99-92 カイナ村散策
さて仁とエルザは、久しぶりに『二堂城』の自室で寛いでいた。
天気は晴れ。
最上階まで登り、周囲を見渡せば、かなり遠くまで見える。
特に北には、夏でも雪をいただく山々が連なっている。
この山のお陰で、カイナ村には水不足が起きないのだ。
礼子が淹れてくれた冷たい煎茶を飲みながら、仁とエルザはのんびりと過ごす。
「あの山々のさらに向こうにはノルド連邦があるんだなあ」
「行くのは明日にする?」
「そうしようか。シオンたちにも会いたいし……」
カイナ村、ノルド連邦、ミツホ、ロイザートと、行き先だけを決め、日程は決めていなかったのでこういう柔軟性があるのだ。
「老君からシオンに連絡を入れておいてもらおう」
「で、時間は?」
「明日の昼、でいいんじゃないかな?」
カイナ村と『森羅』の氏族領では、時差は小さい。
ゆえに二堂城からなら気軽に訪問できるのである。
「それじゃあ今夜、フレディとグリーナが帰ってきたら一緒に食事……というか、グリーナの誕生日祝いをして、明日の昼前にノルド連邦へ行くか」
「ん、それでいい。あと、エリスさんに話しておかないと」
「ああ、そうだな。こっちでお祝いをする、と伝えておかないとまずいよな」
当面の予定はそういう事になった。
「まだ夕方までは時間があるから、カイナ村を散歩してみようか」
「うん」
「礼子も行こう」
「はい、お父さま」
ということになる、仁、エルザ、礼子らは二堂城を出てカイナ村へと向かった。
エルメ川を渡り、村の中心へ向かって歩いていく3人。
「お、ジンさん」
「エルザさん、久しぶりだね」
「レーコちゃんも元気そうだねえ」
村人から声が掛かる。
今は、エリスたちとの友人、あるいは客人という認識をされているようだ。
領主であるエリスとの真の関係性は村人には知られていないため、畏まられることはなく、仁たちもそんな距離感を好ましく感じている。
これが、領主より上の者だということでそれなりの対応をされたら疲れてしまいそうだからだ。
「あまり、変わってない」
「そうだな。だけど、そこがいいところだよ」
「うん。……そもそも、400年前、もうここは既知世界で一番居心地のいい村だったし」
もちろん、『蓬莱島は除く』(とはいえ、蓬莱島は村落ではないが)。
今現在は『オノゴロ島は除く』となるのかもしれない(だが既にヘールに移住しているが)。
ノルド連邦と比べたらどうかというくらいである。
その場合、より南にある分気候が穏やかなカイナ村の方が住み心地がいい……かもしれない。
「あのポンプはずっと使っているんだよなあ……」
「お父さまが『強靱化』や『硬化』、『不活性化』を何百回も重ね掛けしてましたからね」
「そんなことしてたのか、俺」
中年〜晩年の仁が何をやっていたのか、今の仁は知らないし、知らなくていいと思っている。
知らないと困ることがあれば、エルザや礼子や老君や……周りの者がサポートしてくれる。
新たなものを『創造』する喜びを感じるチャンスを、できるだけ失いたくないという、いわばわがままであるが……。
「創造の喜び、楽しさ……それを『思い出す』ことはできるけど、『感じる』ことはできないんだよなあ」
新しいものを作り出した、その当時の想いを覚えてはいる、だが、同じ感情を再び抱くことはできないのだ……。
「その気持ち、わかる。だからみんな、ジン兄に余計なことは言わない」
「うん、感謝してるよ」
そうこうするうち、マーサとハンナが暮らしていた家へとやって来た。
「……これだもんな……」
「…………うん」
もちろん、一時期仁も一緒に暮らしていたわけで、その時に増改築した家は保存されており、記念館になっているのだ。
「ここも、お父さまが数百回『強靱化』や『不活性化』を掛けています」
「……やっぱりな」
ちなみに、マーサの家はそっくりそのままと言っていいほどの再現度でヘールに建っている。
『亜自由魔力素技術』を使い、分子レベルまで同一に再現した、もはやコピーとは呼べないコピーだ。
なにしろ、汚れはもちろん、ハンナが小さい時に付けた傷までそのままコピーされているのだから。
どちらがオリジナルか、単に見ただけでは判別できない。
閑話休題。
仁が一時期暮らしていた家の方は記念館として保存されており、カイナ村の住民なら誰でも、観光客は心付けを納めれば内部を見学することができる。
日々の管理を行っているのは専用のゴーレムである。
「まあ、ここは見なくてもいいや」
「うん……」
さすがに自分の暮らしていた家が『記念館』として『注釈付き』で一般公開されているのを見る、という選択肢は仁たちにはなかった……。
「ヘールにこの家のレプリカがありますものね」
礼子が言った。
そう、マーサの家だけでなく、仁のこの家も、ヘールに再現してあるのだ。2軒の位置関係も、ミクロン単位で正確に。
* * *
そこを通り過ぎ、『雪室』や『公衆浴場』を眺める。
400年前、初めて仁がカイナ村にやって来て作った公衆浴場も改築・増築されて、今は2階建てのスーパー銭湯のようになっている。
が、村人は無料で利用できるのは変わっておらず、憩いの場としても役立っていた。
「やっぱり、寒いときには温泉。暑くて汗をかいたときも温泉。働いて埃にまみれた時も温泉。そして遊び回って汚れた子供にも温泉、だよな」
「ん、ジン兄が温泉好きなのは、よく、知ってる」
微笑ましいものを見るような顔をしたエルザであった。
* * *
そして雪室へやって来た仁たち。
「懐かしい。中を雪で満たしたっけ」
「そんなこともあったな」
エルザがうっかりカイナ村との『転移門』で転移して迷子になった時のことだ。
すっかりカイナ村に馴染んだエルザが、仁の作った『雪室』に『雪弾』で雪を満たしたことがあった。
その時のことを懐かしく思い出したエルザである。
「ここは、昔と変わらない時間が、流れてる」
「ああ、そうだな。ほっとするよ」
心身の疲れが癒される思いのする2人であった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は1月18日(日)12:00の予定です。
20260116 修正
(誤)ちなみに、マーサの家はそっくりそのままと言っていいいほどの再現度でヘールに建っている。
(正)ちなみに、マーサの家はそっくりそのままと言っていいほどの再現度でヘールに建っている。
(誤)観光客は心付けを収めれば内部を見学することができる。
(正)観光客は心付けを納めれば内部を見学することができる。




