99-125 今を生きる人たちの幸せ
9月3日、『アヴァロン』。
仁たちが『アヴァロン』を去る日は9月5日と公式発表された。
仁たちとは仁、エルザ、礼子、リシア、サキ、そしてデウス・エクス・マキナ3世のことである。
拠点である『アルカディア』を寄贈してしまったマキナ3世なので、共に仁の拠点へ行く、ということになっている。
『アヴァロン』の面々は皆、仁たちのサポートなしに自立しなければならないことを自覚しており、本音ではもっといてほしいと思ってはいても、それを口には出さず、感謝の気持を込めて見送ろうと思っていた。
……一人を除いて。
「サキお姉さま、寂しいです」
『アカデミー』におけるサキの一番弟子、スーリヤ・サンクである。
「もっともっと、いろいろ教えていただきたかったです……!」
サキの手を掴み、目をうるませている。
そんなスーリヤにサキは、諭すように声を掛ける。
「教えるべきことは教えたよ。あとは君次第だ」
「お姉さま……」
「ボクが教えたことを、1人でも多くの人に教えてくれたら、嬉しいな」
「は……はいっ、きっと! 必ず!!」
サキに言われ、スーリヤはやる気を見せた。
「うん、頼んだよ。ボクの教え子」
「お姉さま……っ!」
* * *
リシアも、教え子たちに取り巻かれていた。
「先生、ためになる講義、ありがとうございました」
「実践での心構え、忘れません」
ほとんどが、共に各地を回って治療を行った学生たちである。
「人を救ってこその医療です。それを忘れないで」
「はい、ありがとうございました!!」
リシアの言葉に、皆涙を浮かべながら頷いたのであった。
* * *
そして、『農業研』。
ここには、仁とエルザから新たな作物のヒントが与えられていた。
「『自由魔力素濃度』を上げての栽培及び貯蔵ですか……」
「それは、是非やってみたい研究テーマですね!」
ロロナから聞いた通り、副室長のキク・マスカワはこの話に飛びついた。
「魔法工学では常識なんだが、魔力系素材は『高自由魔力素濃度』で保存すると、強度をはじめとした性能が向上するんだ」
「それを、作物でも、ということですね」
「そういうことだ。ロロナさんによれば、ノルド連邦は元々『自由魔力素濃度』が高いので、ローレン大陸の作物よりも保存性が高いという」
そしてエルザも言葉を添える。
「そうした作物を食べることで、健康増進にも役立つんじゃないか、と期待できる」
「なるほど、付加価値も高くなりますね」
更に仁も、
「『自由魔力素濃度』を上げるための方法はゴウやルビーナ……『総合技術士』が知っているよ」
と方法を示唆する。
「わかりました。相談してみます」
こうして、新たな作物の開発も始まる……。
* * *
そして、ゴウたちである。
「ジン様、エルザ様、寂しくなりますね……」
「もっといろいろ教えてもらいたかったです」
だが仁は、
「はは、『ファミリー』として、いつでも教えてやれるぞ」
と言って笑う。
「それはそうですけど」
「『仲間の腕輪』で老君に連絡すれば、蓬莱島へ転移する方法を教えてもらえるから」
ゴウとルビーナは、仁と違って『ハリケーン改』のような所有物がないため、『転移門』を隠しておけないのである。
そこで老君が、その時々に応じて『転移門』あるいは『転移魔法陣』を転送することになる。
転送された『転移門』は使用後内蔵された『転送装置』によって蓬莱島へ戻って来るのだ。
『アヴァロン』に戻る際は『転送機』で送ってもらえる。
「早く自分たちの航空機を持てるようになりたいですよ」
「あと少しさ」
今のところ、格納庫の問題で個人での航空機の所有はまず許可が下りないのである。
その点のおいても、仁はいずれ仮拠点の『崑崙』を寄贈することを予定しているのだ……。
* * *
メルツェもまた、仁たちがいなくなるのは寂しいようであった。
「……まだあの事件も解決していないので、相談できなくなって残念です」
「いや、それだって『仲間の腕輪』で相談してもらえればいいぞ」
「そうなんですけど」
それでもやはり、いつもそこにいる、と思っていた仁たちがいなくなってしまうというのは寂しいものらしい。
「……でも、いつまでも頼っていてはだめなんだ、って思ってはいるんです」
「メルツェ、ゴウもルビーナもいる。俺たちは見放したわけじゃない。これからも頼ってくれていいんだ」
「ん、遠慮は、いらない」
「はい、ジン様、エルザ様」
そうまで言われても、やはり感情はいかんともしがたいようである……。
* * *
「思った以上に残念がられたな……」
「ん」
仁とエルザは『アヴァロン』の自室を片付けながら話し合っていた。
「やっぱり頼りにされていたか……」
「それは、しょうがない」
この1年くらいで『アヴァロン』の技術レベルは格段に向上している。特に、魔法工学系と医療面。
それは、とりも直さず仁たちの尽力によるものである。
「この先は、自分たちだけでやっていけるだけの基礎は教えたつもりなんだよな」
「ん、同感」
前回の仁はかなり深く関わっていたため、そんな仁の没後に『魔法連盟』という技術否定の集団が世界を引っ掻き回した結果、せっかくの技術が失伝してしまったという事実が残されている。
それを回避するために今回の(複体の)仁は、干渉はできるだけ少なくし、基礎の底上げに務めていたのである。
「あとは、時々様子見をすればいいと思うんだよな」
「ん」
今の仁や元『第1期仁ファミリー』のメンバーは、本来この世界にはもういないはずの面々である(シオンを除く(ロロナは、ファミリー入りしたのは3902年4月7日))。
そんな者たちが世界に干渉しすぎるのはいいことではないだろうと意見が一致していた。
そこでそろそろ仁、エルザ、礼子、リシア、サキらは『アヴァロン』を離れよう、というわけである。
同じ『第2期仁ファミリー』でも、今を生きているゴウやルビーナ、メルツェ、ロードトス、リュドミラ、ロロナらは別だが。
「遠くから今を生きる人々を見守る、それが自然なことなんだろうな」
「やってみるしか、ないし」
「そうなんだよな」
これが間違っていたなら、その時はその時。
よりよい路線を模索していくしかないのだから。
仁とエルザは、物がなくなってがらんとした居室の中で、今を生きる人たちの幸せを祈るのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は4月5日(日)12:00の予定です。
20260403 修正
(旧)
今の仁や元『第1期仁ファミリー』のメンバーは、本来この世界にはもういないはずの面々である。
(新)
今の仁や元『第1期仁ファミリー』のメンバーは、本来この世界にはもういないはずの面々である(シオンを除く(ロロナは、ファミリー入りしたのは3902年4月7日))。




