恋人に
絶世の美少女が、目の前にいた。
「私ね、人殺しなの」
彼女は、悲しそうに目を伏せた。
「告白を断ったら、その人は自殺してしまったの」
振ったから死んだのだと。自分は人殺しなのと。
それに僕は笑った。
「君のせいじゃないよ」
「いえ……私のせい。私がひどいことをしたの」
「振っただけだろう?」
そんな僕の言葉に彼女は首を横に振って、
「それでも、私の言葉は人の命を消したの」
「言葉で人は殺せないよ」
命が消えるのは、身体のはたらきだ。物理現象だ。
「貴方にはわからない。絶世の美男子の、貴方には」
「わかるよ」
「わからないわ」
彼女はそう言って、僕を睨む。しかし僕は笑った。
「じゃあ、僕が殺してあげるよ」
「誰を?」
「君を。君と同じ方法で」
僕の言葉に、彼女はしばし考え、頷いた。
「よろしくお願いするわ。それじゃあ――」
彼女は一呼吸置いて、僕を見た。
「私と、付き合ってください」
「いいよ。恋人になろう」
彼女は目を丸くした。しばらくして怒ったように目を吊り上げた。
「話が違うわ」
「違わないよ。恋人となった君を、振る。それで君は死ぬ」
「騙したのね」
「確実な道さ」
「……本当に?」
「本当に」
「そう……わかったわ」
僕の策に彼女は乗った。僕にはそんなつもりはないのに。
こうして、僕と彼女は恋人になった。そこには一組の男女だけで、特別な関係はない。
僕が幼い頃から彼女が好きだった、とかいう事情は関係ないし、
「それじゃ……これからよろしく」
「よろしくお願いするわ」
まして、この状況のために数人の男を殺したことも今は関係ない。
そんな僕に彼女はそっと笑いかけ、
「これで、私も共犯ね」
そんな言葉に、僕はしばらく言葉を失った後に、笑ってしまったのだった。