99-14 アヴァロン4の構想
『アヴァロン4』のことが決まったところで午前の部は終了した。
休憩を挟んで、午後1時半から再開である。
「では、食堂へ行きましょうか」
「今日はカツカレーにしますかな」
「ビーフカレーもいいですぞ」
今日も『アヴァロン』のカレーは好評のようである……。
* * *
昼休み、仁はエルザと打ち合わせをしていた。
「午後はおそらく、俺たちとはほとんど関係ない議題になるだろう」
「ん、多分。でも、幾つか質問されると、思う」
「そうか?」
「特に、『アヴァロン4』はどういう用途にするか、って聞かれるんじゃない?」
「ああ、そうか。それは午前中には説明しなかったもんな」
エルザの指摘に、仁はなるほどと頷いた。
「それは聞かれそうだな……前に『アヴァロン7』まで増設するって計画を話したような気もするけど」
「してないと思う」
「そうだっけ?」
『はい、御主人様。3902年の10月に、『アルカディア』を『アヴァロン3』に改装した時にそんな計画を考えていらっしゃいましたが』
「そうだったか……」
『その後、トマックス・バートマン殿に、『4』『5』『6』『7』の話をちょっとされただけです』
「そういえば、思い出した」
今は『アヴァロン1』を中心にし、『アヴァロン2』と『アヴァロン3』を対称の位置に置く、ということになっている。
今後、『アヴァロン7』まで作ることで、『アヴァロン1』を中心とした六角形が描かれることになる……それが仁の計画だった。
仁なら1年以下で作り上げることができるが、今回はそれをせず、じっくりとやっていこうと思っていた。
『簡単に与えられたものは簡単に失われてしまう』という過去の経験からである。
「そういう意味でも、『アヴァロン4』をどこでどう建造するか、も考えておかないとな」
「ん、それはまだ聞かれないと思う」
「それはそうか」
まだ案の段階なので、具体的な計画はできていなくて当然だからだ。
「その場合、どうするかな……『4』は農業用にするか……」
自給自足ができるようにしたいからな、と仁。
「ん、いいと思う、『5』は?」
「一応候補を挙げておくと、『居住施設』『商業施設』『娯楽施設』だ」
今現在、『アヴァロン1』は『アカデミー』や『アヴァロン病院』のある中枢で、『アヴァロン2』が工業施設。
そして『アヴァロン3』は軍事施設なのである。
『アヴァロン』が1つの生活圏として完結するために必要なものを追加していく、と仁は考えている。
「『医療機関』や『学校』もあるし……いや、初等教育機関はないよな……」
「ん、『アヴァロン』内で子供を育てるなら、是非必要」
「だな」
「あとは……文化? 芸術?」
「そういうのもあるといいな」
とはいえ、それらは単独で存在するというより、『商業施設』か『娯楽施設』もしくは『教育施設』に含んでもいいかもしれない、と仁は思ったのだった。
* * *
午後1時半、『世界会議』午後の部が始まった。
「ジン殿、まずは確認させてほしい」
「はい、なんでしょう」
「『アヴァロン4』だが、どのような用途に使うのだろうか?」
やっぱりそれを聞かれたか、と仁はエルザの慧眼に感心した。
「今の案では『農業用』もしくは『食料生産用』にしようと考えています」
「ほうほう」
「最低限の食料を自給できるようにしたいのです」
「なるほど」
「『アヴァロン3』にも農園がありますが、あれをもっと大規模にしようかと。実際に設定する時には『ノルド連邦』のロロナさんにも協力してもらおうと思っています」
「おお、ロロナ殿に」
「それはすごい」
「ロロナ殿と懇意にしているというのは本当でしたか」
「さすが『魔法工学師』殿ですな」
ロロナは各国の農業事情を大きく改善した実績があるため、庶民から為政者まで、身分を問わず尊敬されているのである。
「今から竣工が楽しみですよ」
「いや、まったく」
気の早い議員が大勢いるようだ……。
* * *
そしていよいよ午後の部、本題である。
「では本日の予定としまして、先日の大雨で被害を受けたエリアス王国中部の鉱山の復興につきまして……」
「それについてはまず『世界警備隊』を派遣しまして……」
「なるほど」
「次は……」
次々に議題が提示され、議論がなされ、結論が出されていく。
この日の議題には深刻なものはなく、どれも話し合いで片の付くものばかりだった。
* * *
そして現実時間午後3時、30分間の休憩となる。
「今日も順調に話がまとまりましたな」
「あと少しで今日の会議も終わりますな」
「そうしたらまた風呂でゆっくりと寛ぎますかな」
ソフトドリンクを飲みながら、そんな話を交わす者たちもいれば、
「今日の夕食は何でしょうなあ」
「昨日の主菜は絶品でしたからな」
「楽しみですよ」
などという者たちもいる。
「ずっと肩が痛かったのですが、『アヴァロン病院』で診てもらって助かりました」
「ほう?」
「なんでも『膵臓』とかいう臓器が悪かったようで、非常に危険な状態だったと言われましたよ」
「ほほう。ですが、どうして内臓なのに肩が?」
「ほ……『放散痛』とかいうものらしいです。痛みを伝える神経の混線? みたいなものだとか」
「なるほど、なるほど」
軽い会話をしているが、その実『膵臓ガン』だったのをエルザの『完治』で治してもらった幸運に気付いていなかったりする者も……。
『世界会議』に来たおかげで健康になった、持病が治った、という者は多いのである……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は7月11日(金)12:00の予定です。
20250708 修正
(誤)まだ案の段階なので、具体的な計画はできていなくて当然だらだ。
(正)まだ案の段階なので、具体的な計画はできていなくて当然だからだ。
(誤)「『医療機関』や『学校』もあるし……いや、初等教育期間はないよな……」
(正)「『医療機関』や『学校』もあるし……いや、初等教育機関はないよな……」




