99-79 その頃の『アヴァロン』
『仁ファミリー』が蓬莱島でリュドミラの誕生会を開催していた頃、『アヴァロン』では、仁、エルザ、リシア、サキ、ゴウ、ルビーナ、メルツェ、アーノルト、チェルらの『分身人形』が普段どおりの振る舞いをしていた。
『新型風力式浮揚機レルヒ』については、仕様が確定しているから、『分身人形』に任せきりでも大丈夫である。
ということで、機体担当のタイナー・ビトーとイーナ・コウキ主導で、まずは基本となる3機の生産が開始される。
担当するのは技術系ゴーレム『テクノ11』から『テクノ25』までの15体。
旧『職人』の25パーセントほどの性能を誇る。
それが5体で1機を担当するわけだ。
ゴウとルビーナの『分身人形』は、あまり出しゃばらずに『板状浮揚機』の量産を監視している。
もっとも、技術系ゴーレム『テクノ』は優秀(仁が『アヴァロン』支援用に作った)なので、ほぼほぼ見ているだけである。
そしてエイラとグローマは『制御系』の製作を監視。
こちらも見ているだけである……。
* * *
『アヴァロン病院』では、『鉛中毒』対策の第2段階に入ろうとしていた。
病院長ハーシャ・クラウドとサキの『分身人形』(サキD)が話をしていた。
「そうしますと、『酸化軽銀』『白雲母』『絹雲母』『タルク』などが『鉛白』に代わるおしろいになりえるのですね」
「そうだよ」
これらの成分は現代日本でもおしろいに使用されている。
ただし『タルク』(滑石の粉)は、質の悪いものになるとアスベストを含んでいるものがあるので要注意だ(アスベストは発がん性がある)。
今現在小群国、ショウロ皇国、ミツホ、ノルド連邦などで流通しているおしろいは『白雲母』と『カオリン(含水ケイ酸アルミニウム)』が使われている。
それ以外の原料もサキDは示唆したのである。
「ただ使っては駄目だ、というのではなく代替品を示すのがいいということですね、サキ殿」
「そうなるね」
「ご教示、感謝します」
「サンプルが必要なら、マキナに頼んでくれれば取り寄せてもらえると思うよ」
「わかりました。重ね重ねありがとうございます」
『鉛中毒』に関しても、これでなんとか対策ができそうである……。
* * *
さて、『セキュリティ』についてである。
『アヴァロン』内の職員(技術者、軍人含む)全員分の魔力パターンをデータベースに登録し終わったのが前日の午後4時。
それを用いた身分証の発行が現在進行系で行われている。
今日の担当窓口はメルツェの『分身人形』、メルツェD。
「ほう、これが新しい身分証ですか」
「ちょうど胸ポケットに入る大きさですね」
「紛失しないように注意してくださいよ?」
「わかってます」
「おすすめは、このクリアケースに入れて首から下げることです」
「これはいいですね」
マギ・ポリエチレンで作られたクリアケースなので、耐光性・耐溶剤性はもちろん、強度も十分である。
下げるためのストラップもマギ・ポリエチレン製なので、こちらの強度も十分だ。
「これは便利だ」
「私にもください」
「私にも」
「私にも」
「わかりましたから、順番に……」
クリアケースは100セットほど作ってあったのだが、好評のようなので増産することになる。
そして、もう1つ。
「ああ、ケースにしまう前に『暗証番号』を設定してください」
「そんなものがありましたな」
「1234とか7777みたいなものは駄目ですからね?」
今回の制限事項は4桁から8桁のアルファベットおよび数字となっている(アルスのアルファベットは基本文字が26字で、地球のものと大差ない)。
「では、*******……と」
「私は@@@@@@……で」
「忘れないようにしてくださいね? メモをするのは危険ですよ?」
現代日本では常識となった注意事項を、メルツェDは各自に説明していた。
* * *
そんな時、『アヴァロン病院』が騒がしくなった。
『救急外来』に1人の患者が運び込まれてきたのである。
航空機整備担当の技術者、男性、36歳。
担当したのは女性医師マイン・ニチエ。エルザに薫陶を受けた2期生である。
「怪我ですか!?」
「はい、右下腿部外側に裂傷。機械の整備中、金属端に引っ掛けたとのことです」
「止血は……してありますね」
右大腿部をロープで縛り、出血を抑えてあった。
傷そのものは浅いが大きく、およそ15センチに渡って切れている。
「動脈は傷ついていないようね。このまま処置に入ります。……『フローレン2』、助手を頼むわね」
「はい、先生」
『フローレン』は医療用自動人形で、ほとんどの医療魔法を使うことができる。
「まずは鎮痛、次いで局所麻酔。……『フローレン2』、頼むわ」
「はい、先生。『痛み止め』『局所麻酔』……処置しました」
「ありがとう。……温生食の用意は?」
「できております」
「では、傷口の洗浄を」
「はい」
整備中の怪我のため、傷口に汚れが入り込んでいた。
それを温生食(人肌に温めた生理食塩水)で洗浄したわけだ。
「『フローレン2』、傷口を閉じます」
「はい、先生」
『フローレン2』は『医療用自動人形』ならではの正確さをもって傷口を合わせた。
「治療を」
「はい。……『快復』」
傷口の合わせ方が正確だったため、傷跡を残すことなく治療を行うことができた。
「完了です」
「はい、ありがとう。……15分ほど横になっていてください。特に異常が出なければ帰っていいですよ」
「先生、ありがとうございました」
単に医療魔法を行使するのではなく医学的な処置を施すことで、患者の負担も少なく、回復も早い、という利点がある。
救急病棟の仕事はこれで終わりではない。
何分か、何十分かおきに患者がやって来る。
『アヴァロン病院』は、今日も大忙しである……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月9日(火)12:00の予定です。




