25-06 行き先
よくよく調べてみた結果、間違いなくアルシェルの髪飾りに付いていたルビー、ということを兄のベリアルスが保証したので、とにかくここを彼女が訪れたらしいことは確定した。
問題はその後、である。
「まずこの付近を調べてみるしかないな」
仁ダブルは『音響探査』と『地下探索』を使い、調べてみることにした、その時。
「お待ち下さい!」
礼子から待ったが掛かる。
「魔力の流れを感じます」
仁ダブルよりも礼子の方がそうした知覚は上である。
「もしかすると、この付近に魔導機が存在する可能性があります」
「何だって? 何の意味が……」
と言いかけて仁ダブルは口を噤む。
レーダーに代表されるような、監視系の機器は、高い場所に設けた方が有利なものが多いからだ。
「と、なると……」
その魔導機がどういうものかで対応の仕方は変わる。魔導投影窓を見つめながら、仁は考えてみた。
監視系か、攻撃系か、それとも……転移系か。
監視系だった場合、仁ダブルたちのことはもう知られていると考えた方が良いだろう。
攻撃系の場合でも、何らかの監視系が付随している可能性が大である。
転移系の場合でも、そこに誰かいないか、何か障害物がないかの確認は必要だ。
少なくとも監視系があるという前提で行動することだ、と仁は結論を出した。
それを、仁ダブルを通じて、ベリアルスに伝える。
ベリアルスは少し考えたのち、口を開いた。
「我々を監視している『誰か』、聞こえていますか? 私はベリアルス、アルシェルの兄です。もし聞こえていたら反応して下さい」
しばらく待ったが、反応がない。そこでベリアルスはもう一度同じことを口にした。
そして更にもう一度。
「……」
だが、反応は返ってこなかった。日没も間近で、薄闇があたりを覆い始めている。
「ベリアルス、今日はもう遅い。また明日にしよう」
仁がそう声を掛けたときだった。
「あれを!」
礼子が声を上げ、指差す方向を見ると。
「何だ?」
山頂の一部が淡い光を放っていた。
魔導投影窓越しにそれを見つめた仁は、仁ダブルの口を借りて推測を述べた。
「……もしかして転移門なのか?」
「こんな形状で、ですか?」
「そうだ。岩の表面でなく、内部に格納されているんだろう。少し様子を見てみよう」
仁ダブルは、ベリアルスを呼ぶと、自分とベリアルスを包み込む障壁を展開した。
そして数秒後、その場所に1体のゴーレムらしきものが現れた。
「来訪者よ、そなたたちの目的は何だ」
この問いに、ベリアルスが反応した。
「先程も言ったように、私はアルシェルの兄です。妹を連れ戻しに来ました」
この回答を聞いたゴーレムは大きく頷いて見せた。
「なるほど、それは理解した。では、残りの2人は?」
「地下の魔物についての情報が欲しくて来ました。また、知り合いの『700672号』から、そちらにいるのがもしかして『始祖』の従者ではないかと言われていますが、いかに?」
仁ダブルの『始祖』という言葉を聞いた途端に、ゴーレムの反応が変わった。
「『始祖』だと? ……貴殿は何を知っている?」
「あまり多くは。でも、これを見てもらえますか?」
仁ダブルは、ここぞとばかりに、700672号から借り受けた『クリスタルキューブ』を出して見せた。
「それは……ミティアナイトか。わかった。貴殿らを受け入れよう。ここへ来たまえ」
ゴーレムが仁たちを認め、招いた。
仁ダブルたちは、一瞬顔を見合わせたあと、頷きあってゴーレムにゆっくりと近付いていく。
「そう警戒せんでも、何もせんよ。先に行って待っている」
ゴーレムはそう言うと姿を消した。転移門が転極したらしい。
「……ジン殿、行きましょう」
ベリアルスは、罠かもしれないという思いよりも、妹アルシェルに会えるかもしれないという思いの方が強いようだ。
その気持ちを表すかのように、真っ先に転移範囲と思われる、微光を放つ地面に踏み込んだ。続いて仁ダブルと礼子が。
そして3人はエルラド山山頂から消えた。
* * *
「……変わった仕様だな」
転移した先も当然、転移門の中。
仁は、仁ダブルの目を通じて、『変わった仕様』の転移門内部を観察していた。
「……ああ、ここが受入機か。ふうん、効率よさそうだな……」
そんな観察を怠らない仁ダブルの前に、
「……ようこそ、ジン殿」
700672号とそっくりな外観の『何者か』が現れた。先程のゴーレムが後ろに控えている。
「私は『600012号』。おそらく見当は付いているだろうが、『主人』に仕えていた従者だ。今は自動人形の身体になっているがね」
確かに、『600012号』と名乗った彼の身体は自動人形……、それもあまり出来の良くないものであった。
「俺は……」
仁ダブルが口を開きかけると、600012号はそれを遮り、
「魔法工学師、ジン殿だな。そしてそちらはレーコ殿」
と、仁と礼子を見知っているような物言いをした。
「これでも外の世界に斥候を放っておるからな。ジン殿のことはかねてより存じておる。会いたかったよ」
そう言って顔を歪めた。……どうやら、『笑った』らしい。
「えーと、俺たちより前に来た者がいたはずですが」
ベリアルスの姿が見えないので、仁ダブルは600012号に尋ねてみる。すると、彼の顔つきが明らかに変わった。
「そのことについてなのだが……」
600012号は小声でそう言うと、仁ダブルに椅子を勧めた。礼子は自動人形と知っているからか、何も言われていない。
仁ダブルも自動人形の身体なので疲れることはないが、敢えてばらす必要もないので、素直に礼を言って腰掛けることにした。
「まずは詫びねばならない」
いきなり600012号が頭を下げたので仁ダブルを操縦している仁は面食らった。
「いったいどういうことですか? 説明してください」
「もちろんだ」
* * *
「……ここは?」
一方、仁たちに先駆けて転移門を通過したベリアルス。
「……よく来た」
彼の前に現れたのは、顔の上半分を覆う仮面を付けた男だった。いや、声から男と判断しただけで、その正体はわからない。
「貴方は?」
「吾は60……いや、『ロクレ』と呼んでくれ」
いつもお読みいただきありがとうございます。
20150704 修正
(誤)そう警戒線でも、何もせんよ
(正)そう警戒せんでも、何もせんよ
(誤)真っ先に転移範囲を思われる
(正)真っ先に転移範囲と思われる
(旧)調べてみることにした、その瞬間。
(新)調べてみることにした、その時。
(誤)「……ようこそ、ジン君」
(正)「……ようこそ、ジン殿」
20150705 修正
(旧)アルシェルの髪飾りに付いていたルビー
(新)よくよく調べてみた結果、間違いなくアルシェルの髪飾りに付いていたルビー
(旧)とにかくここをアルシェルが訪れたらしいこと
(新)とにかくここを彼女が訪れたらしいこと