17-26 閑話31 『モグラ』が見つけたもの
8月4日に、地底探査用魔導機、『モグラ』がイナド鉱山地下探索を開始した。
『モグラ』は現代地球でトンネル掘りなどに使われるシールドマシンに似ており、直径2メートル、長さ3メートルの円筒状。
『掘削』の魔導具と、ハイパーアダマンタイト製のチップを使った掘削の2通りを行える。
掘った土砂は転送機で地上へと排出する方式。
音響探査と魔力探知装置を持ち、地中の異物を探査しながら掘り進む。貴重な埋蔵物を見逃さないためだ。
掘った穴には『強靱化』の魔法を掛け、落盤を防いでいる。
埋蔵物の探査を行いながらなので掘削速度が遅くなるのは仕方がないことであった。
かつて巨大百足が這い出してきた際に、見慣れぬ魔導具があったことだけはわかっている。
その用途を確認する前に落盤が起き、全てが埋もれてしまったのであった。
『まずはあの時の、地下200メートルが目標ですね』
途中、多少の亜鉛鉱石、『閃亜鉛鉱』を掘り出しつつ、『モグラ』は地中を目指していた。
8月12日、地下50メートル。硫砒鉄鉱(砒素と鉄の硫化鉱物)と黄鉄鉱が少し見つかった。
8月21日、地下100メートル。かんらん石を採掘。
9月1日、地下150メートル。ざくろ石が見つかった。
そして9月9日、地下200メートル。巨大百足が這い出してきた深さである。
一層慎重に『モグラ』は掘り進んでいった。
「何かあります」
『モグラ』の操作を担当していた職人3は老君に報告を入れた。
「壊れた魔導具です。落盤により潰されたものと推測」
『了解。回収し、こちらへ転送しなさい』
職人3は老君の指示に従い、慎重にその魔導具を掘り出すと、転送機の設定を変更して送り出した。
そしてさらに掘り進む。
9月10日、『モグラ』は地下220メートル付近で空洞にぶつかったのである。
「ここは?」
奥行きは1キロほどもありそうで、幅も300メートル以上あった。床から天井までは20メートルほど、まさに大空洞である。
だが、そこは明らかに人工のものであった。
壁も床も天井も、不自然なほどに平らだったからである。
職人3は老君に報告を入れた。すると、その空間を詳細に調べるようにとの返答があり、職人4、5が応援に寄越されたのである。
3体の職人は手分けをして調べていった。
「謎の魔導具発見」
「謎の素材発見」
「謎の物質発見」
次々に新発見があった。そして更に驚きの発見がある。
「おそらく、処理施設と思われる部屋があります」
ここで言う『処理施設』とは、生物の死骸を処理、つまり焼くなり溶かすなりする設備のことだ。
「これだけの規模となると、かなりの量を処理したのでしょうね」
職人3が老君へ報告した。
「これは……? ゴーレム発見。但しもう動きません」
結局、地下大空洞で発見したものと言えば、謎の魔導具が4基。これは同型なので用途は同じと思われる。
謎の素材、未知の生物、おそらく魔獣から採った素材と思われる。それがおよそ50トン。
謎の物質。水晶製の保存容器に入った黒い粉末。およそ20グラムほど。
壊れたゴーレムは特に見るべき物は無かった。
謎の魔導具はその場で解析中。
そして謎の素材と物質は、職人によるできる限りの調査と解析を行い、危険がないことを確認した後、蓬莱島に送られた。
黒い粉末を受け取った仁は目を見開いたのである。
「……精神触媒……!」
そう、それは少し前、仁が『700672号』から譲り受けた精神触媒と同じものであった。
「どうしてこれが? 700672号は、この世界の生物から採取するには100万単位の脳を必要とすると言っていたはずだが」
その時、職人から連絡が入る。
『ご主人様、老君、魔導具の用途がわかりました。自由魔力素を集める働きがあります』
「それって、魔素変換器と何が違うんだ?」
『はい。自由魔力素を『集めるだけ』なのです』
「え?」
要は、周囲の空間から自由魔力素を集め、特定の範囲内の自由魔力素濃度を高める働きがあるらしい。
少し前なら、何のために? と思ったかもしれないが、今の仁はその目的に心当たりがあった。
「もしかすると、魔族……いや、『始祖』が作ったものか?」
北部は気候が厳しく、南部は自由魔力素が少ない。対策としては北部で暖かく過ごすか、南部で自由魔力素を集めるか。
そしてその設備は自由魔力素を集め、濃度を高めるもの。
『魔力庫や自由魔力素ボックスに使われているものより効率が良さそうです』
「なるほど。『自由魔力素凝縮器』とでも言えばいいか」
それもこちらへ送るよう指示する仁。そして老君は、もう一つ、大きな発見をする。
『御主人様、もしや、あの場所は魔獣牧場だったのではないでしょうか?』
老君は、自由魔力素濃度の高い場所で魔獣を養殖し、その脳から『精神触媒』を取り出し、集めていたのではないか、との推測を述べた。
仁も薄々感じていたため、すぐにそれに同意する。
そして、長い年月を経て、『始祖』もしくはその子孫は姿を消し、単純に作業を続けるゴーレムが残ったのではないかというのである。
それにも仁は同意した。
「いずれにせよ、『精神触媒』が僅かでも手に入ったのは有り難いな。もう使う必要は無いかもしれないが」
先日、魔族との協定が結ばれたばかりである。
しかし、クリエイターにとって素材の確保というのは、将来の可能性を広げるという意味において非常に夢を広げてくれるものであることは間違いない。
「謎の素材のサンプルも送ってくれ」
『わかりました』
そして送られて来た素材を手に取る仁。銀灰色で艶があり、軽い。平面状だが不定形なのは、生物素材であることと、平らに加工されているためと推測される。
おそらく、『精神触媒』を採取した魔獣の甲殻などではないかと推測された。
50トンというその量は、『精神触媒』採取のため、どれほどの年月を掛け、どれだけの魔獣を潰したのかちょっと想像がつかないし、仁には真似できないことでもあった。
だが、そこに遺された素材は、仁が有効活用してやるのが一番の供養であろう。
「うーん……未知の素材だな」
特性や用途はゆっくりと考えることにしよう、と仁は保留としたのである。
『おそらく、『自由魔力素凝縮器』の副作用と言いますか、影響を受けてしまって、あの巨大百足が生まれたのではないでしょうか』
老君は推測を述べた。仁も同じ事を考えている。
「もう周囲に巨大百足はいないんだろうな?」
『はい、周囲1キロ以内にはそういう反応はないようです』
「よし、空洞の調査は職人4、5に任せて、『モグラ』はもう少し地下へ進ませてみよう」
ということで、職人3は『モグラ』を更に地下深く潜らせることとなった。
もう気を使う必要も無さそうなので掘削速度を上げてみる。
1日で50メートルを掘り進んだ『モグラ』は、自然金と自然白金、それにイリドスミン(イリジウムとオスミウムの合金)を見つけていた。
イリドスミンは硬く摩耗しづらいために高級万年筆の金ペンの先、紙と擦れ合う部分に溶接されている金属である。
「あまり使い途はないけど、サキやトアさんが喜ぶかもな……」
仁はそんな事を考え、素材棚に保存した。
そして『モグラ』は更に地中深く掘削を続け、地下500メートル付近で魔結晶の比較的大きな鉱脈に辿り着いた。
色は乳白色、平均的な全属性の魔結晶である。
「これだけあれば、カイナ村の予算は向こう500年くらい安泰だな……」
それを可能にしたのは仁の技術と蓬莱島の素材であり、費用対効果を見たらそれほど大きな利益になってはいないのだが、それを仁が理解することはないのであろう。
お知らせ:9月19日、所用で外出となりますので夜8時くらいまでレスできなくなります、ご諒承下さい。
ここでこの話を挟んだのにはもちろん理由があります。それはあと数話あとで……。
いつもお読みいただきありがとうございます。