99-85 メルツェ、調査開始
メルツェは、最高管理官トマックス・バートマンの命により、各国で起きている物資の盗難事件について調査を始めた(実際に行っているのは『分身人形』のメルツェD)。
手始めはショウロ皇国の被害者……『ウエスト商会』からである。
まず、副商会長のショーゾウ・ダニンから話を聞くところだ。
「それでは、当事直接賊を見た者を呼びましょう」
「あ、そういう方がいらっしゃるのでしたらぜひ、お願いします」
ということでショーゾウは従業員を呼んだ。
「テデイス・ヨダと申します」
見たところ、20代半ば。焦げ茶色の髪、灰色の目。
体格はショーゾウより少し小柄だ。
「『アヴァロン』管理課職員、メルツェ・ライマンと申します。先日襲われた事件について調査しております。お辛いかもしれませんが、襲われた時の状況をお聞かせください」
「はい、わかりました。こちらとしましても、賊を捕まえていただけるなら喜んで協力させていただきますよ」
「ありがとうございます」
テデイス・ヨダは語り出した。
「襲われたのは『アンベルク』と『ハタタ』の町の中間くらいでした」
「とすると、『トロッケンバーン』ですね」
「そうです。セルロア王国へ米を運んでいたのですが、襲われて10トンの米を奪い去られました」
「他に被害は?」
メモを出して要点を書き留めるメルツェD(以下メルD)。
とはいえ内容は全て、同行している『テクノ49』と『テクノ50』、そして『ララ』が記憶してくれている(ついでに見守っている老君も)。
「運んでいた馬車5台が小破から中破、ですね。それから御者がかすり傷を負いましたが、これは慌てて逃げる際に転んだためです。私は無事でした」
「なるほど、直接攻撃されたわけではないのですね」
「そういうことになります」
「逃げる者に追撃もしなかった、と」
「はい」
テデイスによると、『トロッケンバーン』の交通量は今も(仁とラインハルト、エルザらがロイザートを目指した頃に比べても)多くはないとのこと(もちろんショーゾウが仁たちの頃のことに言及したわけではない)。
『ウエスト商会』の一行の他に街道を行くゴーレム馬車がいなくなった昼下がり、賊が現れた。
「何もなかった空中から突然現れたように見えました」
「……興味深いですね……」
姿を隠す結界もしくは転移ではないか、とメルツェは推測するが、口には出さない。
「姿を現したのは、身長3メートルほどのゴーレムが5体です。それぞれが、5台のゴーレム馬車を押さえ込みました」
「かなりの力ですね」
「はい。その時点で、馬車に乗っていた者……御者(操縦者)と商会の従業員は逃げ出しました」
「無理もないですね」
そして、乗る人間が1人もいなくなったゴーレム馬車を、大型ゴーレムはひっくり返してしまう。
逆さまになった馬車の荷台から積載物である米の袋が落下。
それを全て、大型ゴーレムは拾い上げて集め、現れたときと同じ様に一瞬で消えてしまった、という。
「その際、1台だけゴーレム馬車を正位置に戻していったので、皆それに乗って最寄りの町であるアンベルクに救援を求めたんです」
アンベルクの町に戻れたのは夕方だったため、警備隊が現地を訪れたのは翌朝になった。
その時には、転倒したゴーレム馬車が4台残っているだけで、積み荷は影も形もなかった。
乾燥した地面には大型ゴーレムの足跡が残ってはいたが、それを追っていくと突然消えてしまったのである。
まるで、宙に溶けてしまったかのように……。
「……それが、私の体験したことです」
「ありがとうございました、テデイスさん」
メルDは礼を口にした。
「いくつか、質問させていただきたいのですが」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。……まず、何もなかった空中から突然現れたように見えたとのことですが、現れた時は、浮いていたんでしょうか、それとも地面に立っていたんでしょうか」
「立っていたと思います。『空中から』というのは言葉の綾です」
「そうでしたか、ありがとうございます。次ですが、ゴーレムの外見ですが、人間のようでしたか? それとも鎧のようでしたか?」
「そう……鎧のようでしたね」
「ありがとうございます。3つめ、そのゴーレムはなにか声を出しましたか?」
「ええと……いえ、出していませんね。完全に無言……というのでしょうか、動作音しか出していませんでした」
「それから……現場はどなたかが調査していますか?」
「現地の警備兵が調査したと思います。何も発見されていないようですが」
「なるほど、ありがとうございます。では最後にもう1つ、ゴーレムの動きは滑らかでしたか? それともぎくしゃくしていましたか?」
「滑らかでしたね」
「ありがとうございました。……以上で、私からの質問は終わります」
メルDは質問を終え、メモに記入した(そんなことをしなくてもいいのだが、やはり文字での記録は欠かせない)。
メルDの動作は速いので、一言一句過たず書き取れる。
そして老君もまた、その内容を全部知ることができていた(盗聴するまでもなく、メルツェ本人が蓬莱島にいるので)。
そのメルツェは、メルDの操作を一時的に老君に預け、その老君に質問していた。
「老君さん、やっぱり現場を自分で確認したほうがいいですよね?」
『そうですね、メルツェさん。悪いですが現地の警備兵では見落としがたくさんあるかと思われますので』
「でしたら、次は現地へ行ってみます」
* * *
メルDは『転移魔法陣』で『アヴァロン』に戻ると、大急ぎで『中間報告書』を作成、最高管理官に提出した。
「ふむ、さすがだな。要点をきっちり押さえている。……見たまえ」
トマックス・バートマンは副官のイルミナ・ラトキンにもその中間報告書を見せた。
「……そうですね、よくまとまっていますし、必要な項目は押さえているようです」
「現地を確認しに行きたいという要望も許可を出してもいいだろう」
「はい、賛成です」
こうして、メルツェの要望は通り、現地……『アンベルク』と『ハタタ』を結ぶ街道へ向かえることとなったのである。
* * *
「許可が下りたけど、どうやって行こうかしら……」
蓬莱島にいるメルツェは考えた。
付近には『転移魔法陣』はないため、方法としては2つ。
1つは首都ロイザートまで『転移魔法陣』で行き、そこから別の交通手段で行く方法。
ロイザートには『世界警備隊』が駐留しているため、何らかの移動手段はあるはずである。
もう1つは『アヴァロン』から航空機で直接向かう方法。
航空機の機種によっては『転移魔法陣』を設置できるため、現地に到着してからメルツェが移動することも可能だ。
「どうしようかな……」
さて、メルツェの選択は……?
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月23日(火)12:00の予定です。
20251220 修正
(誤)メルツェは、最高管理官トマックス・バートマンの名により
(正)メルツェは、最高管理官トマックス・バートマンの命により
(誤)そして『ララ』が記憶していくれている(ついでに見守っている老君も)。
(正)そして『ララ』が記憶してくれている(ついでに見守っている老君も)。
(誤)それを追っていくと突然消えていまったのである。
(正)それを追っていくと突然消えてしまったのである。
(誤)メルDは質問を追え、メモに記入した
(正)メルDは質問を終え、メモに記入した




