99-80 適性
8月21日。
仁、エルザ、リシア、サキ、ゴウ、ルビーナ、メルツェ、アーノルト、チェルらは『分身人形』と入れ替わった。
前日の出来事については『知識転写』で記憶しているから、行動に矛盾が出ることはない。
朝食後、仁たちはそれぞれの持場へと散っていった。
* * *
まずは『アヴァロン病院』。
「おはようございます」
エルザとリシアが顔を出すと、病院長ハーシャ・クラウドが早速書類を見せてきた。
「『鉛中毒』への対策も第2段階で、今日から開始する、でいい?」
「はい、エルザ様」
そこへ、サキもやって来る。
「安全なおしろいのサンプルができているから持ってきたよ」
「ありがとうございます」
サキが用意したのは、小分けにされたおしろい3種類がそれぞれ20パック、計60パック。
これだけあれば試供品として十分だろうと思われる。
また、それぞれが大瓶で1キロずつあるため、足りなければそこから小分けにすることも可能だ。
「足りなければ、また作るよ」
「いえ、当面はこれで大丈夫です」
「そうだね。早めに商業ベースで流通させたほうがいいね」
「はい。価格も抑えられるようにしています」
『アヴァロン』からの品物を取り扱う商会は、各国に1つずつ存在する。
その商店を通じて適正価格で流通させるわけだ。
安全であっても、高価では普及しないからである。
「公国群の商会とも話をつけないと、ですね……管理課へ声を掛けておきましょう」
ハーシャ・クラウドは申請書を書き始めた……。
* * *
ゴウとルビーナは『レルヒ』を製造している工房へ。
アーノルトとチェルも同様だが、2人は監督官としてである。
「昨日は2機分を組み上げたということだから、今日は残り1機だ」
「そうね。午前中には終わるでしょう」
その工房では、2機が組み上がっており、最後の1機が最終組み立てに入っている。
「ゴウ、ルビーナ、どちらか1人、こっちを手伝ってくれ」
「はい、エイラさん」
エイラに声を掛けられ、ゴウが進み出た。
「じゃあこっちは、あたしが監督しておくわね、ゴウ」
「頼んだ、ルビーナ」
そういうわけで、ゴウはエイラとグローマの作業を手伝うことになった。
完成した2機の、最終調整である。
「ゴウ、ここの魔力を『抑えて』おいて。グローマ、『接続』を」
「はい」
「OK」
「次はこっちだね。ゴウ、今度は魔力を止めずに流しておいて。グローマはその間に調整をしてくれ」
「わかった」
「わかりました」
エイラは、自分で『工学魔法』を使うよりも、指示を出してそれを取りまとめていくのが抜群にうまい。
かつて唯我独尊的な研究者だったのが嘘のようである。
「……うん、みんな、それぞれの役割を効率よく果たしているな」
監督官としてのアーノルトも、見ていて安心できる作業ぶりであった。
* * *
そして仁は、礼子とともに最高管理官トマックス・バートマンと一対一で会談を行っていた。
「……と、いうわけです」
「なるほど……『セキュリティ』のために計測した魔力パターンに、そんな使い方が……」
『魔力パターン』と魔法の適性にはある程度の相関が認められそうだ、と仁は説明した。
「ただし、これを公表するには1つ問題があります。それも、大きな」
「……わかります、適性と職業が一致しない場合ですね」
さすがに最高管理官、そうした読みも鋭かった。
「それもあります」
だが、まだ足りない。
「まだなにか?」
「はい。……才能の上限を決めつけてしまいかねないかなと」
「おお、なるほど……」
「傾向はあるものの、努力で伸ばせるんですけどね……」
エルザもラインハルトも、努力と練習で工学魔法の才能を伸ばしてきたのだから。
「それでしたら、その様子を測定してまとめた上で公表しましょう」
「ああ、それはいい手ですね」
トマックス・バートマンの提示した案に、仁は賛成した。
「それで、やり方ですが……」
「ジン殿、そういうことでしたら、あと数名、信頼できるスタッフを集めた方がいいでしょう」
「そうですね。……エルザは知っています」
「そうでしょうな。でしたら、イルミナ・ラトキンとフィオネ・フィアスを参加させましょう。それに、メルツェ・ライマンも」
イルミナ・ラトキンは最高管理官副官、フィオネ・フィアスは最高管理官秘書である。
そしてメルツェは最高管理官第2副官見習いで、そろそろ『見習い』ではなくなりそうだという。
このメンバーなら、今回の打ち合わせに適しているだろうと仁は感じた。
「あとは、デウス・エクス・マキナ3世にも出席してもらったほうがいいでしょうな」
「そうですね」
これで、初期メンバーは決まった。
当面はこの面々だけが『魔力パターン』と『魔法適性』の関連性を知っているということになる。
「では……私の執務室で話し合いましょうか」
「わかりました」
最高管理官としての業務は大丈夫かと仁が問うと、最近は人材が揃ってきたため、以前のような激務ではなくなり余裕もできたということであった。
そこで、『アヴァロン病院』に行っているエルザが戻ってくる頃……午前9時半から打ち合わせを開始することになったのである。
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次回更新は12月12日(金)12:00の予定です。




