99-74 振動、共振、新機軸
推進機を75パーセント以上の出力に上げると、『板状浮揚機』の出力が一瞬落ちるという怪現象。
これについて、アーノルト以下のメンバーは全員で原因究明に取り掛かっていた。
「推進機にも『板状浮揚機』にも異常がないとすると……」
考えてもわからない。
「……同時に起動した時のみ出力が落ちるのですよね?」
「そうなるね」
ゴウの問いに、アーノルトは答える。
そしてゴウは、
「もうこうなったら、同じ条件でもう一度試してみるしかないでしょう」
……と言った。
「うーん、もうそれしかないだろうなあ……」
「ですね……」
「やりましょうか」
「僕がチェルと一緒に乗って調べるよ」
そんなこんなで、チェルが操縦する試作機にアーノルトが乗って不具合の原因を調べることになった。
* * *
「もう、まともに飛べるわけだから、飛行許可だけでいいだろう」
とアーノルト。
「かなりグレーゾーンのような気がしますが、やるしかないですね」
「怒られた時は私の責任にするから」
ちょっと心配するゴウに、アーノルトは自分の責任でやるから、と言い聞かせる。
「わかりました……」
「さて、行ってくるよ」
飛行場へ出した試作機に、アーノルトはチェルとともに乗り込んだ。
そして、試作機が飛び立つ。
機体の信頼性に関しては問題ないため、あまり心配はしていないが、やはり気になるのは謎の現象だ。
高度を十分に取った試作機は水平飛行を始め、瞬く間にゴウたちの視界から消えていった。
……と思ったら、数分で試作機は戻ってきて着陸する。
そして、
「原因がわかった」
と、アーノルト。
「まずは機体を工房へ運ぼう」
* * *
「さて、それじゃあわかったことだが……」
工房に着くが早いか、アーノルトは全員に取り囲まれた。
飛行場では落ち着いた態度に見えたが、実際は皆、原因が知りたくてうずうずしていたのだ。
「結論から言うと『共振』だ」
「!?」
「ゆっくり説明しよう。……まず、推進機が『風属性ロケットエンジン』を使っているわけだが、これは『風の一撃』を利用しているわけだ」
「……あ、その振動が機体の固有振動数に近かったんですね?」
「ゴウ君、正解だ」
『風の一撃』を利用、つまり1秒間に数回の小さな衝撃を繰り返し、それを推進力に変えているため、『振動』が生じているのだ。
それがたまたま、機体の固有振動数に近かったため『共振』が生じる。
これに最も大きく影響を受けたのが、『板状浮揚機』に『魔力素』を供給している魔力導線だった。
「コネクタ部の接触がほんの僅かにゆるんだのね?」
「ルビーナ君の言うとおりだ」
これにより『魔力素』の伝達が阻害され、速度が一瞬落ちる。
が、スロットルは速度計と連動しているので、すぐに低下分を補ってくれる、ということになる。
また、コネクタは簡単には外れないようにできているため、見かけ上は異常がないように見える。
「それじゃあ、機体の剛性をもう少し上げれば……」
「ああ、共振しなくなるだろう」
「それから、コネクタ部分の保持力を強化」
「早速やってみましょうよ」
「もちろんだ」
剛性を上げる方法はいくつかある。
最も簡単な方法は工学魔法『硬化』と『強靱化』だ。
構造的に行うなら補強材を入れること。
そして素材をもっと強度のあるものに替えること。
これらが一般的な方法である。
まずはコネクタの方からである。
固定しているバネを強い物にする、ハウジングの固定をより厳重にする、また接触部の接触圧を上げる、など。
「これなら大丈夫だろう」
「はい」
そして共振対策。
「共振する場所ってわかりますか?」
「それは推進機の支持部分……じゃないな」
「そこは特別がっちり作ってありますからね」
推進機を支えている場所。そこは最も力の掛かる部分である。
その箇所の剛性が低いということはあまり考えられない(欠陥機以外は)。
「むしろ、振動を吸収する構造の方がよかったのかも」
「うーん……それだと強度的に不安があるな」
「あ」
「……エイラ、どうした?」
「振動しない推進機を使えばいいんじゃないのか? ……と思ってね……」
「あ」
「あ」
「確かに……な」
「『風力式浮揚機』は軽量ですから、どうしても剛性が不足しがちですしね」
「振動しないエンジンを使う、という手がありましたね……」
「推進機はロケット、と決めつけていましたよ」
「反省せねば」
エイラの思い付きに、皆感心し、思い込みを反省したのであった。
* * *
「……振動しない推進機か……」
「ロケット系は多少なりとも振動しますよね?」
こんな意見が出るのは、『マギロケットエンジン』(蓬莱島で開発。『火の爆弾』を燃焼室で使う)や、『風属性ロケットエンジン』(『風の一撃』を利用)、それに一般の『魔法爆轟式ロケットエンジン』(『火の爆弾』を燃焼室で使い、その反動を利用するのは、蓬莱島のものと違うのは、極力威力を抑えた爆発を多数重ねて制御することで扱いやすい特性にしたこと)などである。
いずれも推進力となる魔法を繰り返し使うため、振動が生じる。
「振動しない推進機、あるじゃないですか」
「ああ……あるな」
「『密閉型推進機関』ですね」
「あたしたちの『板状浮揚機』にも使っているわ」
「それだ!」
珍しくグローマが大声を上げた。
「ゴウ君たちの『板状浮揚機』に使っている『小型浮揚機』だけど、横に並べないで縦に積み重ねたらどうだろう?」
『小型浮揚機』は直径3センチ、高さ6センチの、中空の円柱である。これを横に敷き詰めるように並べたものが『板状浮揚機』だ。
「なるほど、縦に並べれば推進機として使いやすいものができるな」
検討する価値ありだ、とアーノルトは判断。
そのまま共振対策の検討会は新型推進機の検討会となっていく……。
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次回更新は11月25日(火)12:00を予定しております。




