのでいくつかに分割することにしました。

LSDやカウンセリングに関しては調べたのですがコレで十分かわからないです。

その他にも文のつくりや話の作り自体にご指摘があったらバンバンお願いします。

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