22-14 魔族領へ
『カプリコーン1』を極寒地対応仕様にすることにした仁。
「本当なら6脚か8脚にしたいんだがなあ」
制御系の構築が間に合いそうもないのである。4足歩行なら馬の動作が参考になるのだが、8足の哺乳類はいないので、1からシミュレートしていくとなると今回は間に合わない。
「ということで足を大きくする」
踏み込んだときに雪面に嵌り込んで抜けなくなるのを防ぐこと、氷などの上を歩くときに少しでも圧力を分散させるためだ。
今までの倍の面積にまで拡大。
更に、安定性を増すためにジャイロスタビライザーも追加搭載した。
「あとは……短距離でいいから飛べた方がいいな」
クレバスなどに落ちたりした時を考えると、速度は出なくても飛べた方がいいと、力場発生器を装備する。
重量が重いのであまり長時間の飛行には向かないが、吹きだまりからの脱出などには十分すぎる機能である。
「そして居住性だな」
衣食住のうち『住』である。
暖房効率を上げるため、窓は二重窓にし、内装にも断熱材を追加した。
主出入り口もエアロック風とし、外扉が開いているときは内扉が開かないように改造。
これにより若干室内が狭くなるが許容範囲だ。
そして『食』。いつでも温かいものを口にできるよう、保温庫も追加。
レンジも入れ、食糧も十分積み込んだ。もっとも、小型転移門により、いつでも食材は送り込めるのだが。
昼食を挟み、作業は進められていく。
最後は衣食住の『衣』だ。
「ジン兄、これでどう?」
「なかなかいいと思うんだけどね」
エルザとサキには、防寒服を作ってもらっていたのである。
素材は岩氷ウサギと雪虎の毛皮。特に雪虎の毛皮は、魔物素材なので高機能である。
具体的に言うと、特定の魔力素を与えると発熱してくれるのだ。
デザインは2人の合作だそうで、なかなかいい。
雪虎の毛皮で作られた内側がボアになったズボンと、裾の長いコート、手袋、ブーツ。
虎縞がいいアクセントになっている。ちょっとだけ山賊っぽいが。
そして頭には、岩氷ウサギの毛皮で作った耳当て付き帽子。軽くて暖かい。
「おお、こりゃあいいな」
「ん、まずまずの出来」
「お父さま、こちらもできました」
そして礼子には紫外線避けゴーグルを作ってもらった。
闇属性の魔結晶を薄い板状にしたものがレンズだ。割れたときの飛散防止に、透明な地底蜘蛛樹脂でサンドイッチしてある。
「お、これはいいな」
眼鏡を掛けたサキには、専用の度付きゴーグルを。
「くふ、なんだか悪いね。ボクだけ別あつらえなんてさ」
そう言いながらもサキは嬉しそうだった。
「ジン、この銃はどこにしまっておけばいいかな?」
そんなサキからの質問が来た。
「ああ、そうか……」
銃を収納できるホルスターが必要だと言うことに気が付いた仁。
礼子はエプロンのポケットに入れるそうなので、エルザにも手伝ってもらい、急いで3人分用意した。
「うん、いい感じだ」
試しに腰に銃を下げた仁は、バランスを確認し、その出来に満足した。と同時に、気が付いたことがある。
「あー……銃の引き金に安全装置としてロックが必要だな」
ホルスターから銃を抜いたときに、うっかり引き金に触れてしまう可能性があるのだ。
「じゃあ、ここをこうして……」
切り替えダイヤルにもう1つ、0という作動しないポジションを設けることにした。
速射性では劣るだろうが、ミリオタでない仁にはこのあたりが精一杯であった。
「さて、これで仕度は調ったかな?」
「そうですね、装備に関してはよろしいのでは?」
仁と礼子は頷きあった。
『御主人様、今回も魔族領を通るわけですから、彼等と接触しますよね?』
老君からの、質問と言うより確認。
「ああ、そのつもりだ。カプリコーン1は彼等もよく見知っているしな」
『でしたら手土産を持っていくのがよろしいかと』
「それもそうだな。場合によっては道案内を頼むかもしれないし」
そうなると、何を土産にすればいいか、仁は考え込んだ。
「そうだ、ジャガイ……トポポを持っていこう」
エリアス王国で購入したトポポを種芋にし、魔族領で栽培すれば、更に食糧事情はよくなるだろうと仁は考えた。
「栽培方法は『アグリー』に知識転写すればいいな」
仁のジャガイモ栽培についての知識は多くはないが、最低限の収穫は見込めるだろう。
『御主人様、それにペルシカの実が大量にあります』
蓬莱島のペルシカは四季生りで、魔力庫内の在庫が増える一方なのである。
『わざわざ積んでいくには及びません。転移門でお送りしましょう』
向こうに着いたら、積んできたふりをして、転移門から取りだして配ろうというわけだ。
「ああ、それがいいな。そうしよう」
これで大体のことが決まった。
「そうすると、出発は明日の朝。転送機でパズデクスト大地峡まで送ってもらい、そこからはカプリコーン1で進む。それでいいな」
『はい、いいと思います。ただ一つ。帰還用に『転送装置』をお持ち下さい』
老君は、700672号からもらった転送装置を解析し、同じ物を作り上げていた。その1つをカプリコーン1に搭載する。
これで、いざという時には転移で逃げることも出来るわけだ。
その日は、入浴して疲れを取り、ぐっすりと休む仁たちであった。
* * *
1月30日。
朝の8時、仁、礼子、エルザ、サキらは、研究所前庭に駐機しているカプリコーン1に乗り込んだ。操縦担当は前回同様ランド1である。
『では、転送します』
老君の声が響き、亜熱帯の蓬莱島から一面白一色の雪原にと一瞬で視界が切り替わる。
パズデクスト大地峡手前に出たのである。
「ジ、ジン、ここが魔族領なのかい?」
興奮したサキの声。
「いや、まだだ。このあたりはカイナ村の北……俺の管理地にあたる」
「そう考えると、ジン兄の領地って広い」
「ああ、だけど不毛の地だからな……」
開発が大変だろうと思われる。今の小群国は、そこまでするほど土地が足りないわけでもない。とりわけ、このあたりは冬期の環境もかなり厳しいのだ。
「まあいいや、大地峡を渡るぞ」
カプリコーン1が歩き始めた。
ジャイロスタビライザーも追加したので、かなり安定性がよくなったことが体感できる。
「ふうん、雪と氷に閉ざされた土地……興味深いね!」
サキは初めての景色にはしゃいでいる。エルザも窓の外をじっと見つめていた。
氷の張った岩の上も、カプリコーン1は安定した速度で歩行できる。
空は曇天。そのまま、時速30キロほどで進み続ければ、2時間ほどで地峡が最も狭くなった部分を通過する。
かつては岩の色が変わったことがはっきり分かったのだが、今は雪に覆われていてそれは無理。
「この目で見たかったね……」
仁が説明すると、サキは残念そうな顔をした。
カプリコーン1は順調に進んでいく。ちらちら雪が舞い降りてきた。
「早ければそろそろこちらのことを勘付いているだろうな」
昨年、仁と友好を結んだとはいえ、魔族もパズデクスト大地峡の警戒は怠っていないだろうから、カプリコーン1が発見されている可能性は高い。
別に敵対しに来たわけではないから、偵察隊が来てくれれば、むしろ混乱を広げずにすむというものだ。
そしてそれから20分くらい過ぎた頃。
「お父さま、前から誰か来ます」
助手席にいた礼子が、魔力探知機を見て報告した。
「多分魔族の偵察隊だろうが、警戒しておこう」
カプリコーン1は停止し、障壁結界を展開した。
そして10分。
「3人、こちらにやってきますね」
一番目のいい礼子が報告した。仁にも人影が見えるようになったのは更に5分後である。
「あれは……1人はベリアルスさんですね」
とすると、近付いてくるのは昨年知り合った『傀儡』の氏族の者たちらしい。
3人はカプリコーン1から50メートルほどを置き、立ち止まった。
仁も、礼子を出してこちらの意図を知らせることにした。
「礼子、頼む」
「はい、お父さま」
すぐさま礼子はエアロックから外へ出た。
その姿は非常に特徴的。ベリアルスはすぐに礼子だと気が付いた。
そして敵意がないことを示すために両手を挙げながら、ゆっくりと近付いて来たのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20150314 修正
(誤)そして頭には、岩氷ウサギの毛皮では耳当て付き帽子
(正)そして頭には、岩氷ウサギの毛皮で作った耳当て付き帽子