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マギクラフト・マイスター  作者: 秋ぎつね
19 クライン王国国王治療篇
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19-34 夜の窓辺

 一通りの事が終わったのは、夜も大分更けた頃であった。

 入浴して汗を流し、窓辺で火照った身体を冷ましていた仁。

「……ジン兄」

 そんな仁の背後から声が聞こえた。エルザである。髪が濡れていて、風呂上がりだということがわかる。魔絹(マギシルク)のバスローブからのぞく肌は桜色に上気していた。

「こっちへ座るか?」

 窓辺に置かれたソファを指差す仁の言葉に、エルザは頷いた。

「いい風」

 そう言いながら、仁の隣に腰を下ろす。

 少し火照りが冷めてきた仁には、エルザの体温が心地よく感じられた。

「……」

 そのまま無言の時が流れた。先に口を開いたのは仁。

「もう夜風は冷たい。湯冷めしないよう、窓は閉めるぞ」

「……うん」

 短く返事をするエルザ。そしてまた静寂が訪れる。

 今度、先に口を開いたのはエルザの方。

「……ジン兄、昼間……」

「ん?」

「昼間、ありがとう。……無事か、と言ってくれて、嬉しかった」

「あ、ああ」

「……でも、やっぱり、私って、ジン兄の、妹……なの?」

 いつもに増して辿々しい話し方のエルザ。その頬が赤いのは、決して風呂上がりだからではないだろう。

「……」

 仁が答えられずにいると、エルザは更に言葉を続けた。

「ジン兄、って言い出したのは、私。勝手な言い分だ、というのはわかってる。でも、今は……ジン兄の、妹以上に……なりたい。それが、正直な、気持ち」

 それだけ言うと、エルザは立ち上がって部屋を出ていこうとした。が、その手が押さえられる。もちろん引き止めたのは仁。

「……ジン、兄……?」

「……エルザ。俺からも、はっきり言うよ。俺は……お前のこと、が……」

「お父さま」

 突然礼子が声を発した。我に返り、エルザの手を放してしまう仁。エルザはその場に立ちすくんだまま。

「……ど、どうした、礼子?」

 少し狼狽えながら礼子に応対する仁。

「老君から連絡が入っています」

「そ、そうか」

「……何かあったの?」

 夢から覚めたような顔つきのエルザも、老君からの連絡、という言葉が気になったのだろう、あらためてソファに座り直すと、怪訝そうな顔つきで尋ねてきた。

「あ、ああ。この後説明するよ。ちょっと待っていてくれ。……老君、どうした?」


御主人様(マイロード)、夜遅く申し訳ないのですが、判断を仰ぎたい事案がありまして』

 魔素通信機(マナカム)から流れてくる老君の声。

「うん、どうした? 何か進展があったのか?」

『はい、実は……』

 ということで、老君はここ5日間のこと……仁がクライン王国に来てからは気を遣って報告していなかった……をかいつまんで説明した。

「なるほど、そのオリヴァーという商人が、魔法技術者(マギエンジニア)を雇いたがっているというわけか」

『はい。……おそらく異民族と何らかの繋がりがあると思われます』

「そうだな。気になるところだ。老子の主人は俺の『身代わり人形(ダブル)』でいいとして、魔法技術者(マギエンジニア)か……」

 少し考え込む仁。自分で行ってみたいのだが、それは無理だろう、と考える。ならば……。

「よし、デウス・エクス・マキナを使おう」

 先日も使用した、2代目のボディ。より高度な機能が付加され、人間と区別はつかない。そして何よりも、仁が直接コントロールすることもできるという点だ。

 普段は老君がコントロールし、仁は手の空いたときに代わればいい。

『わかりました。ではそのように手配します』

「ああ、頼んだぞ」

『名前は何と名乗りますか?』

 さすがに、デウス・エクス・マキナと名乗るわけにも行かない。

「そうだな……エルザ、何かいい案はないかな?」

 ネーミングに自信の無い仁は、エルザがいることを幸いと、相談したのである。

「……ジョン・ディニー」

「え?」

「JIN NIDOH を入れかえてみた」

「えーっと、JOHN DINI、か。なるほど」

 いいのか悪いのか微妙なところだが、どうせ偽名である。仁はそれで行くことにした。

「よし、老君、ジョン・ディニーでいこう」

『わかりました。また何か進展がありましたら連絡致します』

 それで一旦通信が切れた。

「楽しみだな……」

 独りごちる仁。異民族がどんな素材や技術を持っているのか、今から想像してわくわくしている仁であった。

 そんな仁の横顔を、エルザはじっと見つめていたが、やがて腰を上げた。

「エルザ?」

「……今夜はもう、休む。おやすみなさい」

 エルザはそう言ったかと思うと、身を屈め、仁の頬に軽く触れるような口付けをした。

 そして真っ赤になり、足早に自分の寝室へと駆けていったのである。

「……おやすみ」

 突然のことに固まってしまった仁は、ようやくそれだけを口にできたのであった。


*   *   *


 同時刻、蓬莱島。

『ジョン・ディニーですか、外見もマキナとは少し変えた方が良さそうですね』

 一方老君は、デウス・エクス・マキナ2号の外見を少し変える処置を行っていた。

『髪色と瞳は黒のままでいいでしょう。身長を少し変えて、160センチくらいとしておきますか』

 多目的な身代わりに使うための自動人形(オートマタ)なので、体格も多少変えられる。

『あとは、御主人様(マイロード)身代わり人形(ダブル)を用意して……』

 イスマルの町を拠点とする商人、オリヴァーに、自分の主人として紹介する予定の身代わり人形(ダブル)

 仁そのものにしておくと、人相から正体を勘付かれる可能性もあるので、悩みどころである。

『こちらは髪色を変えておくことにしましょう』

 茶色の髪、茶色の目に変更。よくある色なので、目立つ事もないだろうと老君は考えた。

『あとは馬車ですか……』

 ゴーレム馬車にするか、普通の馬車にするか。とはいえ、馬車馬など所有していないので、結論は決まっている。

『技術力を見せる、という意味もありますしね』

 念のため、デチューン……性能を落とす処置をしておくことにする。

 動作が、よりぎこちなくなるようにモードを追加したのだ。

 ノーマルモードはこれまでの動作。

 ダウングレードモードを新たに設定し、隠蔽用とする。性能を落とす処置なら独断で行えるのである。このモードは簡単な命令で切り替えられる。

 試しにゴーレム馬を歩かせてみて、そのぎこちなさを見た老君は複雑な気持ちであった。

御主人様(マイロード)がお作りになったままの性能を出せないというのは残念です』

 とはいえ、オリヴァーに会い、魔法技術者(マギエンジニア)を紹介するという目的はこれで果たせるだろう。

 馬車そのものは、従来のものを使う。転移門(ワープゲート)も備えているのでいざという時に役に立つはずだ。

 たとえ出番が無くても、また使う機会はいくらでもあるだろうから、無駄になることはない。

 果たして沙漠の向こうに何が待つのか。

 仁に報告する日が今から楽しみな老君である。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 20141128 13時39分 誤記修正

(誤)ネーミングに自身の無い仁は

(正)ネーミングに自信の無い仁は

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