99-69 閑話168 鉛中毒対処の医療団
さて、日にちは少し戻って、8月15日。
各国に派遣された『鉛中毒対処の医療団』第2陣も、それぞれの役目をきちんと果たしている。
第2陣が訪れたのはジャグス公国、ミマカ公国、ダーラト公国、ノルハ公国の4箇所。
第1陣と合わせ、西の5公国に対応したわけである。
『アヴァロン』から、人間2人、『医療用自動人形』である『フローレン』1体というスリーマンセル(?)で送り出された。
といっても、『世界会議』に参加している国々には『転移魔法陣』が設置してあるので、移動は一瞬である。
* * *
ジャグス公国。
「本当に、一瞬ですね……」
こうした『転移』による移動は初めての、『食料局局長』ルノー・タベが感心したように呟いた。
「ようこそ、ジャグス公国へ」
そこへ、出迎えの騎士たちがやって来る。
「さっそくですが、こちらへいらしてください」
王城へと案内される一行。
「こちらです」
「おお」
案内されたのは騎士団用の医務室。
「こちらでしたら寝台が揃っておりますので」
「なるほど、確かにそうですね」
騎士用であるから、そこそこ清潔で整った病室に、質のよい寝台が12ほど並んでいる。
そのうちの6つに、貴族らしき婦人が腰を掛けていた。
また、具合が悪いらしく、2つの寝台には婦人が横たわっている。
「よくおいでくださいました。私はここの室長、ターバック・ウォーと申します」
医務室の責任者はターバック・ウォーという中年の男性であった。
「重症患者と、中等症と思われる患者です」
「他には?」
「軽症と思われる患者が15名おり、控え室でお待ちいただいております」
「わかりました。まずは重症患者から診ましょう」
「よろしくお願いいたします」
ここまでは、予行演習どおりうまくいっている。
ルノー・タベは『食料局局長』であって、『医師』でも『治癒士』でもないのだ。
まずは、一番具合の悪そうな患者。
40代半ばほどの貴婦人である。
「『フローレン8』、診察を」
「承りました」
あくまでも人間が主体で、『フローレン』に指示を出しているという体を装うわけだ。
「『診察』……間違いなく『鉛中毒』です」
「そうか。では、治療だ」
「はい」
ルノーの指示を受け、『フローレン8』は『鉛中毒治療用の魔導具』を起動した。
かすかに光を放つ、柔らかな光が患者を包む。
およそ10秒で鉛の抽出は終了した。
「続けて体調を整えて差し上げなさい」
「わかりました。……『回復』」
「御婦人、いかがです?」
あえて名前を聞くことはしないルノーであった。
「ああ、楽になりましたわ。先生、ありがとうございます」
「いえいえ、これが役目ですから」
そしてルノーは、持ってきた『ペルシカジュース』(蓬莱島産果汁50パーセント)を渡す。
「これを50ミリリットルコップに取り、水で倍に薄めて、朝と晩に飲んでください」
エルザと同じ内容で説明する。
「わかりました」
「今は、こちらが用意したものをお飲みください」
と言ってルノーは、希釈済みのものをコップに入れて差し出した。
「いただきます」
それを飲み干した婦人は、晴れやかな顔になる。
「ああ、ジュースのように美味しいお薬なのですね。でもすごくよく効きましたわ。なんだか身体が軽くなった気がします」
「『鉛中毒』による不調が取り除かれて、体調が回復してきたのですよ」
「こんなに効き目があるのですね。改めまして、ありがとうございました」
その礼を笑みで受け、ルノー・タベは次の患者に向き合った。
こちらは30代半ばくらいの貴婦人であった。
先程と同じ手順で診察、治療、ケアを行うことで、この患者も回復した。
* * *
重症患者2名のあとは、中等症患者6名の診察と治療である。
「貴女は『鉛中毒』ではありません。膝の関節炎ですね」
「そ、そうですか……」
そう診断されたのは、侍女と思われる女性。
「重い荷物を持って階段を登り降りしたのではありませんか?」
「そ、そのとおりです」
診察内容を『フローレン8』からこっそり教えてもらったため、ルノーの口から説明できる。
「『フローレン8』、関節の治療を」
「承りました。……『修復』」
『修復』は外科上級の医療魔法で、組織の修復に効果がある。
今回はすり減った軟骨や傷んだ半月板といった、膝関節の構成組織を修復したのである。
「靴が脚に合っていないと思われます。きちんとした靴職人に依頼すべきかと」
これも『フローレン8』からの情報である。
こうした情報は、『カルテ』に書かれている。
『フローレン8』がカルテに数行書き込むような動作で、実は数十行もかきこんでおり、ルノーはそれを読んでいる、というわけだ。
「わかりました。先生、ありがとうございます」
「これが仕事ですから。……さて、次の患者さんは……」
こんなかんじで中等症6名を診ていった結果、4名が軽度の『鉛中毒』で、2名が別の疾患であった。
1人は先程の『膝関節症』、もう1人はただの『熱中症』だった。
当然、治療は順調に行われた。
* * *
「城内の方はこれで全部ですか?」
夕刻、今日診た患者全員が帰ってから、ルノーは医務室の責任者、ターバックに尋ねた。
「はい。……ですが、城下や各都市にも患者が若干名おります」
「その人たちも治してしまいましょう」
「おお、助かります。……して、治療費はいかほどに?」
「それは、次の『世界会議』で議題になると思いますよ」
「なるほど、そうですか」
「『アヴァロン』の業務の一環ですから、法外なことは言わないと思います」
「そ、そうですか」
……他の国へ向かった『鉛中毒対処の医療団』も、このように成果を上げていったようである……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月14日(金)12:00の予定です。
20251111 修正
(誤)ルノーはそれを読んでいる、とうわけだ。
(正)ルノーはそれを読んでいる、というわけだ。




