99-83 ちょっとした事件
『レルヒ1』のデモ飛行は大好評のうちに終了した。
その日の午後、管理課にて。
「細かな……と言ってしまうといささか不遜ですが、『なぜこんな?』と思われる事件がいくつか、『世界警備隊』に陳情されていますね」
「そのようだ。……メルツェ君、実態を調査してみてくれないかね?」
「わかりました」
「必要に応じて、『アカデミー』に助力を頼んで構わない」
「はい」
そんなやり取りがなされた。
『アカデミーの助力』とは、『自動人形』やゴーレムを貸し出してもらうことも含む。
そこで早速、メルツェは情報収集を行うことにしたのである。
* * *
まず最初にメルツェが相談したのは、もちろん仁とエルザである。
「……と、いうわけで、どうアプローチしたらいいかと」
「なるほどな。……これは、メルツェの解決能力を試されてるわけか」
「そうだと思います」
「で、わからないことは素直にわからないとして、俺たちに相談しに来たわけだな」
「はい」
「そうか、それでいいと思うぞ」
仁は大きく頷いた。
「何かをなすために、使えるものは使う。それもまた管理職のあり方だろう」
「ん、そう思う」
「ありがとうございます」
「……で、もう少し事件について、詳しく」
「あ、はい」
メルツェはメモも参照し、仁とエルザの2人に説明を行った。
当然2人のそばには礼子がおり、老君もまたその話を聞いているわけである。
それがどう影響するかは、もう少し先の話となる。
それはさておき。
メルツェが説明した内容をまとめると……。
1.最近、各国の流通に障害が起きている。
2.それは、輸送車・輸送船が襲われているからである。
3.被害にあったのは食料品・日用品・薬品・工芸品・鉱石・金属塊など多岐にわたる。
4.『会議国』全てで発生している。
5.発生頻度は月間2件から3件。
6.軽傷者はいるが、重傷者・死者は出ていない。
「以上です」
「ふうん……」
「事件が起きた場所はランダムで、傾向はないそうです」
「なるほどな」
「各国とも、経済に支障が出るほどではなく。また、これによって倒産した商会もないとのことなんです」
「それもまた不思議だな」
「はい」
メルツェは頷いた。
「事情はわかった。メルツェは、俺たちに何を望む?」
仁からの質問に、メルツェはすぐに答える。
「まず、私の考えを聞いて下さい。間違っているところをどしどし指摘してほしいんです」
「わかった。聞かせてもらおう」
「ん、聞かせて」
「はい」
2人から言われ、メルツェは自分の考えを述べていく。
他者に説明する、といった過程を経ることにより、自分の理解度が深まるので有益なのだ。
また、話をしているうちに今まで気付かなかったことに突然気が付く、ということもままある。
1人で考え込んでいたら至れない境地である。
それを知ってか知らずか、メルツェは仁とエルザに相談し、2人はメルツェに考えを述べさせているわけだ。
「まず、犯行について、仮説を立ててみました」
「うん」
「犯人は、特定の国を狙っているわけではなさそうです」
「犯行の行われた国を見ていればわかるな」
「はい。これは、犯人というか犯罪組織が複数の国に跨っている、あるいは捜査を撹乱する、といった目的がありそうです」
「なるほど。それから?」
仁とエルザはメルツェの仮説を聞き、特にコメントはせずに先を促した。
「よくわからないのは目的です。嫌がらせのようでもあるし、世界経済を混乱させるためとも推測できますし……」
「ん、それから?」
「奪われた物資から何かわかるかとも思ったんですが、特に傾向は見られませんでした」
「なるほど。他には何か調べてみたか?」
「ええと、犯行が行われた日付には共通するものは見い出せませんでしたし、犯行が行われた地形にも、統一性はありません」
「短時間でよくそこまで比較検討したな」
仁はメルツェのこうした能力を高く評価している。
そして、今回の経験もまた、彼女の実力アップに繋がるだろう、とも。
「そうすると、メルツェがするべきことはなんだと思う?」
「私が、というよりも、捜査・対策のために何をすべきか、考えてみたんですが」
「うん、聞かせてくれ」
「はい。……まず物資の輸送に通信機能付きのゴーレムを付け、襲われた際に賊の情報を得ることから始めます」
「なるほど」
「もしくは囮を使い、わざと賊に襲わせておいて捕縛する方法です」
「ん、効果はありそう。他には?」
「もう1つ、『新型風力式浮揚機』のように静音性の高い航空機で護衛をすることでしょうか」
仁とエルザは頷いた。
最初にしては上出来だと感じたからだ。
もっとも、仁もエルザも、こうした捜査に詳しいわけではない。
仁たちなら、『覗き見望遠鏡』で監視しつつ、賊が出たら『転送機』で現地へ『ランド部隊』を送り込むといった作戦が取れるからだ。
ある意味力技であるが、そこに至るまでの努力と苦労、そして時間は並大抵のものではなく、けっして『楽をしている』わけではない。
「最新の航空機を使おうという発想はいいな」
「ありがとうございます」
仁からの褒詞に、すこし照れるメルツェ。
そんな彼女を見て仁は、最高管理官はメルツェに何を期待しているんだろう、と考えるのであった。
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次回更新は12月19日(金)12:00の予定です。




