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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
21 海運と遺跡篇(3457〜3458年)
696/4423

21-08 歓迎

「ようこそ、ショウロ皇国大使、ラインハルト・ランドル卿、エルザ・ランドル媛。そして、魔法工学師《マギクラフト・マイスター》、ジン・ニドー卿とその従騎士、レーコ・ニドー媛」

 仁たちを出迎えたのは、ポトロックを含む、エリアス王国南部のザウス州を統治するドミニク・ド・フィレンツィアーノ侯爵であった。

 ラインハルト、エルザはショウロ皇国式の挨拶を行う。仁もそれに倣った。


*   *   *


 賑やかな式典の後、仁たちはポトロック北西部の迎賓館に案内された。飛行船はスチュワードが迎賓館中庭へと移動させた。

「久しぶりですね、ラインハルト様」

 堅苦しい場でなくなったため、フィレンツィアーノ侯爵はクゥヘを勧めながら気さくに挨拶を行った。

「男爵になられたとのこと、お祝い申し上げます」

 侯爵の方が爵位としてずっと上なのであるが、フィレンツィアーノ侯爵は相変わらず腰の低い対応をしている。

「それにエルザ様も、準男爵となられたそうですね。おめでとうございます」

 そして侯爵は仁に向き直った。

「ジン様も、今では世界にただ1人の『魔法工学師《マギクラフト・マイスター》』として名を馳せていらっしゃる。加えて、レーコさんも従騎士を授かっているとか」

 そして一同に向かって会釈を行い、

「かつてお会いしていた方々が、こんなにご出世なさったなんて」

 そう言って微笑んだのである。

「侯爵、僕から言うのも失礼に当たるかも知れませんが、貴方の方が爵位は上ですし、まんざら知らない間柄でもないんですから、私的な場ではもう少し砕けていただけるとやりやすいのですが……」

 ラインハルトがおずおずと言う。仁もそう思っていたので、同意の印に大きく頷いて見せた。

「そうですか? そうまでおっしゃられては……ラインハルト君、ジン君、エルザさん、とお呼びしていいのかしら?」

 3人とも頷いてみせる。礼子には先程レーコさん、と呼んだそのままとなる。

「それじゃああらためて。ようこそ、エリアス王国へ。そして、ポトロックへ」

 先程よりずっと親しげな口調で侯爵は歓迎の意を表した。


「昨日到着した新造船『ベルンシュタイン』、素晴らしかったわ。悔しいけれど、ポトロック……いえ、エリアス王国にはまだあれだけの船はないわね」

 エリアス王国は周囲のほとんどが海であるだけに、造船に関しては自信があったのだが、今や後れを取ってしまったのである。

「でも、これから我が国の巻き返しが始まることでしょう」

 そう言って微笑む侯爵。確かに、エリアス王国には優秀な造船工(シップライト)が大勢いるので、ラインハルト達もうかうかしていられないと言える。


「それよりも」

 侯爵は仁を見つめた。

「ジン君の『飛行船』、あれは素晴らしいわ。驚異だわ! 人が空を飛ぶ、その夢を実現させているんですものね」

 その声音には純粋な称賛が感じられた。

「今朝、鳩で連絡がもたらされたのだけれど、我が国もジン君を『魔法工学師《マギクラフト・マイスター》』として、そして名誉士爵として遇したい、と連絡があったのよ」

「それは……」

 ショウロ皇国と友好を結ぶ国として、また、隣国エゲレア王国に対しても、そしてクライン王国の手前も含め、エリアス王国は仁と誼(よしみ)を通じておきたいらしい。

 その時、夕食の仕度ができたことを告げに、侍女がやってきた。移動する一同。


 広い食堂には豪華な料理が並んでいた。そんな中、仁は幾つかの料理に目を留める。

「おや?」

 その視線に気付いたフィレンツィアーノ侯爵は微笑む。

「ジン君にトポポチップスを教えてもらってから、トポポの料理法について研究したのよ」

 並んでいたのはフライドトポポ、トポポサラダ、ハッシュドトポポ。

「トポポでいろいろな料理が作れるわ。しかも、主食になり得る。こんな素晴らしい作物を利用しない手はないと思ったのよ」

 仁も、おおよそは第5列(クインタ)からの報告で知っていたが、侯爵がこれほどトポポ料理に情熱を燃やしているとは思わなかった。

「今年度のトポポの収穫量は3倍になっているの」

 仁がトポポチップスを伝えたのは2月の終わり、それからすぐに、作付面積を増やす指示を出したのだという。

「光栄ですね」

 新たな主要作物ができたというのは朗報である。それにしても、3倍にも増やしたというのは英断だ、と仁は思った。

「今年、他の小群国では不作のようですからね」

 侯爵もそのあたりは把握しているようだ。

「要望があれば、調理法と共に輸出してもいいと思っています」

「その時は是非」

 仁としては、自分が出しゃばるのも筋が違うと、簡単に話すにとどめたのだった。

 だがこれで、食糧問題の何分の1かはなんとかなりそうである。


 それからは、軽い内容の話に花が咲いた。

 特に、侯爵がトポポ料理に力を入れている話。

「おかげで『トポポ侯爵』なんて陰で言われてるのよ」

 だが、その言葉とは裏腹に、侯爵の顔は明るかった。

(少しふっくらしたような気も……)

 などと思った仁であったが、口に出すことはしなかった。


 話の終わり頃に、仁は思いきって聞いてみることにした。

「侯爵、マルシアのことを覚えてらっしゃいますか?」

「マルシア? ……ああ、ジン君とチームを組んで優勝した子ね? ええ、覚えているわ。確か、隣町に店を構えて、繁盛していると聞いたことがあるけど」

 ここはポトロック市ポトロック町。マルシアは確かに隣町で代々造船工(シップライト)をしていた、と言っていたことを仁は思い出した。

「隣町のポルトア町だそうよ」

 執事に確認した侯爵が仁に教えてくれた。

「有名みたいだから聞けばすぐわかるでしょう。海に面した通りにあるということですし」

「ありがとうございます」

 仁としては翌日、会いに行ってみるつもりであった。


*   *   *


 仁たちが泊まるのは3間続きの部屋。寝室は個室となっており、居間に相当する大部屋に通じている。

 そこで仁、エルザ、ラインハルトは寛いでいた。

「エリアス王国も必死だな」

 ラインハルトが唐突に口を開いた。

「え?」

「ジンを『魔法工学師《マギクラフト・マイスター》』としたいと言っていただろう? 熱気球が欲しいんだろうな」

「ああ、なるほど」

 仁が熱気球を贈ったのは、ショウロ皇国で行われた技術博覧会に参加し、仁を『魔法工学師《マギクラフト・マイスター》』に認定してくれた国限定であった。

 エリアス王国は不参加であったがために乗り遅れたのである。

「まあ、贈ること自体は問題ないんだが」

「ジン兄、ちゃんと報酬を取らないと、だめ」

 相変わらずの仁に、エルザが釘を刺した。

「熱気球は、世界を変えるほどの技術。それを簡単に考えるのはよくない」

「はは、先にエルザに言われてしまったな。……ジン、エルザの言うとおりだぞ。君はどうも安請け合いをしすぎる」

「ん。それがジン兄のいいところでもあるんだけど。優しいのも相手によりけり」

 そんなことを言いだしたエルザをラインハルトは驚いたような目で見つめる。

「おいおいエルザ、もう惚気かい?」

 その言葉に頬を染めたエルザであるが、ラインハルトは真面目な顔になって仁に言う。

「ジン、とにかく、その件はこうしてみたらどうだ?」

「というと、何か考えがあるのか?」

「うん。……ジンは、クライン王国でも名誉士爵をもらっている。つまり、関係者なわけだ。で……」

 そう言われた仁は、ラインハルトの言わんとすることがわかった。

「ああ、そうか。クライン王国への輸出……というか、援助を頼むのか」

「そういうことだな。もっとも、クライン王国にもちゃんと話をする必要があるけどな」

「なるほど……」

「だからそういった外交的な話は僕に任せてくれないか?」

 こういった話でのラインハルトは頼りになる。仁は是非頼む、と一任するのであった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20190624 修正

(旧)「ジンを『魔法工学師《マギクラフト・マイスター》』としたと言っていただろう?

(新)「ジンを『魔法工学師《マギクラフト・マイスター》』としたいと言っていただろう?

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― 新着の感想 ―
[一言] 『何度目かの読み返しの最中です』 >「ジン君にトポポチップスを教えてもらってから、トポポの料理法について研究したのよ」 >並んでいたのはフライドトポポ、トポポサラダ、ハッシュドトポポ。 …
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