100-02 複製の同一性
アルスにあるアドリアナ・バルボラ・ツェツィ関連の遺構をヘールに移設することについての話し合いが始まった。
主導するのは言い出しっぺである仁である。
「アルスという惑星は、大きさを除けばヘールとよく似ている……というよりヘールに似せて調整されたわけだが」
「うん」
「だから、経度はともかく緯度はほぼ同じあたりに持っていきたいと思う」
「ん、当然」
「大陸の東海岸、そこの同緯度の場所を、できる限りアルスに似せて改造する」
「できるのか……いや、ジンならできるんだろうね」
壮大な計画になりそうだ、とルイスはやや呆れ気味である。
「地形だけでなく、植生も近付けたいと思う。……だからロロナさんに協力してほしいんだ」
「私が何を? ……ああ、アルスの植物をこっちで栽培すればいいのね」
「そのとおりです。『マグス岬』付近に生えている植物を少しだけ採取してきて増やしてもらいたいんですよ」
「わかったわ、任せてちょうだい」
気候はよく似ているから問題ないでしょう、とロロナ。
「それには土壌も似せる必要があるわね。そっちもサンプルを少しだけ採取してくるわね」
「お任せします」
あとは『ツェツィ島』、そして『蓬莱島』である。
こちらはまた別の問題もある。
* * *
「『ツェツィ島』と『蓬莱島』は、そっくりそのまま持ってくるという選択肢もあると思うんだ」
「いや、なんでそうなる」
「建物ならともかく、島を丸ごと?」
「百歩譲って『ツェツイ島』は小さいからできるかもしれないけど、『蓬莱島』は大きいからねえ」
「いくらジンでもそれは……」
『仁ファミリー』の意見は、否定的というより可能なのか、というものだった。
「まあ、『蓬莱島』はともかく、『ツェツィ島』はできると思う」
島の基部ごと海底から切り離し、結界に包んで運べばいい、と仁。
「『アトラス』なら十分可能だろうし」
『アトラス』は直径300メートルの特殊宇宙艦で、その船体のほとんどが『力場発生器』と『魔力反応炉』が占めており、同じ300m級の『アドリアナ』の実に200倍の推力を誇る。
管理魔導頭脳の『金時』という命名も、その力から来ている。
「うん、まあ、可能だろうな……」
ラインハルトもそれについては納得している。
「そもそも『ツェツィ島』は一般人には知られていないから、移動させても誰も困らないだろうし」
「まあ、ジンの言いたいことはわかるが……」
ここで、グースが口を挟んだ。
「そういうことなら、1つ、話し合ってみたいことがあるんだ」
「なんだい、グース?」
「僕は技術者じゃないから、そうした立場からの意見として聞いてくれ」
「うん」
グースがこうした意見を言うのは珍しい。仁は聞き耳を立てた。
「まず、今の仁の技術で、物体の完全複製はできないのかい?」
「それは、原子レベルで、ということか?」
「そうなるな」
ただの複製であれば、素材を用意して、外見をそっくりにする、というものになるだろう。
だがグースがいう原子レベル、ということになると、分子内における原子の配列までそっくりそのまま再現することになる。
「さすがにそれはできない……なあ」
『亜自由魔力素技術』を使っても無理だろう、と仁は言った。
「人間大の物体の複製にしても、おそらく今の老君の数十倍、いや数百倍の処理能力がないと無理だろう」
「……やっぱりそうなるのか」
「ああ。原子配列まで再現するというのはそういうことだ」
「……じゃあもう1つ。そうした完全複製ができたとして、人間を複製したらどうなると思う?」
「うーん……わからないな」
肉体を完全再現しても、魂とでもいうものがどうなるのか、見当もつかない、と仁は答える。
同じ人間が2人になるのか、どうなのか。
「おそらくそれは、今の人類が手を出しちゃいけない領域だと思う」
「『人造人間』やゴーレムは?」
「ゴーレムや『自動人形』の場合は、『制御核』を複製しても、起動した瞬間に別個体になるからなあ」
ここでハンナが発言。
「空間内の座標が少し異なるだけで、違う条件を与えたことになるからね。経験が違えばもう別個体だよ」
2体が並んで立っているとして、そうした自分にそっくりな存在が右側にいるか左側にいるか、だけでもう同じ経験ではないから、個体としても違ってくるよ、とハンナは説明した。
「なるほど、よくわかったよ」
さらにエルザも発言。
「遺伝子的には同一のはずの『一卵性双生児』だって、生まれる順番が違うだけで長幼の序ができる。そしてそれは個性の差を生じさせる」
「確かになあ」
仁も頷き、グースは感心した。
「ハンナちゃんとエルザさんの説明はわかりやすかったよ」
ここでは、生物あるいは疑似生物の場合は複製しても同じ個体にはならない、という結論となったわけだ。
「……オリジナルの俺が出会った『精神生命体』は、何もないところから一瞬で物質を作り出していた。彼らならきっと、生命は別として、物質の複製はお手の物だろう」
「なるほど、そうかもしれないね」
当時の話を聞いているので、『仁ファミリー』のメンバーは仁の推測に異議を唱えることはなく、そういうものだろうと受け入れた。
「彼らなら、完全に同じもの……どっちがオリジナルかわからないほどに同じものを作れるんだろうけどな」
建物でも、島でも……と仁は考えた。
そして、ちょっとだけ羨ましくも思ったのである。
「それなら……」
仁の話を聞いていたハンナが、
「その『精神生命体』に連絡をつけて、手伝ってもらえないかな?」
という、とんでもないアイデアを口にしたのである……。
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次回更新は4月12日(日)12:00の予定です。




