25-14 事後処理
700672号の元を辞した仁は、事後処理に取りかかった。
『御主人様、あの巨大エルラドライトと、セルロア王国の8人の兵士について、私と『太白』とで再検討してみました』
老君が発言する。『太白』とは、先日の『魔導砦』騒ぎで仁が手に入れた魔導頭脳である。
魔導大戦時に作られた軍事用の頭脳で、今は崑崙島を管轄させている。
軍事用に作られたので、計画の立案に関しては頼りになるのだ。
『マキナが兵士を見つけたことにしようと仰いましたが、それはやめた方がよろしいかと思い、改めて立てた案があります』
「うん、聞かせてくれ」
『はい。まず、確認させていただきますが、一番の問題点は、『始祖』やサーバント、魔族のことが知れ渡ること、でよろしいですね?』
「ああ、そういうことだな」
大前提として、『始祖』やサーバント、魔族のことなどは、せめて『世界会議』が実現した後、全部の国に同時に知らせたいと思っているのだ。
できることなら、当分は秘しておきたくも思っている。
『わかりました。……それらを踏まえて、こういう案はいかがでしょう』
『御主人様は、セルロア王国で、特殊ゴーレムが送ってきた映像を見て、どこかの地下だろうと見当を付けました』
「ふむ」
間違ってはいない。『どこ』かということはその後すぐにわかったのだが。
『旧レナード王国の地下にも魔物がいたことから、そちらを中心に、独自調査を行いました』
「うんうん」
不自然さは感じられないし、そう言い替えてもいいような行動をしている。
『そしてエルラド鉱山の地下で、ついに見つけたのです』
「まあ、そう言っていいかもな」
『その際、巨大なエルラドライトを見つけました。ですが、御主人様は地上には出ず、そのまま地下の調査を進めました』
それなら、エルラドライトの申請が遅れた理由にはなるだろう、と仁は思った。
『更には、地下に謎の遺跡を見つけ、そこで行方不明になっていた8人の兵士も見つけたのです』
「なるほど」
ここまでは無理のない展開である、と仁も共感できる。問題はここからだ。
『その遺跡を調査しようとした時、何らかの保安設備があったのか……これは、場合によっては言わなくてもいいかと思います……遺跡は崩壊してしまいました』
現に崩れてしまっているのだから、これも問題ないだろう。
『彼等が誰に助けられたかと言えば、それは不明、としていいのではないかと思います。遺跡はなくなってしまったのですから』
重要なのは8人が生きていたと言うこと、そして巨大エルラドライトだと老君は言った。
「そうか? 地下遺跡だが、絶対に誰かしら調査に来ると思うぞ」
『それにつきましては、あそこまで至れる技術を持っているなら、隠しても無駄かと』
仁は考えて見た。今の世界にある技術では、蓬莱島関係者以外であの3000メートルの地下まで行き、崩れてしまった施設を調査できるとは思えない。
逆に、それができる技術水準になっているなら、あの施設のことを隠しても無駄だろう。
「うん、いいだろうな」
そして最後に、仁ダブルの魔法記録石……2体の600012号が『知識送信』で送りつけてきた情報を受け取ったはずの魔結晶の内容を解析するように、と指示を出したのであった。
* * *
3月22日、『コンロン2』はセルロア王国へと向かっていた。
乗っているのは仁、礼子、エルザ、エドガー。操縦士はスチュワード、助手は少女型の新SP、リリーとローズ。乗客は8人のセルロア王国兵士たちである。
21日いっぱいを使って、二堂城でエルザが8人を治療したのである。
二堂城を使ったのは、旧レナード王国から近く、彼等に知られても問題のない場所だったからである。
8人はそれまで眠り続けていたのだ。
「すごい、これが空から見た風景か!」
「我が国の飛行船よりも速いらしいぞ」
「乗ることができて幸運なのか、ひどい目にあったから不運と言うべきなのか」
「こうして五体満足で帰れるんだから幸運と思おうぜ」
「そうだな。空を飛ぶという貴重な経験もできたことだし」
「しかし、すごい治癒魔法だったな」
「ああ。『崑崙君』の婚約者、エルザ様だったか?」
「美人……と言うか美少女だったなあ」
初めて空を飛んだ興奮を口にする者、怪我を治してくれたエルザへの賛辞を口にする者。
「しかしあの魔物に囲まれた時はもう駄目だと思ったよな」
「ああ。意識が無くなる少し前、小さな女の子を見たような気がするんだが」
「馬鹿、そりゃ幻覚だよ」
「だよなあ。いくらなんでもなあ……」
「だけどなあ、俺も見たような気がするんだ」
「何かの見間違いだろう。女の子がいるはずがないじゃないか」
「それはそうなんだけどなあ」
「恐怖でおかしくなりかけてたんじゃないのか?」
脳裏に刻まれた悲惨な経験などを好き勝手に話し合っていた。
少女というのがアルシェルのことであるのは間違いないが、仁たちは何も言わず、彼等の好きにさせていた。
そしてカイナ村を出ておよそ3時間、セルロア王国首都エサイアが見えてきた。
仁は『コンロン2』の速度を落とし、ゆっくりと高度を下げていった。もう王城からも見えている頃だ。
案の定、確認のために熱気球が2機上がってきた。
見よう見まねで推進装置を独自開発したものらしい。その点はさすがである。
「こちら『崑崙君』ジン・ニドー。貴国の兵士8名をお連れした」
風属性魔法『伝声管』を使い、熱気球乗員に伝えると、1機が降下していった。王城に伝えるためだろう。
仁は地上からの反応があるまで、『コンロン2』を適当な高度で停止させた。もう1機の熱気球はそれに随伴するように浮かんでいる。
そして30分後、王城前広場に、近衛兵が整列するのが見えた。
そして大きな旗が振られる。旗には『歓迎』と大書されていた。
「なるほど、ああして上空に知らせる方法を取ったのか」
仁は感心すると共に、こうした手旗信号などは早めに各国共通のものを制定すべきだな、とも思ったのである。
降下してみると、セルロア王国国王、セザール・ヴァロア・ド・セルロアその人が自ら仁を出迎えた。
仁は礼子を、エルザはエドガーを伴って地上に降り立った。
「ジン殿、ようこそ。エルザ媛、ようこそ」
「陛下にはご機嫌うるわしく」
簡単な挨拶を交わした後。
「ジン殿、我が国の兵士8名とはどういうことなのだ?」
「陛下、朗報です」
「朗報?」
「はい。……リリー」
『コンロン2』に残っていたリリーが、後部ハッチを開いた。
「おお……! そなたたちは!!」
そこから駆け下り、整列する8名の兵士たち。セザール王には、彼等が、ダリの地下施設からいずこへともなく転移し、そのまま行方不明になった兵士だとわかったようだ。
「そうか、無事だったのだな。よかったよかった」
8人の兵士たちは、一旦第一軍事省長官ラゲードに預けた。
「それから、もう1つ。……ローズ」
「はい」
大きな歓声が上がった。
『コンロン2』から、巨大なエルラドライトを抱えたローズが現れたのである。
「こ、これは?」
「エルラド遺跡で見つけたエルラドライトです」
「ううむ、これほどのものは見たことがない!」
セザール王の隣にいた第一内政省長官ランブローが呻くように言った。
さすがに、これ以上の話を外で行うというのは相応しくないため、仁たちは王城へと招き入れられたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20150712 修正
(誤)5体満足
(正)五体満足
(旧)簡単な挨拶を交わした後、仁はすぐに本題に入った。
「陛下、朗報があります」
(新)簡単な挨拶を交わした後。
「ジン殿、我が国の兵士8名とはどういうことなのだ?」
「陛下、朗報です」
……アコチューブで8名の兵士を連れて来た、と伝えてあるので、窮余の策として。
(旧)「我が国の飛行船、あれよりも速いらしいぞ」
(新)「我が国の飛行船よりも速いらしいぞ」
(旧)見よう見まねで独自開発したものらしい
(新)見よう見まねで推進装置を独自開発したものらしい
20160527 修正
(誤)「ああ。崑崙君の婚約者、エルザ様だったか?」
(正)「ああ。『崑崙君』の婚約者、エルザ様だったか?」
20180930 修正
(誤)蓬莱島関係者以外であの1500メートルの地下まで行き、崩れてしまった施設を調査できるとは思えない。
(正)蓬莱島関係者以外であの3000メートルの地下まで行き、崩れてしまった施設を調査できるとは思えない。