14-24 明るい旅行計画
投稿したつもりがされてませんでした。
感想欄で指摘されて気が付きました。
面目ない。m(_ _)m
「うーん、魔族か……」
改めて魔族についてわかっていることを一通り説明し終えると、ラインハルトが難しそうな顔をした。
「ジンがいろいろと武器や防具を作っているのを見て、過剰すぎると思っていたが、そうは言えないんだよな……」
「ん。魔族の能力とか実力とか、不明なことが、多すぎる」
エルザもラインハルトの意見に同調した。
「……で、重力魔法のことなんだが」
仁は改めて説明する。
今わかっている範囲では、重力魔法は空間に働きかけているらしい。
単純に重さを軽くしたり重くしたりするのではなく、慣性も変化しているというのがその理由だ。
「まあ、転移門というものや、異世界からの召喚魔法というものもあるんだから、空間に働きかける魔法があってもおかしくないよな」
仁は一通りの説明をした後、そういって締めくくった。
「それで、解析はどのくらい進んでいるのかしら?」
「とりあえず、軽量化までだな」
この前セルロア王国で出会った魔族、アンドロギアスの重力魔法を打ち消した時に使った軽量化の魔導具を見せる仁。
「発動には人類とは異なる魔法制御の流れが多くて、今のところ魔法としては使えないんだ」
「なるほど……少し残念だが無理もないことだな」
「だが、魔族の魔法は怖ろしいから、今のところ出会ったら関わらないのが一番だな」
仁は、ラルドゥスが使った重力魔法は、エルラドライトを用いて数千Gに達したということを強調する。
「す、数千Gか……」
人間ならミンチどころか紙よりも薄くなってしまうほどの重力である。
「レーコちゃん以外には耐えられなかったね……」
「ということで、重力魔法の解析が最優先だ。で、ラルドゥスのようにエルラドライトを使われると、こちらとしてもかなりの魔力を消費しないと対抗できないだろう。普通の『魔結晶』では不足かもしれない。が、エーテノールを使えれば解決できるかもな」
「期待大だね」
「それは老君に任せるとして、今回のアルシェルという奴は魔物をペット扱いしていたようなんだ」
「それも魔族の特殊能力か何かなのかな?」
可能性はある、と仁は頷いた。同時に、先日の巨大百足を操る事が出来るとしたら、と考えるとかなりの脅威だとも考える。
「一番の問題は、魔族の真意だろう」
「そうだな。戦争を仕掛けてくるつもりなのか、単に面白半分でちょっかいを掛けてきているのか」
「ああ、嫌だね! どうして平和に暮らせないんだろうね?」
サキの叫びは全員の気持ちを代弁していた。
「……少なくとも、ここは平和」
エルザがしみじみとした声で呟いた。
「ああ、本当だね。ここは正に地上の楽園だよ……」
これにもまた、全員が頷いたのである。
「そうなると、これは国に報告すべき事項だな」
ラインハルトの言葉。セルロア王国で、王位継承権のある公子と公女が確認したのであるから、もはや隠しておくことも出来ない。
そろそろ公表すべき時期と思われた。
「マキナの名で女皇帝に連絡しておこう。各国にも知らせてもらうことにして」
「うーん、今はそれが良いかな」
仁とラインハルトは相談の末、結局マキナ経由で女皇帝に連絡することに決めたのであった。
* * *
「ところでジン、レナード王国に行ったときにハンナちゃんが言っていた『動物型ゴーレム』はできたのかい?」
魔族の話が一段落した後、サキがそんな質問を繰り出した。
「え? あ、ああ。ちょっと作ってみたんだが……」
珍しく仁がはっきりしない物言いをしている。
「……あまり出来が良くないんだ」
「ふうん? ジンにしては珍しいね?」
「あまり買い被ってくれるなよ。……まあいいか、ちょっと見てもらおう。工房へ行こうか」
そこで全員、地下1階の司令室から地上1階の工房へと移動したのである。
「これなんだ」
仁は、猫を模したゴーレムの試作をテーブルに置いた。体長は尻尾を除いて約30センチ。試作なので毛並みは無し、青銅製の猫である。
「ふうん、形はいいじゃないか」
「ほんとね、ジン君、これならどこから見ても『猫』よ!」
サキとステアリーナが褒めてくれたが、当の仁は渋い顔。
「……だけどなあ。『起動』」
仁は猫型ゴーレムを動かして見せた。
「動作が気に入らないんだ」
確かに、四つ脚を動かして歩く姿はあまり猫らしくない。何と言うか、動きが硬いのである。
「ゴーレム馬ならいいんだが、小動物は初めてだったしな」
猫の仕草をコピー出来れば、もっとそれらしくなるだろうと仁は説明した。
「それならコピーしちゃえばいいじゃない」
ステアリーナが何でもないように言った。
「前にも言ったけど、セルロア王国では猫を飼っている貴族が多いわ。特に南部、暖かい地方ではね」
「なるほど……」
「こんどこそ案内してあげるわ。知り合いがクゥプにいるのよ」
クゥプはセルロア王国南端にある町だ。ちょうどエリアス王国のポトロックのように船が多く、漁業と観光の町だそうである。
『御主人様、それでしたら、礼子さんが設置した10番目の転移門、あれはラウェイ山の東山麓にあります。そこからクゥプまでおよそ100キロです』
転移門の暴走で行方不明になった仁を捜しに、礼子が捜し回ってランダムに転移した地の一つである。
「キャンピングカーは使えないな」
「街道沿いだからね。目立ちすぎるわ」
「となるとゴーレム馬車で行って、宿に泊まればいいか」
ステアリーナは、イゴ、シゥミ、クゥプの順で行けば3日目には着けるという。
『それとも、近くの海に改装の終わった穂高がいますがお使いになりますか?』
竣工当初、実弾を装備していなかった空母であるが、先日来の事件を受けて魔力砲20門を搭載し、魔力爆弾も積んだのである。
「うーん……」
30人乗りの船が精一杯な世界に、排水量2万トンの空母を持ち出すというのも大騒ぎになりそうな気がする仁。
「クゥプ付近にファルコンが着陸出来るような場所は?」
『あります。クゥプより西側の海岸は砂浜で、夜中には人気が無くなります』
「それじゃあそこを使うか」
道中のごたごたはもう沢山とばかりの仁。サキやエルザも同感のようで何も言わない。ステアリーナも苦笑していた。
「いくらなんでもこんな短期間にわたくしの事が伝わっているとは思えないけどね。それに、南部……コーリン地方は雰囲気も違うのよ」
元々コーリン地方は200年くらい前はコーリン王国という小群国の1つであった。それをセルロア王国が攻め、併呑して今のコーリン地方となったのである。
「あまり魔導大戦の爪痕は残っていないから面白いと思うわ」
エリアス王国と同様、大陸南端にあるこの地方は魔導大戦時に戦渦に曝されなかったため、古い遺物が多いのだという。
「徴兵と魔素暴走で人口が減ってしまってるのは他と変わらないけどね」
魔素暴走。300年前の魔導大戦で、人類側が魔族に対抗するため行った最後の手段。
大気中の自由魔力素を暴走させ、保有魔力の高い者なら人間であろうと魔族であろうと滅ぼしてしまったというその実態は今では謎に包まれている。
仁の保有魔力はずば抜けて多い。もし魔素暴走や、それに類する魔法を使われたら致命的である。
仁以上に、礼子、老君、そして第5列たちはその対策を立てるため、魔素暴走の詳細な情報を常に欲していた。
『付近の町、オースにはカペラ9がおります。案内に回しますか?』
老君からの質問に、仁は首を横に振った。
「いや、無理させることはない。ステアリーナが案内してくれるというしな」
『わかりました。それでも一応付近で待機させておきます。上空には空軍を派遣しておくことにします』
先日アンに注意を受けたことからの措置である。
「わかった。そっちは任せる」
ということで、今回大事を取ってハンナは誘わずに、仁、エルザ、サキ、ステアリーナ、ラインハルト、ベルチェの6人がクゥプへ向かう事となったのである。
「今度こそ明るい旅行になるといいな」
「くふ、まったくだね」
仁たちの従者として、礼子、エドガー、アアル、ノワール(黒騎士)、ネオンも同行する。
「セレネはちょっと派手すぎるかしらね……」
残念そうなステアリーナを見て仁は、
「表面に魔法外皮を張って自動人形っぽくしたらどうだろう?」
と提案したのである。
「それいいわね!」
ステアリーナは即座にその案を採用した。
併せて、ネオンも少し強化することにした。対魔族を考えると、ベルチェを守るには少し心許ないからだ。
仁、エルザ、ラインハルト、ステアリーナの4人に、職人ゴーレムが加われば効率倍増どころではない。
クゥプの海岸に午前3時に出ることを考え、時差を考慮すると、蓬莱島を出るのは7時20分頃となる。
つまり、7月25日の朝でいいということ。時間は十分すぎるくらいであった。
因みにサキはベルチェに引きずられるようにして夕食の仕度をしに行ったのである。
ネオン強化の内容はまたそのうち。
お読みいただきありがとうございます。
20140607 13時59分 誤記修正
(誤)単に面白半分でちょっかいを欠けてきているのか
(正)単に面白半分でちょっかいを掛けてきているのか
(誤)魔導大戦時に戦果に曝されなかったため
(正)魔導大戦時に戦火に曝されなかったため
戦渦:戦争によって起こる混乱のうず。
戦火:戦争による火災、また戦争。
戦禍:戦争によって生じる被害。
ここは戦火、でしょうかね。
15時27分 誤記修正
(誤)イゴ、シゥミ、クゥプの順で行けは
(正)イゴ、シゥミ、クゥプの順で行けば
20160313 修正
(誤)「礼子ちゃん以外には耐えられなかったね……」
(正)「レーコちゃん以外には耐えられなかったね……」
20190124 修正
(旧)で、ラルドゥスがエルラドライトを使っていたことからもわかるが、かなりの魔力を消費するらしい。エーテノールを使えれば解決できるかもな」
(新)で、ラルドゥスのようにエルラドライトを使われると、こちらとしてもかなりの魔力を消費しないと対抗できないだろう。普通の『魔結晶』では不足かもしれない。が、エーテノールを使えれば解決できるかもな」
20190208 修正
(誤)「表面に魔法外皮を張ってオートマタっぽくしたらどうだろう?」
(正)「表面に魔法外皮を張って自動人形っぽくしたらどうだろう?」