99-67 改善案と風洞実験
遅れました
m(_ _)m
『新型風力式浮揚機』のための話し合いは、昼食と昼休みを挟んで、午後も続けられている。
「それでは尾翼の『フラッター』については、『取り付け位置を少しずらす』『強度を上げる』の2つで対応する、でいいかな?」
アーノルトの問いに、異議は出なかった。
「では、主翼形状の最終決定を行おう」
今現在の形状は、正三角形を2つ合わせた菱形である。
「翼端形状は切り落とすか、ウイングレットにするか」
「それこそ、風洞で実験しましょう」
「それがよさそうだが、一応検討だけはしておこう」
「わかりました」
最終的に実験結果を生かすにしても、理論を元にした議論は無駄にはならない、とアーノルトは言う。
「では。……低速域でのウイングレットの効果は小さいと思うので、単なる翼端切り落としでいけるのではないかと思います」
量産して配備する以上、コストを度外視するわけにはいきません、とタイナー・ビトー。
「翼端渦は、機体が重く、低速であるほど大きなものが発生しますよね? 今回は機体は軽いんですが低速です。この場合、どうなるのでしょう」
「中くらい?」
「うーん……」
「……それこそ風洞で試してみたいな」
そんな意見も出る。
「あ、あと、操縦席の位置は今のままでいいでしょうかね」
そう提案したのはゴウ。
「先日、ジン様の『タウベ改』に乗る機会があったんですが、主翼の上というか、より高い位置に操縦席があるんですよ」
「なるほど」
「ですので、見晴らしがいいんですね」
「それはわかる。だが、用途を考えると、前方から下方の視界が広い方が使い勝手がいいと思うのだが」
ゴウの意見に、アーノルトが反対した。
とここで、今までずっと無言で一同の意見を聞いていたデウス・エクス・マキナ3世が発言する。
「これまでの『風力式浮揚機』とは『浮くための装置』の方式が違うんだから、上方の視界も確保できる構造にすればいいさ」
「それはそうですね……」
これまでの『風力式浮揚機』は、円形翼の下方に操縦席を含む胴体が付いていた。
が、『板状浮揚機』を主翼に内蔵したため、胴体形状の自由度が増したのである。
「操縦席は機体前方に設けて、風防を頭の上まで透明にすればいいよ」
「確かに、マキナ殿の案もいいですね」
「俺もそのやり方はいいと思う」
「おお、ジン殿も」
「うん。主翼の強度が心配だから、胴体の左右に主翼を取り付けるのは避けたいけどな」
できるだけ主翼は左右一体型にしたい、と仁は言った。
「機体の全重量を支えるわけですからね。……まあ、それは普通の航空機も同じですが、『垂直離着陸機(VTOL)』として使おうとすると、負荷も大ききくなりそうですし」
「主翼の半分以上は左右一体にしたいよ」
「俺もそれがいいと思うぞ」
仁とマキナ3世が同意見なので、それ以上の議論は行われなかった。
「他に意見はあるかな?」
アーノルトの問いに答えるものはなく、『新型風力式浮揚機』のための話し合いは終了した。
時刻は午後2時55分。
3時休みを挟んで、詳細な仕様を決めることになる。
仁とマキナ3世は不参加。
あとのメンバーはそのまま参加する。
* * *
午後3時10分。
「それでは、詳細な仕様の検討に入ろう。まずは風洞試験を行いに行こう」
アーノルトが宣言した。
先程の『翼端形状』と『水平尾翼の強度』を決めるためである。
一同揃って風洞試験室へ。
テストベンチに実験機をセットする。
「まずは比較用のデータ取りからだ」
一度実験はしているが、精度を上げるためには手間を惜しんではいけない。
風速10メートルから始め、風速30メートル(時速108キロ相当)まで上げていく。
「やはりフラッターを起こすな」
「次は煙を流すぞ」
空気の流れを可視化するため、風と共に細い煙を幾本も流す。
これにより、空気の流れが波打ったり渦を巻いたりする様子を観察できるのだ。
「ああ、やっぱり、時速70キロを超えたあたりから、翼端に渦ができているな」
「でも、尾翼のフラッターの原因は翼端渦ではないようですね」
こうしたこともわかるわけだ。
一旦風を止め、機体を調整する。
「水平尾翼の強度アップは、とりあえず『強靱化』で行おう」
アーノルトの言葉に、タイナー・ビトーが続けて、
「翼端は……まず切り落としてみます」
と言った。
「うん、それでいいだろう。その後、切り落とした翼端を用いて『ウイングレット』にすればいいよ」
「はい」
まずは水平尾翼の強度アップを行い、風洞試験再開。
「お、今度はいいな」
「風速35メートル(時速126キロ相当)でもフラッターは起こさないな」
水平尾翼のフラッター対策はうまくいった。
次は翼端渦である。
「まずは切り落とし状態で」
「うむ」
翼端を翼長の20分の1程度、切り落とした。
ここには板状浮揚機は入っていない。
今回も煙を交えての実験だ。
「さっきよりは渦の発生が少ないかな」
「ですね」
目に見えて渦が小さくなっていたのである。
概算で半分といったところか。
「では、切り落とした翼端を縦にくっつけてみようか」
こういう時、工学魔法は便利である。
「装着よし」
「実験開始」
風速を上げながら、渦の発生を観察していく。
「うーん、やはり『ウイングレット』はあったほうがいいな」
「そうですね」
翼端を『切り落とす』と翼端渦は半分くらいに減ったが、そこへさらに『ウイングレット』を追加すると、5分の1くらいまで減ったのである。
これなら、対費用効果は十分だろう、と皆判断したのである。
こうして、『新型風力式浮揚機』の模型を使った風洞実験は順調に終了した。
そしていよいよ、今回得たデータを元に、明日から『機能試作機』を作成することになる……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は11月9日(日)12:00の予定です。
20251107 修正
(誤)翼端を翌朝の20分の1程度、切り落とした。
(正)翼端を翼長の20分の1程度、切り落とした。




