99-73 思わぬつまづき
諸事情があって遅れました m(_ _)m
『新型風力式浮揚機』試作機の試験飛行が成功したことは、すぐに管理課へ報告された。
そしてアーノルトのチームは試験飛行の後、昼休みを挟んですぐにチェックと検討が開始された。
ちなみに、マキナ3世は午後は参加していない。
「おおむね成功ではあるが……」
「細部の調整は必要かと存じます」
まずは、実際に操縦してくれたチェルからの報告を聞く。
「ゆっくり飛んでいる時……時速60キロ以下の安定性は問題ないですね。時速100キロを超えると、舵が若干敏感になり、200キロを超えるとかなりシビアになります」
「なるほど……」
「速度が高くなればそうした現象は起きますね」
実際、第二次世界大戦時の戦闘機である零戦では、この問題を解決するために舵(方向舵、昇降舵、補助翼など)を作動させる鋼線に細いものを使い、大きな力が掛かった場合には伸びるようにしたという。
これにより、高速時(舵面に大きな風圧が掛かる)には舵角が小さくなるため、速度による操縦性の変化が小さく出来た、ということだ。
なお、現代日本では、電気式・油圧式などに置き換わっているため、ワイヤーの伸びで吸収する方法は取られていない。
「どう制御するか……」
グローマは腕を組み、エイラは目を閉じて、何やら考え始めた。
試作機の舵は機械式でも油圧でも電気でもなく魔力式である。
そういう意味では電気式制御に最も近いといえよう。
「魔力の伝達経路に可変抵抗を入れるか……あるいは……」
「『MI』を介する手もあるが……メンテを考えると……」
「経年変化や個体間の差を考えると……」
「いやいや、それではコストが……」
早速検討し始めたエイラとグローマを、アーノルトはたしなめる。
「おいおい、まだチェルの報告は終わっちゃいないぞ。最後まで聞いてくれ」
「あ、はい」
「すみません」
そしてチェルの報告が再開される。
「もう1つは足回りです。『垂直離着陸機(VTOL)』として使う際は問題ないのですが、機体を移動させることを考えますと少々頼りなく感じました」
「ああ、なるほど」
必要最低限のものしか装備していなかったことは、この場の全員が認めた。
倉庫から滑走路や飛行場に移動させる際、あるいは定員ギリギリまで人員を乗せた時など、強度に不安があるとチェルは説明した。
まあ、こちらはすぐに対処できそうではある。
「そして、『浮く』レバーと『進む』ペダルですが、扱いにくいですね」
「なるほど」
「ゴーレムや『自動人形』なら間違いませんが、人間ですと間違う可能性もあります」
「それはなんとなく思っていたよ」
「『浮く』レバーは上下、『進む』もレバーにして前後に動かすのがいいかもしれない」
「あ、そうですね」
これに関してはタイナーたちも感じていたようで、すぐに代案が出た。
「最後に、推進機を75パーセント以上の出力に上げますと、『板状浮揚機』の方の出力が一瞬落ちます。……0.4秒ほどで回復しますが」
「ああ、それはチェルでなければ気が付かなかったろうな」
「『魔素変換器』の出力不足かな?」
「いや、おそらく魔力伝達線の容量不足だろう」
電気技術で言うと、電線の断面積がやや小さく、電流容量が足りない、という場合に相当するだろうか。
「他はどうかな、チェル?」
「あとは微調整で済む問題ですので、検討いただきたい項目は以上となります」
「わかった、ありがとう」
こうして、チェルによる問題点の抽出報告は終了。
いよいよ検討会に入る。
「まずは簡単なものから解決していこうか」
これも1つの方法である。
項目がたくさんある場合は、それを減らしていくことでモチベーションが保たれる、という傾向にある。
制限時間のある試験の際も、まずは解けそうな問題から、というやり方をする人も多いであろう。
アーノルトもまた、そういうやり方を取った。
「車輪ですね」
「そうなるかな。まあ、単純な強度アップだけ、とはいかないだろうが」
「そうですね、タイヤの径をもう少し大きくしましょうか?」
「凹凸の走破性はよくなるだろうね」
「あと、軸受にボールベアリングを使いますか?」
「コストアップにはなるが、効果はあるだろうね」
耐荷重をきちんと設定して使えば、ボールベアリング・ローラーベアリングのような『転がり軸受』の方が『平軸受(すべり軸受)』よりも軽く回転する。
ただし、転がり軸受は点もしくは線で支えるため、耐荷重性は低いため、選定には要注意だ。
「移動は二の次だから、平軸受でいいんじゃないでしょうか」
と言ったのはゴウ。
「重くて運びづらいなら、『板状浮揚機』を軽く作動させればよさそうですし」
「その手があったな」
「製品なら、それで行けるだろう」
「『板状浮揚機』を切った時の耐荷重の見直しだけでよさそうだな」
まずはそういうことになった。
「次は『板状浮揚機』の出力が一瞬落ちる問題だな」
「単純に魔力導線を太くするんじゃ駄目なんですか?」
タイナー・ビトーが質問した。
「遅延の原因が予想どおりならそれでいいんだけどね」
「あ、そうか……『魔素変換器』もしくは『魔力炉』の出力不足ではないことを確認した方がいいんですね?」
「そういうことだよ」
万が一、予想以上に魔力を喰う機体だったとか、逆に設計値どおりの出力が出ていなかった、というような可能性もあるのだ。
「これは、ちょっとチェックしてみようか」
「はい」
そこでまずはゴウとルビーナがチェックを行った。
『板状浮揚機』から始め、順に遡って『魔力炉』へ。
「……特に『魔力停滞』の原因になりそうな箇所はありませんでした」
「容量的にも十分だと判断します」
2人共、魔力経路に問題はない、と判断した。
「だとするとエンジンかな?」
「ううん、出力レバーの75パーセント付近に何かあるのかも?」
「あ、それは思い付かなかったな」
今度は機体を担当したタイナー・ビトーとイーナ・コウキがチェックを始めた。
すると……。
「こっちにも異常はないな」
「すると何だろう?」
比較的簡単に修正できると思った小さな不具合だったが、原因が掴めない。
アーノルト以下、メンバーは考え込んだ……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月23日(日)12:00の予定です。
20251121 修正
(誤)ボールベアリング・ローラーベアリングのような『転がり塾受』
(正)ボールベアリング・ローラーベアリングのような『転がり軸受』




