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99-94 穀倉地帯

 明けて8月25日の朝が来た。


「幾分、日の出が遅くなってきたみたいだな」

「ん」


 この星の夏至はだいたい7月1日前後。

 2ヵ月近くてば、日も短くなろうというものだ。


 朝食は1階の大広間で食べる。

 もちろんパーティションで区切っているので、だだっ広い広間で2人(と2体)での朝食、とはならない(そもそも仁は狭めの部屋の方が落ち着く性格をしている)。


「今日はシオンのところか」

「ん、予定どおり9時頃出発する?」

「それでいいな」


 昨日のうちに老君からシオンへ連絡を入れてもらっているのでいきなりの訪問ではない。


「マリッカ工房を見てきたいな」

「私は、向こうの医療体制を確認したい」


 仕事を離れても、やはり気になるものは気になるようだ。

 エルザももう、立派なワーカホリックである……。


*   *   *


「ジン様、またいつでもいらしてください」

「エルザ様、お世話になりました!」

「皆様、お気を付けて」


 見送りはいいと断っておいたのに、エリス、フレディ、グリーナらが手を振っている。


「みんなも元気でな」

「健康には気を付けて」


 仁とエルザも返答をして『ハリケーン改』に乗り込んだ。


「ホープ、ノルド連邦へ向けて発進だ」

「了解」


 『ハリケーン改』はゆっくりと浮かび上がる。

 地上を見れば、小さくなっていく二堂城。


 そんな『ハリケーン改』が見えなくなるまでエリスたちは手を振っていた。


*   *   *


「ホープ、それほど急ぐ必要はないぞ。200キロくらいでいいからな」

「わかりました、ご主人様」


 ホープは『ハリケーン改』の速度を時速200キロに保ち、なおかつ地上がよく見えるよう、雲を避けて飛んでいく。


「ああ、よく見えるな」


 高度は5000メートルほど。

 カイナ村の北にそびえる山々には6000メートル級の山もあるが、大半は4000メートルちょっとなので、『ハリケーン改』はそういう場所を通っている。仁たちに景色を楽しんでもらうためだ。


「昔、『カプリコーン1』で北へ行ったなあ」


 そんなことも思い出される。


「お、パズデクスト大地峡が見えてきた」

「ん、懐かしい」


 直線で向かうのではなく、仁たちが楽しめるようにコース取りをしているのである。

 最近は、こうしてのんびりと飛行を楽しむような移動をしていなかったので、仁もエルザもくつろいでいた。


 パズデクスト大地峡を過ぎれば、200キロちょっとで『森羅しんら』の氏族領である。

 今の『ハリケーン改』の速度ならおよそ1時間だ。


「お昼にしようか」

「……うん」


 時刻は午前11時半、『森羅しんら』の氏族領に着く頃には午後0時半を回っているだろうから、『ハリケーン改』の中でお昼にしようというわけだ。


「お父さま、何かご希望はおありですか?」


 礼子に聞かれた仁は、


「焼きおにぎりが食べたい」


 と即答した。


「わかりました。エルザさんは?」

「同じでいい」

「はい」


 礼子が返事をして1分後、簡易テーブルの上に焼き立ての焼きおにぎりが載った皿が現れた。

 続いて飲み頃のほうじ茶も。


 蓬莱島で用意したものを、老君が『転送機』で送って寄越したのだ。


「うん、うまい」

「おいしい」


 ここのところ、『蓬莱島の味』に飢えていた仁たちである。

 カイナ村の味ももちろん懐かしかったが、一番馴染んだ『蓬莱島の味』もまた、食べたい味の上位に来ているのだ。


*   *   *


 食べ終えると、『ハリケーン改』はゴンドア大陸上空にいた。


「ご主人様、あと20分ほどで『森羅しんら』の氏族領です」

「わかった。高度をゆっくりと落としていけ」

「了解です」


 眼下は一面に広がる『春小麦』の畑である。

 『春小麦』は、春に種を播いて秋に収穫するものである。

 冬小麦(秋播き小麦)とは違い、低温に合わなくとも育つことができる品種だ。

 一般にタンパク質含有量が多く、強力粉きょうりきこの原料になる。

 北海道で栽培されている『春よ恋』という品種はこれである。


 ここの小麦はそれに近い品種で、もちろんロロナが60年の歳月を費やして選別し、完成させた品種である。


「つまり、ロロナの努力の結晶というわけだ」

「ん」


 400年前、シオンが援助(主に食料)を求めてカイナ村にやって来た。

 さらにその300年前は、強硬な手段(武力)で南下し、『魔導大戦』と呼ばれる一大事件が生じた。

 それもこれも、彼らの住む土地が寒すぎて満足に食料を得られなかったことに起因する。

 そして今、そんな過去を払拭するかのように、『緑の絨毯じゅうたん』が晩夏の日差しに輝いていた。


「ところどころにビニールハウスも見えるな」

「うん、このあたりは穀倉地帯になってる」


 『穀倉地帯』とは、穀物を大量に生産し、他の地域に供給できるほど豊かな農業地域、ということである。

 つまり『森羅しんら』の氏族領は、自分たち食べる分だけでなく、輸出することができるほどの食糧が生産できるようになったということ。


隔世かくせいの感があるな……」


 こうして、ゆっくりと訪れる機会がなかったため、今日この日の訪問は、仁たちにとって感慨深いものになったようである。


*   *   *


 そして『ハリケーン改』は『森羅しんら』の氏族領の外れにある飛行場に着陸した。


「いらっしゃい、ジン、エルザ」

「やあ、シオン」

「久しぶり」


 『森羅しんら』の氏族長夫人、シオンが仁たちを出迎えた。

 シオンは今年で519歳。

 北方民族としても高齢であるが、まだまだ元気である。


「今日は仕事を離れて遊びに来たよ」

「ええ、のんびりしていってちょうだい」


 そう言って微笑んだシオンの顔は、400年前と変わらないな、と思った仁であった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。


 次回更新は1月23日(金)12:00の予定です。

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明けて8月25日の朝が来た。 仁「幾分、フレディとグリーナの目覚めが遅くなってきたみたいだな」 エ「ん。と言うよりも、多分寝てない、と思う」 礼「……僭越ですが、下世話では……」 >2ヵ月近く経て…
>>狭めの部屋の方が落ち着く ハ「キノコの生えていそうな猿股に・・・」 エ「ランニングシャツ?」 仁「なんと古い・・・・・」 >>200キロくらい ハ「パーセコンド?」 エ「ミニッツくらいで」 仁「…
> 朝食は1階の大広間で食べる。 > もちろんパーティションで区切っているので、だだっ広い広間で2人(と2体)での朝食、とはならない(そもそも仁は狭めの部屋の方が落ち着く性格をしている)。   今も、…
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