100-01 ヘールにて
アルスの暦で9月9日、仁は惑星ヘールにいた。
もちろんエルザや礼子、サキ、リシアらも。
そして、『第1期仁ファミリー』だった者たちも……。
つまり、仁、エルザ、ミーネ、ハンナ、マーサ、リシア、ラインハルト、ベルチェ、サキ、グース、トア、ステアリーナ、マルシア、ロドリゴ、ヴィヴィアン、ルイス、ビーナ、ミロウィーナ、シオン、マリッカといった面々だ。
加えて『第2期』からは『長老』ターレス、ロロナらが参加していた。
この日は、1つの大きな議題を話し合いたいと仁が招集したのだった。
「アルスにある、『賢者』や『アドリアナ・バルボラ・ツェツィ』に関する遺構を、ヘールに移したらどうかということなんだが」
仁は、背景を説明する。
「このままいくと、先人たちの遺志を知らない連中が荒らしそうな気がしてな……」
「確かに、その可能性はゼロじゃないな。賛成だよ」
そうした文化財の保存に対して理解のあるグースが、まず賛成の意を表明した。
「反対、というわけではないけれども、故人の遺志はどうするのかしら? たとえば『賢者岬』にある家とか、『ツェツィ島』のお墓とか」
疑問を呈したのはヴィヴィアン。
その点こそ、仁が話し合いたい点なのである。
ヘール開発の初期に、『長老』ターレスと話し合い、その時は『ツェツイ島』はそのままにしておきたいと思っていた仁であるが、今は少し考えが変わってきていた。
「俺の意見を言うと、ここヘールにそっくり同じ環境や地形を再現して、そこに移転させたい」
方法論は別にして、と仁は言った。
その昔……『オリジナルの仁』もちょっと考えたことのある計画だった。
「僕はいいと思う」
「わたくしも」
「私も賛成だね」
「ボクも」
ラインハルト、ベルチェ、ルイス、サキがまず賛成した。
「あたしもいいと思う」
ハンナが。
「うん、いいんじゃないかな?」
マルシアが。
そして、
「むしろその方がいいと思うわ」
ビーナも賛成した。
残るミーネ、マーサ、リシア、トア、ステアリーナ、ロドリゴ、ミロウィーナ、シオン、マリッカ、『長老』ターレス、ロロナらはまだ意見を述べていない。
ちなみにエルザは仁と同じ意見である。
「そうした遺構が、何のためにあるのか、が焦点になるのでは、と思いますわ」
これはステアリーナである。
「1つには故人の遺志であり、もう1つは遺された者が故人を偲ぶため、でしょうね」
ミロウィーナが意見を述べた。
「うん、そういうことだと思う。そして俺としては、そんな場所を荒らされたくないんだ」
仁は本心からそう言った。
「この星の文化の礎を築いた人たちの遺構が荒らされるのを見たくないんだよ」
仁は、現代日本において、古の遺跡や国宝が心ない人たちに荒らされているのを見ているのだ。
「そういう意味では、完全に俺の気持ちの問題かもしれない。……だけど、999人が大切にしていても、そうでない者が1人いれば、容易く失われてしまう、そしてもとに戻すことはできない。それがたまらなく悲しいんだ」
「……うん、わかるよ……」
「ん」
ラインハルトとエルザも頷いた。
「だから、オリジナルはヘールに移して、コピーをアルスに遺す……繰り返すけど、それが俺の考えなんだ」
「なるほどね。そういうことなら、悪くない……ううん、いいと思うわ」
「オノゴロ島も似たようなことをしましたし、いいと思いましゅ」
シオンが言い、マリッカも賛成してくれた。
「あたしは、難しいことはわからないけど、ジンがそうしたいならすればいいと思うよ。ハンナも賛成してるし」
「ありがとう、マーサさん」
「私も、賛成します」
「ありがとう、お義母さん」
そして、黙っていた他の面々も、次々に賛成してくれる。
「オリジナルを毀損せずに移動するというのは困難なことだと思うが、ジン君ならできるんだろうな」
「故人が遺した遺構が風化しないように……というのは正確なコピーを遺すことで達成できるしね」
ロドリゴとトアも同意してくれた。
リシア、『長老』ターレス、ロロナらはまだ黙っているが、特段反対しているというわけではない。
「吾としても、『主人たち』が遺した『天駆ける船』をこちら、ヘールに持ってきているしな。ジン殿の気持ちはよく分かる」
「なんといっても、遺された者の気持ちは大事だと思いますよ」
『長老』ターレスとロロナも同意。
まだ意見を口にしていないのはリシアだけである。
そのリシアが、ゆっくりと口を開いた。
「ジンさんの考えはよくわかりますし、いいと思います。あとは、どうやるのか、それがはっきりすれば……」
「そうか、リシアはそれが気になっているのか」
「はい」
これで全員、基本的には賛成の意を示してくれたわけだ。
「それについてはこれからじっくりと考えるよ」
ただ、場所はもう大体決まっている、と仁は言った。
「大陸の東海岸だな」
ヘールには大陸が1つしかないため、特に固有名詞は付いていない。
「ジンさんの家やみんなの家もそちらですものね」
ヘールでの緯度は赤道を0度、極点を90度とする。
また経度は西経を使っており、大陸の東端(北緯72度付近)を0度と決めた。
それでいくと仁の家は北緯16.5度(北回帰線上)、西経47度付近にある。
オノゴロ島家を移転した『オノゴロ地区』は南緯16.5度(南回帰線上)、西経90度だ。
また『長老』ターレスの家も、北緯6度、西経90度付近にあるし、アルスと行き来できる大型転移門は北緯16.5度(北回帰線上)、西経36度。
仁ファミリーの家も、北緯20度、西経50度と、大陸の東側に集中している。
ちなみに、大陸の西側は『始祖』の成れの果てである『紛い物』たちが住んでいる。
そんなわけで仁は、遺構を移築するのは東側、と考えているのである。
「特に反対意見もないなら、どうやって実現できるか考えていこう」
そういうことになった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は4月10日(金)12:00の予定です。
20260407 修正
(誤)もう1つは遺された者が個人を偲ぶため
(正)もう1つは遺された者が故人を偲ぶため




