99-91 まずはカイナ村へ
「それじゃあ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい、ジン様、エルザ様」
8月24日午前8時、仁とエルザは『ハリケーン改』で『アヴァロン』を出発した。
目指すはクライン王国北部、カイナ村である。
『アヴァロン』からの距離はおよそ700キロ、時差はプラス1時間。
8時に出発し、時速700キロで飛ぶと、移動時間プラス時差イコール2時間で到着は午前10時となる。
* * *
『ハリケーン改』は『二堂城』前の広場に着陸。
前日に連絡をしておいたので、現領主のエリスが出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました、ジン様」
「しばらくぶりだな。元気そうでよかった」
「はい、お陰様で」
「これは土産だ。村人たちにも配ってくれ」
「これはこれは、ありがとうございます」
仁は大きなコンテナに入れた果物を見せる。
カイナ村の各家庭に10個ずつ配ってもまだ余る量がある(配るのはゴーレムメイドであろう)。
保存用のコンテナごと二堂城前に置いた仁であった。
その後仁、エルザ、礼子、ホープ(ここでは留守番の必要がない)、それにエリスは二堂城内へ。
1階の大広間に座布団を敷いて座った。
大広間のど真ん中ではなく、西に寄った場所である。
西側には台所があるので、お茶の支度をするのに便利なのだ。
二堂城付きの五色ゴーレムメイドたちが甲斐甲斐しく働き、座卓を運び込み、お茶とお茶菓子が用意された。
お茶はもちろん……。
「ああ、この味はここでなきゃ味わえないな……」
カイナ茶である。
カイナ村周辺で取れる『お茶の木』の葉から作るお茶だ。
日本でいう『杜仲』に近い種類で、樹液から『グッタペルカ(あるいはガタパーチャとも)』に似たゴムが取れる、有用な木である。
ガタパーチャと異なるのは、より伸縮性があることか(ガタパーチャは伸縮性に乏しい)。
閑話休題。
400年前、仁が初めてこの世界に召喚され、『転移門』の暴走でカイナ村に飛ばされてマーサとハンナに世話になった時、毎日のようにこのお茶を飲んでいた。
それ以来、このお茶は仁にとって『故郷の味』になっているのである。
そしてその健康への効果が人気となって、カイナ村の産業の1つとなっている。
「私も、この味好き」
「ノンカフェインだしな」
「病院でも、高血圧の患者に飲ませると、いいかも」
「あ、そうだな」
薬としてではなく、毎日積み重ねる健康法としての『お茶』である。
カイナ村のお得意様が、また1つ……。
* * *
「このクッキーも、美味しい」
「ワイリージャムを付けて食べると格別だよな」
「ん」
これもまた、懐かしい味である。
ワイリーは野生のイチゴで、カイナ村周辺の山に多い。
それで、初夏になると子どもたちはワイリー採りに行く。
ワイリーは酸味が強く、生食するにはあまり向かない(酸味に強い人なら可能)ので、煮込んでジャムにするのだ。
一般的にいって、酸味の強いものの方がジャムにした時(当然、砂糖を加える)に美味しいといわれている。
そうしたお茶請けとお茶を味わいながら、仁はエリスに近況を聞いた。
「作物も豊作続きで、備蓄は十分にあります。余剰分は出荷していますし」
「それはよかった」
二堂城や村の北側などの地下に大規模な貯蔵庫があって、そこに余剰作物を備蓄している。
魔導具により『自由魔力素濃度』も高めているので、通常の保管庫の数倍の期間、保存が可能なのだ。
「先日は『アヴァロン』から医師団が来てくれましたが、皆健康でした」
「それはよかった」
カイナ村の管理は『魔導頭脳庚申』が縁の下の力持ち的に村をサポートしているのである。
異常があれば、老君を通じて仁に報告が入るのだが、ここ数年、そうした報告は受けていない。
健康管理に関しても同様。
もっとも、カイナ村の衛生状況はどこの国と比べても劣っていない(というより進んでいる)が。
「観光事業も順調です。温泉は好評ですし、エルメ川の遊覧船も」
「それはよかった」
その昔、仁が掘り当てた温泉は好評で、今では近隣から入浴目的でやってくる旅行者も増えたのだという。
そして、エルメ川の水運にとマルシアたちに依頼して作った船の発展型が、今では遊覧船として観光にも使われているようだ。
「ところで、フレディは?」
いつもならエリスと一緒に顔を見せる彼がいないので、仁はちょっと気になったのである。
「ああ、あの子は、グリーナさんと外出してます」
「そうだったのか」
「先日、正式に婚約しまして」
「それは、おめでとう」
「ありがとうございます」
これで跡継ぎも心配ないかな、と思った仁である。
「で、どこへ?」
「王都へ行ってます」
「アルバンか」
「はい。2人でショッピングだそうです」
「はは、仲がよさそうで何より」
そんな風に、変わったこともなく、平和なカイナ村である。
* * *
クライン王国首都、アルバン。
王城がある王都でもある。
フレディとグリーナは、そのアルバンで商店を巡っていた。
「リーナ、これなんか似合いそうだよ」
「あ、いいわね」
今はアクセサリー店にいる。
フレディは、婚約記念にネックレスを贈ろうと考えているのだ(婚約指輪は既に贈った)。
今日……8月24日がグリーナの誕生日なのだ。
「琥珀……これ、いい色ね」
「リーナの目の色と同系統だからね」
「あ、ありがとう」
グリーナの瞳は鳶色。
鳶色とは慣用色名で、甘みがかった暗めの茶褐色である。
光の方を見ている時、その瞳は琥珀のように輝く。
そこで同系統とフレディは言ったわけだ。
「じゃあ、これにしよう」
2人の仲は良好のようである……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は1月16日(金)12:00の予定です。
20260113 修正
(誤)カイナ村の管理は『魔導頭脳庚申』が縁の下の力持ち的に村をサポートしているのである。
(正)カイナ村の管理は『魔導頭脳庚申』が縁の下の力持ち的に村をサポートしているのである。




