表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
21 海運と遺跡篇(3457〜3458年)
701/4280

21-13 一安心

 高さ10メートルからの飛び込みは上手くやらないとダメージを受け、最悪の場合死に至ることもある。

 ロドリゴも例外ではなく、水面に身体を打ちつけ、気絶してしまった。

「……気持ちはわかるが、世話が焼けるな……」

 もう少し高度を落としてからにすれば良かったのに、と思う仁である。

 ロドリゴにしても、そんな高飛び込みの知識があるわけでもなく、純粋に娘を心配しての行動であるから仕方ないかとも思う。

 とにかく、高度を更に落とした仁は、2人の様子を確認する。

『シグナス』上のマルシア、そして海に浮かぶロドリゴ。

 2人とも意識を失っているようだ。特にマルシアは右腿に大怪我をしているようで、顔に血の気が無く、危険な状態に見えた。

「礼子、2人をこっちへ助け上げてくれ」

「はい、わかりました」

 力場発生器フォースジェネレーターを持つ礼子であるから、危なげなく2人をゴンドラへと運び込むことができた。

「ロドリゴさんは気絶しているだけかな。それよりもマルシアだ」

 右腿の裂傷は、出血は止まっているようだが、暖流とはいえ長いこと水に浸かっていたため、低体温症を起こしかけているようだ。

「……応急処置だけ済ませて、エルザに任せた方がいいかもな」

 エルザは、仁からの知識に加え、名治癒師サリィ・ミレスハンからも薫陶を受けているので、今や治癒にかけては仁を凌いでいた。

 そこで仁は、応急処置として『殺菌(ステリリゼイション)』で殺菌し、『快癒(リカバー)』で傷口だけは塞いでおいた。

「アロー、よくやったな、偉いぞ」

 仁は手放しでアローを褒め称えた。蓬莱島勢の誰よりも早く、マルシアを見つけ出したのだから。

「マルシアはこっちで治療する。店の者たちには心配しないよう伝えておいてくれ」

 仁は、アローにも戻るよう告げる。その際、ジェレミーとバッカルスには心配しないように、との伝言も忘れない。

「わかりました、製作主(クリエイター)様」

「よし、全速力で帰るぞ」

 高度を取る飛行船。走り出す『シグナス』。


力場発生器フォースジェネレーターも使おう」

 幸いと言うべきか、ロドリゴが気絶している今なら最高速を出せる。

 風避け結界も併用し、安全限界を超えた時速200キロを出す。これにより、遭難現場からポトロック市までの距離60キロを20分弱で飛翔した。

 陸地が見えてからは時速30キロほどに落とし、そのまま迎賓館の中庭に着陸する。

 わらわらと集まってくる衛兵、事務員、侍女たち。

 その中にラインハルトとエルザの姿もあった。時刻からいって、もう公用は終わったのだろう。

「エルザ!」

 着陸すると即、仁はエルザを呼んだ。

「ジン兄……遭難した人って……マルシアさん!?」

「ああ。詳しい話はあとだ。すぐ診てやって欲しい」

「ん。『診察(ディアグノーゼ)』」

 まずはその場で診察する。

「……動脈は傷付いていない。けど、脈拍が少ない。体温も低め。出血多量と軽度の低体温症、それに高カリウム血症のなりかけと判断する」

 高カリウム血症の原因は幾つかあるが、今回の場合、低体温症の影響及び、細胞内に存在するカリウムが、大きな怪我により血液中に浸出したことによると思われる。

 症状は不整脈や筋力低下など。

「急いで手当をしないといけない」

「わかった。……君、手当のための部屋を貸してくれたまえ」

 ラインハルトがその場に居合わせた係官に要請をした。それはすぐに聞き入れられ、マルシアとロドリゴは館内に運び込まれた。


「まず、身体を温めること」

 そう一言言ったエルザは、マルシアの身体に手をかざし、独自の治癒魔法を使った。

「『加温(ウォーミング)』」

 エルザは、これによってマルシアの身体を全体的に温めていった。


 エルザは、出血で失った水分を補給させるため、非常用として用意してあった蓬莱島謹製の『ペルシカジュース』をマルシアに飲ませるべく、吸い飲みを用意していった。

 適当なものが無かったので、銀の塊を用意してもらい、『変形(フォーミング)』で吸い飲みを形作る。それに温めたペルシカジュースを入れ、マルシアに少しずつ飲ませる。

 水分・栄養補給と同時に、身体の中から温めるわけだ。

 こうした処置のあと、エルザは治癒魔法を施す。

「『完治(ゲネーズング)』」

 内科系最高度治癒魔法。これにより、低温で弱った内臓の働きを元に戻すわけだ。さすがに失った血液がいきなり戻ることはないのだが、それでもマルシアの血色は目に見えて改善した。

「『診察(ディアグノーゼ)』」

 低体温症の治療の後、右腿の裂傷の詳細な診察を行う。

「……大丈夫。さっきも言ったとおり、大きな血管や神経は傷付いていない。ジン兄の応急手当も適切だった」

「そりゃよかった」

 応急処置をした仁もほっとする。

 エルザは、傷口を確認した後、治癒魔法を施した。

「『快復(ハイルング)』」

 外科系の中級魔法だ。なぜ中級を使ったかというと、傷が大きすぎるため、一気に治した場合、癒着箇所のズレにより傷跡が残ったり、痛みが長引いたりすることがあるのだ。

 それでエルザは、傷の治り具合を確認しながら治癒を繰り返しているのである。このあたり、女性であるマルシアへの細やかな心配りといっていいだろう。

「『快復(ハイルング)』……これで、大丈夫」

 傷跡も残らず、きれいに治癒した。

 傷の痛みから解放されたためか、まだ意識は戻らないものの、マルシアの寝顔は穏やかなものになっていた。


 一方、飛び込みで気絶したロドリゴ。

「『診察(ディアグノーゼ)』……!?」

 診察してみて、エルザは驚いた。

「……腰椎の亜脱臼、肋骨のヒビ……」

「え!?」

 思ったより重傷だった。

「水面に叩き付けられた衝撃によるものと思われる。気絶は脳震盪。……脳に異常は無いようだから、じきに気が付くと思う。『全快(フェリーゲネーゼン)』」

「……ほっとしたよ」

 怪我人が増えてしまい、気が気でなかった、と仁はいまさらながら溜め息をついた。

「ジン兄、ご苦労様」

「ああ、エルザも、お疲れさん」

 そこへラインハルトがやって来た。

「やあ、治療も済んだようだな。今、侯爵に報告してきたところだ。侯爵も快く、この部屋を病室に使ってくれと言ってくれたよ」

「それは助かるな」

 そうこうしているうちに、ロドリゴが気絶から覚めたようだ。

「う……マル……シア……」

 真っ先に娘の心配をするあたり、父親のかがみである。

「ロドリゴさん、無茶しますね。腰を傷め、肋骨にもヒビが入っていたようですよ?」

 わざとしかめっ面をした仁がそう言うと、ベッドから起き上がったロドリゴは恐縮したように頭を掻いた。

「いや、面目ない。娘の姿を見て、かーっとなってしまって。……それで、娘は?」

「無事です。治療も済んで、お隣に寝てますよ」

「えっ!」

 仁たちと反対方向を向けば、そこには愛娘の姿が。

「マ……」

 大声を出す寸前、はっと気が付いて言葉を飲み込むロドリゴ。

(……ルシア……)

 そしてベッドから降り立つとその寝顔をじっと見つめる。

 その目には大粒の涙が光っていた。

「もうじき目覚めると、思います。それまでそっと、見守っていて上げて下さい」

 エルザはそう告げて、仁とラインハルトの背中を押し、部屋から出て行ったのである。


「マルシア……」

 1人残ったロドリゴは、夢にまで見た娘の寝顔を見つめ、静かに涙を流すのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20150128 修正

(旧)「……動脈は傷付いていない。けど、脈拍が少ない。体温も低め。出血多量と低体温症、それに高カリウム血症のなりかけと判断する」

 高カリウム血症の原因は幾つかあるが、今回の場合、細胞内に存在するカリウムが、大きな怪我により血液中に浸出したことによると思われる。

(新)「……動脈は傷付いていない。けど、脈拍が少ない。体温も低め。出血多量と軽度の低体温症、それに高カリウム血症のなりかけと判断する」

 高カリウム血症の原因は幾つかあるが、今回の場合、低体温症の影響及び、細胞内に存在するカリウムが、大きな怪我により血液中に浸出したことによると思われる。


 診断内容を少し補足しました。


(旧)「まず、身体を温めること。その際、胴体ではなく、手足から温める必要がある」

「わかった」

 エルザの指示に従い、工学魔法『加熱(ヒート)』でお湯を作っていく仁。

 体幹部の急激な加温は、冷えた手足から冷たい血液が心臓に流れ込み、心室細動を起こす可能性があるから、まず手足からゆっくりと温めていく必要があるのだ。

 これはサリィからの教え。

 サリィは積み重ねた経験から、適切な処置方法を見つけ出していたのである。

(新)「まず、身体を温めること」

 そう一言言ったエルザは、マルシアの身体に手をかざし、独自の治癒魔法を使った。

「『加温(ウォーミング)』」

 エルザは、これによってマルシアの身体を全体的に温めていった。


 低体温症の処置は難しいです。一部間違った内容を載せるよりはと、魔法による治療に変えます。


 20160421 修正

(旧)時速500キロというその速度は、遭難現場からポトロック市までの距離60キロを7分と少しで踏破した。

(新)安全限界を超えた時速200キロを出す。これにより、遭難現場からポトロック市までの距離60キロを20分弱で飛翔した。

 21-07で最高速度を500→150にしてましたので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 『追加』 熱気球や飛行船の墜落に備えてパラシュートを開発して配備するのも良いかも知れませんね。 400年後の未来編の時代なら、飛行機や飛行船は重量魔法を利用した墜落対策が出来るから、パラシ…
[一言] 『何度目かの読み返しの最中です』 高い高度からダイビングしたら水面がコンクリートの堅さになって大怪我を負ったり下手したら即死だったかも知れないから、ロドリゴさんも命が助かったのは幸運でした…
[気になる点] マルシアは無駄に字数稼いだのに肋骨のヒビは簡単に治るってかー!! もう、メチャクチャだな 事件起こすなって!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ