99-70 身分証システム検証
8月18日朝、仁は『身分証』の基本システムができた、ということで関係者を集めた。
「これが、試作システムです」
「おお」
「これが」
『身分証』『カードリーダー』『データベース』でワンセットとなる。
このうち『データベース』は既存のものを使うので、実質『身分証』と『カードリーダー』を仁は見せたわけである。
といっても、『カードリーダー』は1種類ではない。
基本でありメインとなるものは『魔力パターン』を読み取るものだが、『パスワード』を入力するもの、『顔認証』を行うもの、の3種がある。
『魔力パターン』のみのものはティッシュの箱くらい。
『パスワード』併用のものも同じくらいだが、数字入力用のテンキーが付いている。
『顔認証』併用のものはティッシュの箱を2つ並べたくらいで、10センチ四方のモニタが付いている。
「3種を一日……いや一晩で作るとは……」
「さすがジン殿……」
「『顔認証』は難しかったでしょう?」
最後の質問はアーノルトである。
人間の顔で個人を判別するのはなかなか難しい。
目の開き具合や髪型、顔色などでも変わってくるからだ。
加齢による変化や病気、痩せたり太ったりという変化もありうる。
「確かに。でも、『自動人形』やゴーレムが人を識別しているんだからできるさ」
「あ、なるほど」
このあたりは現代日本の『AI』(Artificial Intelligence)よりもはるかに優れているといえよう。
「とりあえず、マキナが試してくれました」
マキナ3世の顔写真を貼付した身分証(試作)を見せる仁。
「やってみせようか?」
「お願いします」
マキナ3世が立ち上がり、『身分証』を手に取る。
仁は『カードリーダー』3種類を『データベース』に接続した。
「今回の接続は仮です。身分証関係のデータはいつでもリセットできます」
まだ仮のシステムなので、そうでなくては困る。
それはさておき、マキナ3世はまず魔力認証のみでいけるカードリーダーに『身分証』を『当てた』。
そう、今回仁が作ったシステムは、カードリーダーの『読み取り面』の『身分証』を触れさせればよいというものである。
カードリーダーに緑のOKランプが灯った。
「では、同じ『身分証』を、どなたか使ってみてください」
「では、私が」
最高管理官、トマックス・バートマンが進み出、マキナ3世用の『身分証』をカードリーダーに触れさせる……。
「おお、駄目ですな」
赤いNGランプが灯ったのである。
その後再びマキナ3世が使えばOK、他の者が使うとNGとなった。
「では、パスワード……暗証番号併用のカードリーダーです」
これもマキナ3世が使って見せる。
「『身分証』をここに触れさせた後、テンキーが発光しますから、暗証番号を入力します」
今回はわかりやすいように『123456』としている。
入力後、エンターキーを押すことでOKランプが灯った。
「実際には、単純な数列はお勧めしません。誕生日などもやめておいたほうが無難でしょう」
「なるほど」
「それから『身分証』に暗証番号をメモしておくのも厳禁です」
「確かに」
次にマキナ3世は、間違った暗証番号を入力する。
するとランプは黄色に点灯、『暗証番号が間違っています。再試行してください』という音声が流れた。
「おお」
「これはわかりやすいですな」
「確かに、入力ミスもありえますから、いきなりNGはないでしょう」
そしてマキナ3世は再度間違った番号を入力する。すると、
『暗証番号が間違っています。再試行してください。もう一度間違うとロックされます』
という音声が流れた。
「おお、これは……」
「ロックされた場合、『身分証』と『暗証番号』を再登録することになります。場合によっては警報が鳴ります」
「なるほど、盗んでも使えないわけですな」
「3度目に正しい『暗証番号』を入力できれば問題はありません」
「これは信頼性が高そうですな」
最後にマキナは『顔認証』付きのカードリーダーを使う。
これは10センチ四方ほどのモニター(魔導投影窓)が付いており、カメラ(魔導監視眼)で取り込んだ対象者の顔をリアルタイムで表示する。
マキナ3世は問題なく使えたが、試しにアーノルトが使うとNGとなった。
また、マキナ3世が顔を顰めたり片目をつぶったりしてみせたが、いずれも問題なくOKとなったのである。
「これは素晴らしい」
「セキュリティアップ間違いなしですな」
「気が付いたことをどんどん指摘してくださいよ」
仁も、これが最終形態とは思っていない。
改善すべき点はどんどん直していきたいと思っている。
「カードリーダーを使わず、『暗証番号』だけ、というバリエーションもできます」
「なるほど」
「その『暗証番号』も、例えば……会議室1なら1357とか、会議室2は2468のように設定することも可能です」
「それはそれでいいですな」
「そちらの決定はお任せしますよ」
仁としてもそこまで関わっているわけにはいかない。
まだまだ他にも、仁でなければできない仕事が沢山控えているのだから。
* * *
「……ということで、導入はスムースにいきそうだ」
「ん、よかった」
仕事に区切りがついた仁は、同じく休憩中だったエルザと話し合っている。
「これで、少なくとも『アヴァロン』内の人員の魔力パターンデータが取れるわけだ」
そこから始まったプロジェクトである。
「あとは……個人の魔力パターンを、そうした適性の判別に使える、ということをトマックスにだけは話しておこうかどうしようかと思ってる」
「もう少し、後でいいんじゃない? データが集まってきた時点で気が付いた、ということにして」
「そうだなあ……」
「あまり、彼に気苦労を背負わせないように」
「それもそうか」
管理体制にしても、もう少しなんとかして最高管理官の負担を減らしたいと思う仁たちであった。
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次回更新は11月16日(日)12:00の予定です。




