21-20 再会と教示、そして贈り物
「見せたいもの、ですか、貴方が、俺に? 何ですか?」
仁の言葉に、700672号は笑みを浮かべた。
「そう慌てなさるな。貴殿が伴われた女人を紹介しては貰えぬのか?」
そういわれ仁は頭を掻いた。
「……エルザです。俺の婚約者です」
700672号はエルザを頭の天辺から足の爪先まで、ゆっくりと目を動かしていった。が、その視線は決して不快なものではなかった。
「ふむ、以前貴殿が、出来の良い弟子であり、優れた治癒師であり、大事な家族、と言っていたのはエルザ殿のことだな?」
「じ、ジン兄!?」
思わぬ言葉が700672号の口から出て来たので、少々慌てるエルザ。
「ふふ、どうやらそうらしいな。……ふむ、『魔力過多症』は癒えているな。体内の魔力の巡りは至極良好だ」
「ええ、1つはそのお礼に伺ったのです」
「……ありがとうございました」
仁とエルザは700672号に向かい、頭を下げた。
「礼はいらぬ。吾もジン殿には世話になったからな。こうして歩き回れるようになったのもその1つだ」
そんな700672号の言葉を聞きながら、傍らでネージュも微笑んでいた。
「あ、あと、エドガーを紹介します。エルザが初めて作り上げた自動人形です」
「ほほう、初めてにしてこれだけの自動人形を……素晴らしい」
「そ、それは、ジン兄の指導が良かったから」
少し照れるエルザ。700672号は微笑みを崩さず、
「いや、それだけではない。細部にも手を抜かず、これだけの仕上げをすることができているのは紛れもなく貴殿の才能によるものだ」
と、結んだ。
その横で礼子は、ネージュと語り合っていた。いや、実際には、ネージュが一方的に喋り続けているのだ。
「父さま、あれから凄く元気になったの」
「歩けるようになったのよ! 頭もいっぱい撫でてくれるの!」
「この前なんて、わたくしの服を作って下さったの!」
それを聞きながら、礼子は相槌を打っている。
「ふふ、良かったですね」
「うん! それでね……」
そんな2人はそのままに、仁は700672号に、来訪の目的を告げることにした。
「見せてもらえるものにも興味がありますが、本日お伺いしたのは、自由魔力素について聞きたかったからです」
「ほう、自由魔力素とな。どういう事を聞きたいのだ?」
そこで仁は、エネルギーの枯渇について危惧していることを説明する。
「ふむふむ、なるほど。貴殿のいた世界ではそういう問題が。それで自由魔力素にも同じ事が起こるのではないか、と、そういうことだな」
「はい、そうなんです。他の事でしたら、ゆっくり研究して解明するんですが、この問題は放置しておくべきではないと思いました」
「その言や良し。教えよう」
そして700672号は、奥のテーブルに来るよう、仁を促した。エルザも付いてくる。仲良く話をしている礼子とネージュはそのままでいいと言っておいた。
テーブル上面は、魔導投影窓のようなものらしい。700672号が指を動かすと、そこに図形が描かれていく。
大きな丸と小さな丸がそこにあった。
「さて、吾がまず言えることは、自由魔力素は、物質とエネルギーの中間に位置する粒子ではないかということだ」
仁は量子力学には無知なので、その示唆に説明を付けられなかったが、何となくなら理解することができた。
「通常の物質の原子構造の中に入り込めるほど小さく、精神波で動かせるほど軽い。そして簡単にさまざまなエネルギーに変化させられる。これらから、我々はそう結論したのだ」
「なるほど、それはわかる気がします」
仁は頷いた。
「よろしい。我々も、証明するには至らなかった。ただ現象を検証し、他の仮説を潰していった結果なのだ。……まあ、ここまでは前置きだ」
そして700672号は、テーブルに表示させた図形を指差した。
「まず、自由魔力素がどこで生まれるか。それはここだ」
700672号が指差したのは大きな丸。
「……太陽、でしょうか?」
「然り。自由魔力素は太陽内部の反応により、光、熱、諸々の電磁波と共に生み出されている」
仁はそれを聞いて、1つの懸念が消えたことを感じた。
「と、いうことは」
「そう。枯渇することは考える必要がないということだな」
太陽が無くなってしまえば、自由魔力素も供給されなくなるわけだが、それは太陽系の終焉を意味し、単なる資源の枯渇には留まらない。
「数億年は大丈夫そうですね」
「うむ。吾の主人たちは使い放題に自由魔力素を使っていたが、枯渇する兆候は微塵も無かった」
仁は内心、胸を撫で下ろした。
「さて、次だ」
700672号は小さな丸を指差した。
「大きい方は太陽、そしてこの小さい方をこの星、アルスとする。太陽で生み出された自由魔力素は、光や熱と共に宇宙空間に放散されている。その一部はアルスにもやって来るのだ」
仁は無言で頷いた。
「惑星内部の構造や、含まれる物質、元素、そして自転により、北極では自由魔力素を引き寄せ、南極では自由魔力素を排除していると考えている」
「ははあ、なるほど」
「北極に引き寄せられた自由魔力素は、惑星内部で圧縮されるなどの作用を及ぼされ、魔結晶が作られる、と推測している」
確認する事は出来なかったが、と幾分残念そうな顔の700672号である。
「そうですか……」
残念ではあるが、仁の今後に障害があるわけではない。南極方面に自由魔力素が少ない理由もこれでわかった。
「この仮説とて、間違っている可能性もあるがな」
だが、仁が知りたかったこと、そして当面の問題は、自由魔力素の由来である。
「そうしますと、自由魔力素は太陽で作られ、惑星に引き寄せられ、我々の周囲に満ちている、ということですね」
「然り。太陽で生み出されている事に間違いはない」
その言葉は仁の危惧を完璧に拭い去ってくれた。
「ジン兄、よかった、ね」
エルザもほっとした顔である。
「それを伺っただけでも来た甲斐がありましたよ」
仁は頭を下げた。
「うむ、お役に立ててよかった」
そして700672号は、見せたいもの、と言った、その説明を開始した。
「以前、『デキソコナイ』を退治してもらった時に、『転送装置』の話をしたであろう? あの時、貴殿は所有していないような反応だったと記憶している」
転送装置は、あらかじめ決まった場所に、マーカーと呼ばれる目印を置いておくことで、そこに物体を送り込んだり呼び戻したりできる装置である。
仁が作った転送機では、マーカーを使わずに任意の場所に送り込めるが、呼び戻しはできない。
「ということで、最新型のものを組み立ててみた。もし良かったら解析し、応用して欲しい」
使って欲しい、ではなく、『解析して……』というあたり、仁のことをよくわかっている700672号である。
「ありがとうございます。ありがたく使わせていただきます」
仁はそれを押し頂いた。そして、自分も持って来た手土産を差し出す。
「遅ればせながら、これを持って来ました」
ペルシカジュースを見て、700672号の顔が綻ぶ。
「おお、これはありがたい。吾は、基本的に食事の必要は無いのだが、これは助かる。飲むと数日調子がよくなる」
元が植物由来のため、700672号と言えども合成できないものの一つらしい。
早速1本取り出し、飲み干す700672号。
「……うむ、やはり良く効くな。感謝する」
一息ついた700672号は、仁との話を再開する。
「理想は、己自身を任意の場所へと転送できる転送機なのだが、それは我等にも開発できなかったのだ」
「ああ、そうなんですか。俺も、それを作りたくて仕方ないのですが」
自分自身を転送、つまり『ワープ機関』である。これができれば、宇宙開発、宇宙旅行も夢ではない。
「うむ、ヘールからこのアルスまで、数年かけて宇宙を旅してきた時、主人たちはずっとそういう機関を開発すべく、研究を続けてきたのだがな……果たせなかった」
少し寂しげな700672号。
「……とはいえ、吾の主人たちも、昔日の面影を失っていたからな、無理からぬ事だったのかもしれぬ」
それを聞いた仁は、やはりワープ機関を作り出すのは、少なくとも転送技術の延長では不可能なのか、と少し気落ちしたのである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20150204 修正
(旧)枯渇する形跡は
(新)枯渇する兆候は




