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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
23 セルロア王国式典篇
813/4423

23-49 即位宣言/婚約宣言

「陛下!」

 振り向き、リシャールの姿を見た閣僚たちは驚きの声を上げた。

「皆の……者。次の王はセザール……だ」

 リシャールはそれだけを言うと、力尽きたようにがっくりと膝をつきかけた。

 咄嗟に支えるエドガー。

 だが、リシャールは何とか踏みとどまった。

「……この国を……たのむぞ」

 セザールはじめ、集まった閣僚全員が頭(こうべ)を垂れた。王弟アランとオランジュ公、それにスケーブを除いて。

 その言葉を最後に、会議室をあとにしたリシャールは、扉が閉まると今度こそ倒れ込んだ。

「陛下……」

 侍女が駆け寄り、リシャールを抱え起こした。

「……お疲れ様でした」

「……う、む……」

 エルザは再度治癒魔法をリシャールに施す。そしてエドガーも再びリシャールを抱え、治癒室へと戻っていったのだった。


*   *   *


 会議室は大騒ぎになっていた。

 リシャール王が、その口でセザールを次の王だと宣言したのである。

「これでどちらが嘘を言っているのかはっきりしましたね、叔父上」

 今度、顔色を無くしたのは王弟アランの方であった。

「く……」

「その『鍵璽(けんじ)』も盗み出したものでしょう。お返しください」

 半歩踏み出すセザール。勝利は目の前であった。


「……エルザ、よくやったなあ」

 傍聴席で、ラインハルトはほっとした顔をしている。

 だが、アーサー王子はまだ渋い顔。

「……誰も気付かないのか? このままではまずい」

「え? どういうことですか?」

 仁が尋ねると、アーサー王子は切羽詰まった声で言った。

「『崑崙君』、セザール王太子が危険だ! 向こうは王弟、オランジュ公、それにスケーブとやらがいるのに、王太子は1人だ」

 それを聞いた仁は、咄嗟に礼子へと指示を出した。

「礼子、王太子を守れ!」

「……はい、お父さま」

 本来なら仁のそばを離れたくない礼子であるが、仁の命令は聞かざるを得ない。刹那の躊躇をしたあと、できるだけすぐに終わらせようと、礼子は20パーセントの出力で飛び出した。

 傍目(はため)には瞬間移動したかのごとく、礼子は王太子の傍らに移動。そして彼女は、背後のスケーブが放った『風の刃(ウインドカッター)』を感知した。

 正にギリギリのタイミングである。

「お父さまのお言いつけです。させません」

 礼子は自らの身体を割り込ませ、『風の刃(ウインドカッター)』を防ぐ。……いや、腕を振り切って力業で『風の刃(ウインドカッター)』を消し飛ばしてしまった。

 驚愕するスケーブ。

 すかさず礼子は更に踏み込み、スケーブに『麻痺(パラライズ)』を浴びせた。

「ぎゃっ!」

 短い悲鳴を上げ、気絶するスケーブ。ここまでおよそ2秒。

 王太子セザールと王弟アランは何が起こったかわかっていない様子だ。

 が、オランジュ公は違った。

 スケーブの奇襲が失敗に終わったことを見て取ると、一目散に逃げ出したのである。

 束の間、追って捕らえようかと考えた礼子であったが、ここは仁の指示、『王太子を守る』ことを優先した。

 魔法障壁(マジックバリア)を展開し、王太子を包み込む。そうしてから十数秒後、ようやく近衛兵がやって来た。

「殿下、いえ、陛下、ご無事ですか」

「うむ、私は無事だ。……スケーブを捕らえよ」

「はっ」

「レーコ・ニドー媛、『崑崙君』、感謝する」

 そして王弟、アランに向き直る。

「叔父上、『鍵璽(けんじ)』をお渡しいただきましょう」

 近衛兵に取り囲まれたアラン・デモヌは、最早為す術もなく、『鍵璽(けんじ)』をセザールに手渡したのである。

 セザールは、手にした鍵璽(けんじ)を掲げて見せる。

「これで私が正式な国王である!」

 堂々の宣言。集まった閣僚からは一斉に拍手が行われた。

 そして、この後、かなり簡略されてではあったが即位式が執り行われ、セザール王太子はここに正式なセルロア国王、『セザール・ヴァロア・ド・セルロア一世』となったのである。


 こうして、セルロア王国新国王騒動は一応の終わりを告げたのであった。


*   *   *


「エルザ、偉いわ!」

 少し情勢が落ち着き、各国代表たちは迎賓館に戻っていた。

 そこでは、陰の立て役者であるエルザに称賛の嵐が贈られていたのである。

「あ、ありがとうございます」

 エルザは顔を紅潮させ、恥ずかしそうだ。

 隣に座る仁も嬉しそうにしている。

 そして、周囲が少し静かになったときに、仁はここぞとばかりに口を開いた。

 この場をのがしたら、機会を失うと思ったのだ。

「えーと、皆さん、この機会にお知らせしておきます。自分とエルザは、こ………………」

 とはいえ、肝心の言葉がなかなか出て来ない。

 一同は、おおよその見当が付いたので、しーんと静まりかえり、仁に注目した。

 そして仁は注目されたことで更に緊張の度合いを強める。

「こ……こ……」

 そこで仁は目を瞑り、思い切って最後の単語を口にする。

「……婚約しました!」

 一瞬遅れて、拍手が響き渡った。

「おめでとう」

「おめでとう!」

「ようやくね」

「若いっていいわねえ」

 等、温かい言葉が贈られた。

 仁もエルザも顔を赤らめ、ただ黙って頭を下げたのである。


 それからは、より一層、くだけた雰囲気になった。

 仁は顔見知りのテオデリック侯爵やフィレンツィアーノ侯爵、ブルウ公爵、それにアーサー王子から改めてお祝いの言葉をもらったし、エルザはエルザで、女皇帝やラインハルトに祝福されていた。

「……これからが大変よ」

 話題は、セルロア王国の今後についてとなっていく。

「非常事態だったから、細かいことを言わずに皆動いていたけれど」

『ゴリアス』を動かしたり、船に避難させたり。エルザの治癒への協力もそうだ。これらは無償で行われるべきものではないのである。

「食糧以外、セルロア王国には十分な蓄えがあるとは思うけど」

 賠償金を各国に支払ったなら、国が傾きかねない。それほど、今回の式典における不祥事は大きかった。

「普通に国際問題ですものね」

 女皇帝の言は、その場にいる全員の思いを表していた。

「まだ帰れないわね……」

 後処理、そして新王との条約締結など、なすべきことは山積みであった。

「それに、オランジュ公がどうなったのかも気になりますね」

 と、ラインハルト。この場にいる各国代表の中に、フランツ王国代表、つまりオランジュ公だけがいない。

「少し気になりますね」

 アーサー王子が難しい顔で言った。彼の推察力は、昼間の一件で証明済みだ。

「今夜も気を付けた方がいいかもね」

 女皇帝の呟きにより、浮ついていた気分が一気に覚める。

「……ですな」

「そろそろ休み、明日に備えるとしましょうか」

 新王セザールは護衛の兵を派遣してくれてはいるが、なんとなく頼りない。

 一同、自分の部屋へと引き上げていく。残ったのは仁とエルザ、それに女皇帝とフリッツ。


「ジン君」

 他国の代表たちがいなくなったため、いつも通りの口調に戻った女皇帝は、仁の手を取った。

「エルザを幸せにしてあげてね」

「はい、必ず」

「……ジン君が選んでくれたのが我が国の子だったのは素直に嬉しいわ。けれど、それに囚われないでちょうだいね」

「陛下?」

「貴方……『崑崙君』は、広い視野を持って行動して欲しいの。ショウロ皇国を贔屓してくれなくていいということよ」

 世界を豊かにしてくれることが、結局ショウロ皇国、いや世界各国の発展に繋がるのだから、と締めくくる。

「ジン殿、妹をよろしくな。貴殿になら任せられる。……エルザ、幸せにしてもらえ」

「……兄様」

 そして女皇帝とフリッツは部屋に戻っていった。

「……俺たちも戻るか」

「……うん」

 仁はエルザの肩を抱き、2人は並んで廊下を歩いて行った。礼子とエドガーは音を立てないようにそっと後を付いて行く。

 ようやく平穏の訪れたセルロア王国。

 夜空には月と明るい星とが並んで輝いていた。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20150520 修正

(誤)障壁(バリア)を展開し、王太子を包むこむ。

(正)魔法障壁(マジックバリア)を展開し、王太子を包み込む。

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― 新着の感想 ―
クズだけど最後は格好良かったです。クズだけど。 これはあれですね、悪い奴がちょっと良いことすると大幅に株が上るやつです。しかし、騙されてはいけません。それだけで今までやったことが無かったことにはなりま…
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