99-81 説明と理解と安心と
予定どおり午前9時30分には、仁、エルザ、マキナ3世、トマックス・バートマン、イルミナ・ラトキン、フィオネ・フィアス、メルツェ・ライマンといった関係者全員が揃い、『魔力パターン』と『魔法適性』についての話し合いが始まった。
「ではまず、ジン殿からもう一度報告をお願いします」
進行役は最高管理官秘書のフィオネ・フィアスが務める。
「では」
それを受けて、仁が口を開いた。
「先日行いました『魔力パターン』の測定データを統計した結果、興味深い事実が判明しました」
「それは?」
「魔力パターン……『魔力スペクトル』の分布と、魔法の才……いや、この表現はやめよう。……そう、魔法の『得手』がわかることがわかった」
「それは素晴らしいことですね!」
「つまり、魔法の才能が……」
「いや、そう勘違いされるから『才』ではなく『得手』と言ったんだが……」
単純に感心するイルミナとフィオネに対し、仁は説明を行う。
「特定の魔法に向いているということは、逆も言えるわけだ。つまり、別の魔法には向いていない、と」
「あ……」
「気が付いたかな?」
「はい……」
「自分がやりたいこと、できるようになりたいことについて向いていればいいですが、そうでない場合はがっかりしてしまいますね」
「そういうことさ。……だが」
仁はここで言葉を切り、エルザにバトンタッチした。
「それじゃあここからは、私が説明する」
エルザは列席者に資料を配った。
そこには、『魔力パターン』を可視化したもの……『魔力スペクトル』が記されている。
「これは、模式的なもので、誰の、というものではありません」
「ふむ」
「記入してありますように、横軸は周波数で、縦軸は強度、です」
「なるほど」
「周波数は、低い方から土属性、水属性、風属性……と対応し、以下、火、光、闇、となります。もう少し細分化するなら、土、氷、水、風、火、雷、光、闇、ですね」
「これは興味深い」
「つまり、その対応する箇所の強度が高いと、その属性の魔法が得意、ということになるのですか?」
「そこが、勘違いしやすいところ、です」
この説明が肝心である。
「と、いいますと?」
「このスペクトルの強度は、使える魔法の強度とはあまり関係していないのです」
「えっ」
そうなのである。
『適性の傾向』はわかるが、訓練によっての『伸びしろ』はわからない。
仁たちがこれに気が付いたのは割合最近だったが、その実、400年以上前に実証していたのに気が付いていなかっただけである。
それは、仁がまだ世界はおろかショウロ皇国でも『魔法工学師』の称号を得ていなかった頃。
仁はラインハルトとエルザの、『知識転写』についての適性を測定したことがある(08-18 これから)。
その時は、ラインハルトは訓練次第では『レベル2くらいまでは使えるようになる』と診断された。
また、エルザは『レベル3くらいまでは使えるようになる』という診断結果だった。
だが実際は、ラインハルトもエルザも『レベル9』まで使えるようになったのだ。
なお上限はレベル10で、『魔法工学師』だけが使える(というか『魔法工学師』を名乗る上での条件の1つ)。
では、どうして2人が使えるようになったのか。
訓練の結果、と言ってしまえば身も蓋もないが、実際そのとおりなのである。
『魔力パターン』は変化しない。
ゆえに個人認証に使われるのである。
が、『魔力の強さイコール魔法の強さ』ではない、ということだ。
これは、『魔法の強さ』は、『魔力の強さ』と『運用の効率』で決まるためである。
「……通常、個人の固有魔力による『魔力素』の運用の効率はせいぜいが十数パーセント、です」
「そんなに少ないのですか?」
「はい」
今、エルザは『仁ファミリー』が長年研究してきた成果の一部を発表している。
つまり、『世界最先端』の理論だ。
「『魔法工学師』なら、運用の効率は90パーセントを超えます」
「なんと……!」
「そうなのですね」
「つまり、固有魔力が弱くても、魔法は訓練次第で伸ばせる、ということです」
「それは素晴らしい!」
「朗報ですね」
が、多少の例外もある。
「ですが、『スペクトル』であまりに低い属性は発動しません」
「そうですか……」
「努力だけでは越えられない壁もある、ということですね」
「そうなります」
一定値に達しない固有魔力は、『魔力素』を運用できない、ということになる。
つまり、デフォルトで使えない魔法は、努力してもまず使えるようにはならないということ。
しかし、弱くても使える魔法は、訓練すれば数倍の効果を出せるようになる可能性があるというわけだ。
そんな訓練の1つが『イメージ』トレーニングである。
結果をより詳細にイメージすることで、魔法を発動するのに要する『魔力素』の量が減るのだ。
『魔力素』の運用は固有魔力によるものなので、結果として発動できる魔法の上限が引き上げられる、ということになる。
『医療魔法』も『工学魔法』も、周波数帯が広く、フラットな魔力パターンを必要とするわけだが、実は『医療魔法』に適性のあったエルザが、初期から『工学魔法』を使いこなしていたのはこうしたわけである。
一方、仁が(というより『魔法工学師』が)『医療魔法』を使いこなせないのには理由がある。
単純に、『魔法の出力』が高すぎることもあるが(消防の放水車で盃に水をこぼさずに入れるようなもの)、本質としては『魔法工学師』を『魔法工学師』たらしめている素養……『亜自由魔力素波』を扱うことができる能力、これがリミッターとなっている(という仮説が立てられている)。
『工学魔法』が作用する際に、対象物の分子、原子(場合によっては素粒子)を並べ替えるわけだが、これが生体細胞に悪さをする。
粘土ならこねくり回されても問題はないが、生体はそうもいかない、というわけだ。
それを防ぐため、無意識あるいは『亜自由魔力素』的に制限されている、というわけである(あくまでも現在の『仮説』)。
閑話休題。
そうした限界はあるものの、『魔力パターン』を知ることである程度の適性を知ることができるのは間違いない。
が、それが全てではなく、努力次第で他の能力を伸ばすことも可能、というわけだ。
仁が読んだことのある小説のように、才能やスキルの鑑定をされ、それによって職業を決定されるような、そんな社会にはならないであろう。
「要は、自分の適性がよりわかりやすくなる、といった程度ですね。……今だって、向き不向きや才能があるとかないとか、なんとなくで判断していますから、あまり変わらないでしょうね」
イルミナ・ラトキンがまとめた。
小説やマンガのように、適性で差別・区別される世の中にはなりそうもないので一安心する仁であった……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月14日(日)12:00の予定です。




