99-87 メルツェの現地確認
8月22日になった。
『アヴァロン』とショウロ皇国の『アンベルク』との時差はマイナス1時間半ほど。
『アヴァロン』を午前8時に出発し、時速350キロで飛べば2時間弱でアンベルクなので、到着するのは午前8時半くらいとなる。
もっとも、目的地はアンベルクの町ではなく、ハタタの町との中間地点である。
「それでは、行ってきます」
「気を付けてな」
「はい」
仁と礼子、アーノルトに見送られ(ゴウとルビーナはもう仕事中、エルザは『アヴァロン病院』へ行っている)、メルツェは『アヴァロン』を発った。
まあ、実のところ『分身人形』、つまりメルツェD(略してメルD)なのだが。
* * *
およそ2時間の飛行の間、メルDの操縦者であるメルツェは、途中の景色を堪能するよりも、蓬莱島の頭脳である老君と会話をすることを選んだ。
「老君さん、今回の事件についての私の考えを聞いてもらえますか?」
『メルツェさん、伺いましょう』
「それでは。……特徴的なのが、『死者を出していないこと』『正体を隠していること』『目的が不明なこと』『ほぼすべての国に出没していること』だと思うんです」
『ええ、間違ってはいませんね』
「老君さん、解答はいりませんが、私の思考の道筋が間違いそうになったら指摘していただけますか?」
『はい、いいですよ』
老君は承諾してくれたので、メルツェはお願いします、と言って自分の考えをまとめるかのように語りだした。
「先入観を育ててしまうので、情報が少ないうちにいろいろ推測するのは自重しています」
『それはよいことだと思います』
「ありがとうございます。……次に、『死者を出していない』理由は、今の段階でも多少の推測は可能かと思っています」
『そうですね。何か、思い当たることでも?』
「死者が出るということは、大事だからではないでしょうか」
その場合、警備兵ではなく、もっと上の兵や軍が出張ってくる可能性があるからでは、とメルツェは推測したのである。
『その可能性はありますね。いい着眼点だと思います』
「ありがとうございます」
そんな会話をしているうちに、『レルヒ0』は海を渡り終え、陸地上空へ出た。
『メルツェさん、『レルヒ0』はセルロア王国上空を飛んでいますよ』
「あ、ありがとうございます。……わあ、いい眺めですね」
海の上と違って、変化に富んだ風景を見て、『分身人形』に意識を移し、しばし風景を楽しむメルツェであった。
* * *
風景を堪能したり老君との会話をしたりしているうちに2時間が経って、『レルヒ0』は『干からび街道』上空にいた。
事件があったのは『干からび街道』、アンベルクとハタタの中間あたり。
ちょうどいい目印として、小さな岩塔が3本そびえている。
「さて、降りた方がいいのかしら」
『いえ、メルツェさん、まずは上空から観察を行い、徐々に高度を下げていくことをお勧めします』
「ありがとうございます、老君さん」
蓬莱島で老君から助言をもらいながら、メルツェは『分身人形』を操っていく。
「ララ、高度50メートルでゆっくり……時速4キロで飛んで」
「了解」
現場のポジションは、事前にララにインストールしてもらっていたし、何より老君が誘導してくれたため、安心である。
「目視では何も見えませんね……ララ、そちらはどう?」
「はい、メルツェ様。特に変わったところはないようです」
「そう。……では、高度を20メートルに落として、もう一度付近を確認しましょう」
「了解」
それでも何も発見できなかった。
『メルツェさん、それでは現場より少し離れた場所に着陸してください』
「わかりました。……ララ、お願いね」
「了解」
そういうわけで、『レルヒ0』は街道から30メートルほど離れた場所に着陸する。
メルDは周囲を確認しつつ地上に降り立った。
『テクノ49』、『テクノ50』もそれに続く。
『レルヒ0』はララに留守番してもらうことになった。
「事件があったのはこのあたりというけど、何も残っていませんね……どんな小さな痕跡でもいいですから、何かないでしょうか……」
そんな独り言めいたセリフを聞いた『テクノ49』、『テクノ50』はちゃんと聞き取っていた。
その結果は……。
「『転移魔法陣』の痕跡を発見しました」
『テクノ49』からの報告。
予想と異なり、『亜自由魔力素技術』を使わずとも、手がかりを見つけることができたようだ。
「え、それは願ってもないことですね」
喜ぶメルツェ。
「どこですか?」
「こちらです……メルツェ様、痕跡を踏まないようお気を付けください」
「あ、はい」
『テクノ49』に注意され、慌てて立ち止まるメルツェ。
そして、痕跡らしきものがある場所をそっと覗き込んだ。
「……わかりません」
肉眼では判別できないようだ。
そこで老君から助言。
『メルツェさん、『分身人形』の視覚センサーのモードを『ノーマルモード』から『ハイモード』に変更してください』
「あ、はい」
『ノーマルモード』は人間と同じ性能のモードで、『ハイモード』は一般ゴーレムのちょっと上くらいの性能になるモードだ。
ちなみに『ハイモード』の上に『スーパーモード』があって、蓬莱島のゴーレムレベルまで能力が向上する。
老君の助言に従い『ハイモード』に切り替え、魔力波モードで見てみると、確かに魔法陣らしき模様が確認できた。
とはいってもところどころ抜けている上、メルツェは魔法技術者ではないのでそれが『転移魔法陣』であるということはわからなかったが。
「この部分に特徴的な『魔導式』が使われていますし、ここの図式も転移系に独特のものです」
「そうなんですね」
「ですので、『空中から現れた』のは、どこからか転移してきたのだと思われます」
これで、謎が1つ解けた。
だが、真相の究明、事件の解決にはまだ遠い……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今年1年、ご愛読ありがとうございました。
28日からは年末休みをいただき、次回更新は……
2026年1月6日(火)12:00 の予定です。
1月1日には恒例の新年スペシャルの方を更新します。
皆様、佳いお年を。




