23-39 手当/発見
「マキナ殿、おかげで助かり申した」
「何とお礼を言えばいいか」
「この御恩は忘れませぬ」
現場を見て回っていたデウス・エクス・マキナは、居並ぶ各国の重鎮からお礼の言葉を受けていた。
「国に戻り次第、礼を贈りたいのだが……」
というガラナ伯爵の提案や、
「国を挙げて歓迎しますので是非我が国へお越しを願いたい」
というオランジュ公の誘いも断り、一つとして受けることはなかった。
そして誘いに辟易した体を装い、ゴーレムたちを引き連れて、どこへとも無くまた姿を消したのである。
マキナを見失った一同は、仁を質問攻めにした。
「ジン殿! 彼、マキナ殿が兄弟子というのは本当かね!?」
「彼の住まいをご存じないかな?」
「貴殿も彼のような物を作れるのかね!?」
等、等、等。
だが仁は困った様な笑顔を浮かべ、
「そのことはいずれ、はっきりさせます。それまでお待ち下さい。それよりも今はするべきことがあるはずです」
やんわりと躱し、同時に正論を述べたので、列席者たちも考えを改めた。
「……しかし、何かするにしても、セルロア王がいなくては始まらん」
それもまた真理。この国のTOPがいない状態では、できることは限られてしまう。
仁は『コンロン2』にいる間に、老君から概略の説明は受けていた。
離宮のどこかに隠し部屋といえるものがあり、そこに王と王太子がいるはずだが、未だ発見できず、と。
となると、考えられるのはまず地下の隠し部屋、次いで離宮以外の場所である。
それは老君も気付いており、ランド部隊による捜索範囲を拡大しているところであった。
一方、エルザは怪我人の手当を行っていた。
場所は迎賓館。こちらの建物はほとんど無傷で済んだからである。
一方、ギョーム離宮は半壊してしまっていた。そちらは瓦礫の撤去作業が続いている。
ショウロ皇国女皇帝からも負傷者の治療を頼まれており、エルザの手腕は各国首脳たちに高く評価されていた。
21名の重傷者には、命に関わる怪我人も4名おり、今のエルザでは外科系最高度治癒魔法『全快』を使ったら、とても全員を治癒して回ることはできなかっただろうが、『快復』の重ね掛けでなんとか軽傷程度まで回復させることができている。
セルロア王国にも治癒師はいるので、主に軽傷者の治療に回ってもらっていた。
* * *
「……ふう」
「お疲れさん、エルザ」
魔力を使った反動で顔色が若干悪くなったエルザを労い、仁は『蓬莱島特製』ペルシカジュースを差し出した。
自由魔力素を豊富に含み、体内で不足した魔力素を補ってくれる飲み物だ。
「ありがとう、ジン兄」
一息ついたエルザは仁に礼を言った。
「なんの」
(……で、『アルシェル』はどうだった?)
途中で声のトーンを落とす仁。フリッツが助け出してきた『アルシェル』も、エルザが同様に診察し、治療していたのである。
(……ん、やっぱりホムンクルスに間違いない)
エルザも仁と同様に、小声で答えた。
(改めて、詳しく診察することができた。やはり人間とは違う。でも、潰された左腕は治癒魔法で治った。これは大きな発見)
ホムンクルスにも治癒魔法が効く。つまり、人間に準じた体組織を持っていると言うことである。
(『知識転写』は?)
(今の私ではレベル6がやっと。でも、やってみた)
エルザは、こっそりと『知識転写』を行い、その情報を転写した魔結晶を仁に差し出した。
仁はそれを受け取る。あとで老君に解析させる予定である。
* * *
『ギョーム離宮』から50メートルほど離れた場所に、小さな建物があった。
一見すると教会にも見えるが、セルロア王国、いや、この世界では宗教はほとんど普及していないので、別の用途であるということがわかる。
「ここはなんだか怪しいですね」
アンが言った。老子とアンも、王と王太子捜索に加わっていたのである。
その建物そのものは例に漏れず、『リヨン』が暴れたことにより僅かに壊れてはいたが、全体的に頑丈な作りで倒壊の心配はなさそうであった。
「……違和感があります」
アンがぽつりと言った。
「ええ。建っている位置。建物のデザイン。堅牢度。これだけ浮いていますね」
老子も同意する。
「とにかく調べてみましょう」
まずは扉を開こうとしたが、びくともしなかった。
老子やアンがフルパワーを出せば簡単に扉を破壊して中に入れるだろうが、周囲には人が大勢いるため、力業以外の方法を考えざるを得なかった。念のため『不可視化』も発動。
「この扉は魔力で開ける方式なのでしょうね」
「要するに、魔力素で動いていた機構がどこかおかしくなった……といったところでしょうか」
建物の周囲をぐるっと回ってみる。と、ちょうど真裏に、それらしい魔導装置を見つけた。
「どうやらこれらしいですね。調べてみましょう」
ちょっと調べただけで、動かない原因は判明した。動作させるための魔力素が空っぽだったのである。
魔導士は、己の精神波を用いて自由魔力素を集め、魔力素に変えている。
この時の魔力素は、『術者色』に染まった魔力素で、術者以外の制御は受け付けない。
が、魔力貯蔵庫の場合は、『術者色』の無い部分だけを蓄えていると言っていいだろう。
そうでなければ、魔力素の補充は製作者にしかできないことになり、それは好ましくない。
ゆえに、多少効率は落ちるものの、魔力素の共通部分……電気でいうなら直流成分……だけを蓄え、利用するのが魔力貯蔵庫仕様の魔導機である。
閑話休題。
老子は自らの魔素変換器で自由魔力素から変換した魔力素を放出し、壁の奥に仕込まれた魔力貯蔵庫に充填していく。
十数秒でそれは完了。
「これで開くはずです」
表に回り、扉の前に立つ。だが扉は反応しなかった。
「……王家の者にしか開けられない可能性もありますね」
アンの言葉に、老子は頷かざるを得ない。
登録された魔力パターンにのみ反応するセキュリティを仁は開発していたが、これもそれに準ずるのであろうか。
「だとしますと、この建物はかなり重要なもの、といえるでしょう。一体何が隠されているのか……」
老子もアンも、王と王太子を捜しているとはいえ、最優先事項は仁である。
この謎の施設をそのままにしておくことで、主人である仁にとって将来的に不利になる可能性が1パーセントでもあるならば、その正体を暴くことが王族の捜索よりも重要であった。
幸い、周囲に人はいるものの、この建物が重要なことを知っている人間はほとんどいないのだろう、調べている老子とアンを咎めるものはいない。
これ幸いと、老子は扉の開閉機構を調べていく。
「『分析』『追跡』『精査』」
魔力の流れを辿って構造を調べていく。魔力素を充填したからこそ可能になったことだ。
「……わかりました。ここが認証の魔導装置ですね。本来なら何か『鍵』になる魔導具を差し込むようですね」
仁が開発したような、魔力パターン検出方式ではなかった。が、そうした、『鍵』方式の方が、むしろ厄介ともいえる。
だが、老子は並の自動人形ではない。かつて、『デキソコナイ』が施したセキュリティや罠をくぐり抜けたこともあるのだ。
「……ありました。認証部分です。こいつを騙してやれば……『書き込み』」
老子は、認証箇所をパスし、その先の魔導装置に動作命令を与えることで開閉装置を作動させた。
こう書くと簡単そうだが、魔導装置を特定し、離れた距離から『書き込み』を行うなどということは、仁とその技術を受け継ぐ者くらいにしかできない芸当である。
扉はゆっくりと開いていった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20150510 修正
(誤)かつで、『デキソコナイ』が施したセキュリティや罠をくぐり抜けたこともあるのだ
(正)かつて、『デキソコナイ』が施したセキュリティや罠をくぐり抜けたこともあるのだ
(誤)この建物が重要なことを知っている人間はほどんどいないのだろう、この建物を調べている・・・
(正)この建物が重要なことを知っている人間はほとんどいないのだろう、調べている・・・
20150511 修正
(旧)セルロア王国では宗教はほとんど普及していないので
(新)セルロア王国、いや、この世界では宗教はほとんど普及していないので
(旧)周囲には人が大勢いるため、力業以外の方法を考えざるを得なかった。
(新)周囲には人が大勢いるため、力業以外の方法を考えざるを得なかった。念のため『不可視化』も発動。
20150530 修正
(誤)今の私ではレベル4がやっと。でも、やってみた
(正)今の私ではレベル6がやっと。でも、やってみた
14-06でレベル5まで使えてました。