99-107 のんびりした午後が一転
庭園の散策を終えた仁たちは迎賓館に戻り、風呂に入ることにした。
ここの風呂は300年前に温泉を掘り当てたそうだ。
他の客もいないので、仁とエルザは家族風呂へ。
家族風呂といっても、5人くらいは楽に入れるほど広い浴槽である。
ホープはゴーレムなので入口で警護。
礼子は仁、エルザとともに浴室へ。
「久しぶりだな」
「ん、蓬莱島で入って以来、かも」
「で、この前……リュドミラの誕生日は他にも大勢いたから別々だったしなあ」
「うん」
などと、照れもなく、熟年夫婦の雰囲気を醸し出しながら温泉を楽しむ2人である。
「そういえば、ロードトスとリュドミラの結婚式、どうするんだろう」
「今から、心配しなくても」
「そうなんだが、お祝いをどうするか考えておかないとな」
「確かにそれは、そう」
ロードトスも『魔法技術者』であるから、ゴーレムを贈るというのも違うしな、と仁。
「やっぱり、アクセサリー?」
「だと思うんだ。エルザはどう思う?」
「私も、それがいいと思う。……ここで買っていく、というのは、どう?」
「あ、それはいいかもしれない」
ミツホとノルド連邦の接点は少ない。
ミツホ製のアクセサリーなら、ロードトスとリュドミラも喜んでくれそうな気がする、と仁は思った。
「お父さま、お背中をお流しいたします」
「そうだな、頼む。その後、エルザも流してあげてくれ」
「はい」
そんなこんなでのんびりと温泉を楽しんだ仁たち。
大分のんびりしたつもりだったが、部屋に戻るとまだ午後3時半である。
「……退屈だ」
「……うん」
「つくづく、のんびりするのに向いていない性格なんだな……」
「……同感」
似た者夫婦であった。
* * *
暇を持て余していた時、部屋の外から声が掛けられた。
「申し訳ございません、ジン様、エルザ様。いらしゃいますか?」
「……アタルさんの声」
「なんだろう? 礼子、ドアを開けてやってくれるか?」
「はい、お父さま」
ドアの前で待機していた礼子に言って開けさせると、アタル・ムトゥが少し息を切らせて立っていた。
「お寛ぎのところ誠に申し訳ございませんが、お力をお貸しいただけませんでしょうか?」
こころなしか、顔色が悪い。
「何かあったんですか?」
「ええ、実は『サヤマ湖』で船の事故があったのです」
「えっ」
「救出したいのですが、事故を起こしたのは大型船なので、手持ちの船や飛行機だけでは間に合わないのです」
「わかりました」
人命第一と、仁は立ち上がった。
「礼子、ホープ、行くぞ」
「はい、お父さま」
「はい、ご主人様」
「私も、行く」
「そうか、頼む」
怪我人がいるかも知れないと、エルザも後に続く。
「ムトゥさん、案内を頼みます」
「わかりました」
迎賓館の中庭に駐めてある自動車に乗り込む仁、エルザ、礼子、ホープ、そしてアタル・ムトゥ。
自動車を急発進させたアタル・ムトゥは、事故を起こさないぎりぎりの速度で飛行場へと向かう。
その道中、簡単に状況説明がなされた。
「サヤマ湖では、淡水魚の養殖が盛んです。そして、観光地としても人気があり、最近は大型の遊覧船が何隻も運航しています」
「なるほど。……その遊覧船が事故を起こしたんですね?」
「そうです。養殖のためのエリアを区切っている網に突っ込んだようで……」
「スクリュー船だったら網が絡みつきますね」
「まさにそれです。……しかもその上、進行方向を制御できなくなって漁船と衝突したらしくて、船腹に穴が空いたそうなんです」
「救助は?」
「付近の船が総出で当たっていますが、なかなか……」
そう話している間に、自動車は飛行場に到着した。
『ハリケーン改』はもう目と鼻の先だ。
自動車を降りた仁たちは『ハリケーン改』へと走り寄る。
仁は操縦士であるホープに指示を出した。
「ホープ、緊急発進準備」
「了解」
ホープは一足先に『ハリケーン改』に取り付き、ハッチを開け、仁たちのために乗降用のタラップを下ろした。
そして操縦席に着くと、全機関を始動させ、動作を確認する。
その頃には仁、エルザ、礼子、アタル・ムトゥも乗り込んでおり、シートベルトを締めていた。
「緊急発進」
『ハリケーン改』はふわりと浮き上がった。
にも関わらず、ショックはほとんどない。
一刻も早く現地に着く必要があるために『力場発生器』を使っているからだ。
仁が『緊急発進』と指示を出したからである。
「ホープ、サヤマ湖に向かえ。……事故現場はわかるか?」
「はい、ご主人様。目視確認できます」
「よし、急げ」
「了解」
飛行場からは2キロほどの距離なので、超音速を出すまでもなく、30秒ほどで転覆した遊覧船の真上に到着した。
遊覧船の全長は40メートルほど。
現代日本の芦ノ湖にある木造遊覧船(海賊船)よりも大きい。
「転覆どころじゃないな……半分沈んでいるじゃないか」
「船腹に穴が空いたせいですね」
礼子が言う。
「礼子、船内に人は残っているのか?」
「……はい。中央付近の船室に、15人が取り残されています。空気があるので、今のところは大丈夫そうです」
老君が『覗き見望遠鏡』で調べた結果を、礼子が伝えてくれる。
「そうか」
見たところ、湖に投げ出された人はほぼ全員が救助されているようだった。
「となると、問題は船内に取り残された人たちか」
転覆した遊覧船は、ゆっくりとではあるが沈みつつあるようで、このままでは危険である。
「船腹の穴はどれくらいの大きさなのか、わかるか?」
「はい。……おおよそ2メートルほどの円形です」
「そうか……よし」
仁は救助方法を思い付いたようである……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は2月22日(日)12:00の予定です。
20260220 修正
(誤)一刻も早く現地に付く必要があるために『力場発生器』を使っているからだ。
(正)一刻も早く現地に着く必要があるために『力場発生器』を使っているからだ。




