99-76 困りごと
「『レルヒ』、か。いいじゃないか」
終業後の入浴タイムで、仁はゴウから報告を聞いていた。
「特に『小型浮揚機』を推進機にも応用した、というところがよかったな」
「ありがとうございます」
仁に褒められ、ゴウは顔を綻ばせる。
「これで、低速から中速域をカバーする航空機ができたわけだ」
この前の調査行でこれがあったら便利だったろうな、と仁は思った。
そこで一言アドバイス。
「バリエーションを考えるといいぞ」
「バリエーション、ですか?」
「そうだ。『調査用』『荷運び用』『人員移動用』『高速移動用』とかな」
思いつくままに口にする仁。
「高速移動用ですか? そもそも低速域をカバーする機種なんですが……」
「いや、本来の高速移動用の航空機は手軽さが足りないからな。言葉を補うとしたら、『短距離移動に使う高速移動用』かな」
「ああ、それならイメージできます」
少人数で100キロから300キロ程度の移動なら、『レルヒ』クラスで十分、というわけだ。
大型機に比べて運用費も抑えられるという利点がある。
乗り心地や機内の充実差は大型機には比べようもないが、実質1時間程度の移動時間であれば問題視するほどではない。
「そういうわけで、『高速移動用』は多少乗り心地……座席や内装に凝る、とかな」
「そうですね、『人員移動用』は荷物スペースを減らして座席を増やす、でしょうか?」
「お、そうそう。『荷運び用』はその逆だな。さらにハッチを工夫すればなおよし」
「調査用は静音性や安定性を重視ですね……いいですね。明日、提案してみます」
「機体の基本スペックはいじらないようにな」
「はい、あくまでも後付けの装備で区別できるようにします」
「うん、ならよし」
* * *
夕食時はルビーナとメルツェも参加したので、仁、エルザ、ゴウ、ルビーナ、メルツェの5人でテーブルを囲んだ。
「……というわけで、明日から量産機に取り掛かるわよ」
「みたいね。今日、滑り込みで申請が出ていたから」
試作が成功したこと、これを元に量産機を設定したいこと、などが記された申請書。
マキナ3世が『確認』のサインをしていたので、即GOサインが出るのだという。
「そうか。いいものだったら、開発を急ぐのは当然だからな」
「ん、ラインナップの充実は、必要」
地方へ出向く際にも『レルヒ』は役に立ってくれそう、とエルザは言い、それを聞いたゴウとルビーナは嬉しくなった。
「役に立つ機体にします!」
「ん、頑張って」
「はい!」
「素敵ね、ゴウさん、ルビちゃん」
そんな2人を、メルツェは我がことのように喜んでいた。
* * *
夜。
仁はエルザと話をしていた。
「リシアの指導も順調だって?」
「うん、ナージャスもポリアンナも、成長が著しいって」
「それはいいことだ」
「他の新人たちもだんだん戦力に数えられるようになってる、って」
「期待大だなあ」
医療分野の底上げも順調にいっているようだった。
「サキ姉の方も、あのスーリヤさんを講師にして、5人くらいの孫弟子を育成している、そう」
「そっちも順調だな」
「うん」
「あとは、工学魔法の適性か……」
「それだけど、やっぱりトマックスさんには、全部打ち明けない?」
「うん、俺もその方がいいかなって、思ってた」
「なら、明日」
「そうしよう」
「……あとはなあ……」
「何か、困りごと?」
「困っている……うん、そうだな、困っているな」
「何に?」
「ゴウの将来と、ニドー家の存続だよ」
「……ああ、そっか」
ゴウは今のままだと、ショウロ皇国のニドー伯爵家を継いだ場合『アヴァロン』籍を失う(少なくとも正規所属ではいられない)。
そんなゴウと結婚したらルビーナもメルツェも同じことになる。
優秀な3人を失うことは、『アヴァロン』にとって大きな損失である。
かといって、ニドー伯爵家を途絶えさせるのもしのびない。
「……1つ、手が、ないことも、ない」
「それは?」
「ダイキとココナに、子供が、できれば……」
「おいおい」
ダイキ・ニドーは今年63歳。その妻ココナは57歳である。
「あめりか? っていう国で、57歳で出産した、って」
「それって、こっちへ渡ってきた本にあったのか?」
「うん」
1956年に、アメリカの女性が57歳で出産した、という記録がある。
「2人とも、魔力を持っていて、健康。不可能じゃない……と、思う」
「そうか……」
それも1つの手だが、それならそれで、ゴウを養子にしたことが無駄になってしまう。
「それは、確かに、そう」
「となると……」
『アヴァロン』の規約を変えるしかない、と仁は結論を出した。
「どんな風に?」
「……そうだなあ……」
「ひょっとして、今考えてる?」
「いや、構想はあるんだよ」
「どんな?」
「国元で貴族やってても、『アヴァロン』で働けるように」
「……それには、機密を君主にも漏らさないという誓約が必要」
「それくらいなら問題ないだろ? ……あと、所属国の利害を『アヴァロン』には持ち込まない、とかな」
「理念はいいと思う。でも、どうやってそれを守らせるかが……」
「そうなんだよな」
でもそうしないと、ゴウはルビーナとメルツェの2人を嫁にできないという問題がある。
伯爵であれば、夫人を2人持っていてもおかしくないからだ。
つまり、ゴウが伯爵位を継ぐのは既定路線なのである。
「家柄からいって、メルツェが第一夫人、ルビーナが第二夫人となるだろうけどな」
「うん、そうなると、思う。……だとしたら、もう1つ、問題が」
「え?」
「ショウロ皇国でも、伯爵が外の組織……『アヴァロン』に勤めることを、許可してもらわないと」
「それもあったか」
まあ、あの皇帝なら、メルツェの幸せのため、といえば許可してくれそうではある、と仁は漠然と考えていた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は12月2日(火)12:00の予定です。
20251130 修正
(誤)試作が成功したこと、これを元に量産機を設定したいこと、などか記された申請書。
(正)試作が成功したこと、これを元に量産機を設定したいこと、などが記された申請書。




