↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
24 魔導砦篇
821/4420

24-07 仁とエルザ、セルロア王国で

 同日午前9時、王宮正門前には人だかりができていた。

「殿下、グロリア、シンシア、ボールトンの3名、これより帰国の途につきます」

「うむ、道中気を付けてな」

 クライン王国のアーサー第2王子とその付き人兼家庭教師のリオネス・アシュフォード、それに女性近衛騎士隊長、ジェシカ・ノートンに見送られ、グロリア以下3人は馬に乗りセルロア王国首都エサイアを発つ。

 トーレス川を渡らず、北東へ向かい、クライン王国に入るルートを行く予定だ。

 各国代表のほとんどが彼等を見送りに来ていた。

「ジン殿、フリッツ殿から聞いた。剣……いや、刀、ありがとう」

「エルザ様、ペンダントトップ、ありがとうございました」

「ジン殿、エルザ殿、またいつかお会いしたいものです」

 仁たちをはじめ、皆に挨拶していく3人。

 ショウロ皇国の面々には特に丁寧な挨拶をしている。

「陛下、フリッツ殿と『ゴリアス』には道中いろいろとお助けいただきました。感謝の言葉もございません」

「フリッツ殿。ご縁があったらまたお会いいたしましょう」

 シンシアは少し涙ぐんでいるようだった。


「……シンシアさん、兄様が好き、なのかな」

「うーん、なんとなくそんな雰囲気だな」

 少し離れた場所で、他の面々に聞こえないよう、小声で会話を交わす仁とエルザ。

「でも、国が違うし、どっちも軍人。普通は、無理」

「そうなんだろうな……」

 少し寂しい思いの仁。

 自分は、ショウロ皇国出身のエルザ・ランドルと婚約をし、周囲も皆祝福してくれたのに、道ならぬ恋(?)に悩む者もいるのだ。


 そして3人は、セザール王から贈られた馬に跨り、手を振りながら皆の視界から消えていったのである。

 仁は、念のために、『空から』彼等の旅路を見守るように、老君に指示を出す予定だ。


 グロリア一行は馬を急がせる。そして見送りの人たちが見えなくなるほど距離が離れると……。

「ううむ、この『刀』! これは素晴らしい!」

 贈られた刀を馬上で抜き放ち、ためつすがめつ眺めて楽しむグロリアの姿が見られたという。


*   *   *


「今日の仕事は『鍵璽(けんじ)』だったな」

 見送りを終え、王宮に戻りながら仁が呟いた。

「はい、お父さま」

 礼子が答える。

「今日は、リシャール王の診察で間違いない?」

 エルザも、斜め後ろを歩くエドガーに確認した。

「はい、間違いございません」

 と、いうことで仁とエルザは、王宮の通用門をくぐった後、右と左に別れたのである。


「ジン殿、今日はよろしくお願いする」

「ジン殿、頼みますぞ」

「初めまして、『魔法工学師《マギクラフト・マイスター》』、ジン・ニドー卿」

 王宮2階にある、窓のない小会議室で仁と礼子を迎えたのは、新王セザールと、親衛隊隊長に昇格したカーク・アット、それにもう1人。

「自分は、フォルツ・ダラント・アルファと申します。本日はよろしくお願いします」

 セルロア王国の主席魔法工作士(マギクラフトマン)であった。

「これが『鍵璽(けんじ)』だ」

 ビロードのような布に包まれたそれは、深い緑色をしている。仁はその色に見覚えがあった。

「もしかして……エルラドライトでできているのですか?」

「さすがだな。その通りだ」

 セザールが頷いた。

 仁は、ここで初めて『鍵璽(けんじ)』を間近で眺める機会を得た。

 それは長さ10センチ、直径3センチほどの円柱状をしている。もちろん単純な円柱形ではない。複雑な彫刻が施されており、そう簡単に模造品を作れないようになっている。

 そして、『璽』、すなわち『印章』であるから、その役目……この世界では主に『封蝋』に型を付けるという役目がある。

「ジン殿、これの働きを調べていただきたいのだ」

 セルロア王国といえど、『鍵璽(けんじ)』に匹敵する認識方式を持った魔導具はないのである。

 この機会にセザールは、そうした認識方式をもっと一般的にしたいと考えていたのだ。

 フォルツ・ダラント・アルファと仁は、協力して『鍵璽(けんじ)』の働きを調べていく。

「何にせよ、これだけの大きさのエルラドライトというのが一つの条件ですな」

 フォルツが『鍵璽(けんじ)』を明かりにかざしながら呟くように言った。

 エルラドライトは、大きくても直径2センチほどのものがほとんどで、長さ10センチ、直径3センチの円柱状のものは知られていない。

 つまり、これは世界最大のエルラドライトである。

「そうですね。ここを見てください。魔力を集束するようになっている。増幅した魔力を離れた魔導具やゴーレムに届かせるためでしょう」

 仁がその機能の1つを看破した。

「なるほど、さすがですな」

 更にもう1つ、『鍵璽(けんじ)』の機能として、特定の『魔鍵語(キーワード)』代わりになるということがわかった。

 この2つの機能により、『鍵璽(けんじ)』は特定の魔導具を起動することができるわけだ。

「だが、それならば、『鍵璽(けんじ)』がなくてもできるということか?」

 説明を聞いていたセザールが仁に質問してきた。仁は推測を述べる。

「ええ、おそらくは。ですが、もう1つ2つ、保護措置は取られているでしょうから、『鍵璽(けんじ)』無しでそう簡単に起動はできないと思いますよ」

「そうだろうな」

 仁とフォルツは更に調査を進めていくのだった。


*   *   *


 王宮1階奥、南東側にリシャール先王の療養室はあった。

「失礼します」

「ようこそいらして下さいました、エルザ様」

 ノックをし、病室に足を踏み入れたエルザを出迎えたのは侍女。名はメルフェ。赤毛の美人で、メリハリのあるボディラインをしている。

 王妃亡き後、リシャールは後継者争いの種にならないよう、後添いを娶ることはなかったが、代わりにこの侍女を可愛がっていたようで、メルフェは甲斐甲斐しくリシャールの世話を焼いていた。

「リシャール様のご様子は?」

 早速質問に入るエルザ。

「はい、ここ数日は、お顔も穏やかになられまして、落ち着かれたようです。まだお一人では歩けませんが」

 メルフェの答えを元に、エルザは治療の計画を考えていく。

 毒物の禁断症状も無くなり、治療はやりやすくなっていた。

 4日ほど前、魔結晶(マギクリスタル)にリシャールの『知識転写(トランスインフォ)』を密かに行い、老君に解析を委ねたところ、記憶の欠損は少なかったのである。

 ということは、主に運動を司る箇所がダメージを受けているということで、気長にリハビリを続けることで何とか回復させられるかどうか、といった状況であった。

 今のままでは下の世話もメルフェにしてもらっているのだが、風呂・着替え・食事、それにトイレくらいは1人でできるように回復させてやりたかった。

「……父さま、も……」

 エルザは、国元にいる父を思い出した。

 父ゲオルグも、脳に障害が残り、日常生活に支障が出ていたが、エルザの治療と、妻マルレーヌの看護の甲斐あって、日常生活は何とか送れるようになっていた。

 ただ、ゲオルグの場合は記憶の欠損も多く、領地経営に必要な知識がほとんど無くなり、後始末をする長男モーリッツは苦労していたが。


 リシャールは、身体機能は問題ないが、寝たきりのままだと筋肉が落ち、起き上がれなくなるので、侍女メルフェの介添えで1日2時間、リハビリに勤しんでいた。

「身体のリハビリはそのまま続けて下さい。次は……」

 エルザは、仁から聞いた、認知症のリハビリメニューを口にする。

「音楽を聴くというのはいいと思います。また、簡単な手作業もいいでしょう」

 いっぺんにいろいろなことをさせるのは逆効果なので、まずはその2つを勧めた。

 音楽に関して、メルフェは竪琴が得意だということなので、リシャールが好んだ曲を弾いてもらえばいいとエルザは説明。

 手作業についてはいろいろ考えたが、仁の助言で、オーナット(クルミもどき)の実を2個、掌で転がすように回す動作を推奨した。


「ありがとうございました」

 深々とお辞儀をするメルフェに見送られて、エルザは療養室を後にしたのである。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20150528 修正

(旧)4日ほど前、魔結晶(マギクリスタル)にリシャールの『知識転写(トランスインフォ)』を行い、

(新)4日ほど前、魔結晶(マギクリスタル)にリシャールの『知識転写(トランスインフォ)』を密かに行い、


(誤)どっちも軍属。普通は、無理

(正)どっちも軍人。普通は、無理

 軍属って、軍に属する、という意味ではなく、軍人以外の軍に属する人でした。


 20171204 修正

(誤)そうですね。ここを見てください。魔力を収束するようになっている。

(正)そうですね。ここを見てください。魔力を集束するようになっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 『何度目かの読み返しの最中です』 >リシャールは、身体機能は問題ないが、寝たきりのままだと筋肉が落ち、起き上がれなくなるので、侍女メルフェの介添えで1日2時間、リハビリに勤しんでいた。 >…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。