99-03 説明と報告
エルザは『経験ビューアー』についての説明を行っている。
「……ということで、これを使えば、短時間で様々な経験を積むことができるわけです」
「おお……」
「素晴らしい……」
「さすが、ニドー夫妻ですな……」
「問題点があるとすれば、『データ』をまとめるのに時間が掛かることです」
「ふむ、しかしそれは、利用者数を考えれば、大したことではないでしょう」
そう、仮に利用者が100人なら、データ編集に2時間掛かったとしても1人当りにすれば1.2分……72秒である。
1000人が利用すれば7.2秒となり、十分労力に見合う成果が上がるといえよう。
「それを理解していてもらえるなら、嬉しいです。……編集用のソフトウェアを近いうちにまとめて、管理魔導頭脳にインストールしたいと考えてもいます」
「そうなれば、まとめる時間が短縮されるのですか?」
「もちろんです」
「おお!」
「楽しみですな」
こちらも好評だった。
が、危惧する意見も1つ。
「管理魔導頭脳への影響や、負担は大丈夫なのですか?」
「はい、その心配もあります。ですので、まずは専用の小型魔導頭脳を用意した方がいいかなとも考えています」
これは仁が答えた。
「魔導頭脳としての性能は落ちますが、スタンドアロンで使えますので、使い勝手はいいはずです」
「おお、それならそちらの方がよいと思いますぞ。……皆さん、どうお考えですかな?」
「確かに、その方がリスクは小さいでしょうね」
「リスクは小さいほうがいいと思いますぞ」
「……わかりました。それを『データベース』に接続し、データを保存できるようにしようと思います」
「おお、それならいいですな」
一転してリスクを避けたい、という意見が多数を占めるようになったので、最終的に仁としては専用の魔導頭脳を製作し、『データベース』に接続することとなった。
* * *
『経験ビューアー』についての話し合いが終わると、次は『医療』の現場からの報告となる。
「『アヴァロン病院』院長のハーシャ・クラウドです。前回の『世界会議』から今回までの3ヵ月半ほどの期間には、取り立てて危険視するような報告はありませんでした」
「おお、それはよかった」
「『通院』で治療された方は4名、病名は伏せますが、全員治癒しております」
「それは重畳」
「一時、フランツ王国北部で流行りかけていた熱病ですが、『グリップ』と判断しました。これはウイルスによる伝染病ですので、現地へ派遣された『医師団』の尽力によりほぼ収まっています」
「素晴らしい!」
『グリップ』とはインフルエンザのような流行性の感冒のことをフランス語で呼んだもの。
基本的に飛沫感染、空気感染するものが多いが、『医師団』は手洗いうがいの推奨に始まり、各家の『滅菌』、また広い空間にも『浄化』を施すことで、蔓延を防いだのである。
このあたりは『医療魔法』の勝利である。
その他、現状の報告が行われ、『医療』関連の報告はつつがなく終了した。
* * *
次は『看護師』について。
『医師』とは異なり、こちらは元侍女、あるいは現役の侍女が多く受講している。
『医師』ほどには難しくない……というよりも、魔法の素養がなくとも取得できる資格であることから、侍女が受講するケースが多いようだ。
『看護師』の資格があれば、簡単な医療行為(応急手当レベル以上)も行うことができる。
夜会や園遊会などで急に倒れた客を、『資格持ちの侍女』が救護する、というケースは、枚挙にいとまがない。
こうなると、『看護師』の資格は『侍女のステータス』のみならず、『雇用している貴族家のステータス』としても注目されつつあるようで、余裕のある貴族家はこぞって侍女を勉強会に送り込んでいるようだ。
「先日も、とある伯爵家の園遊会で倒れたお客がいたそうでしてな」
「ふむ」
「それを、その伯爵家の侍女、もちろん『看護師』の資格持ちが手当をし、ことなきを得たそうです」
「ほほう」
「すると、この制度は非常に有効ということですな」
「となると、『看護師』育成のための補助金も検討すべきでしょう」
「いかにも」
『看護師』の資格を得るためにはいくつかの方法がある。
1年コース・2年コースなどの教育プログラムを受講する他、年1回行われる資格試験(実技あり)に合格することである(教育プログラム修了者は学科試験免除特典あり)。
いずれも『アヴァロン』の『アカデミー』で行われており、実費を納めれば誰でも受講もしくは受験できるのだが、『実費のみ』で済むのは各国が補助金を出しているからである。
今回出た意見は、この実費も出さずに済むよう補助金制度(あるいは奨学金?)を見直そうというわけである。
さすがに短時間で結論は出ず、翌日以降に持ち越しとなったが。
* * *
ここで一旦休憩となる。
『MCR』内では3時間が経過しているので、現実時間は1時間経過となる。
実際の会議とは異なり、体調不良が起きても中座できないので、やや小刻みに休憩を挟むようにしているのだ。
なお、各座席に『MBS』の簡易版を装備し、体調の変化をいち早く検知しようという計画があるが、今回の世界会議には間に合わなかった。
「できるだけ早くお願いします」
とは、参加者の大半が抱いた思いであろう。
* * *
休憩が終わると、この日のメインテーマである『レムリア』の整備・改造状況の報告となる。
まずは担当するチームのリーダー、アーノルトからの報告が行われた。
「整備、修理につきましては、参加者のおかげで終了しました。『レムリア』本来の機能も使えるはずです」
「おお、ご苦労だった」
「で、本来の機能とは?」
「資料をお配りします」
『MCR』内なので、そうした資料の配布も一瞬だ。
「復活した機能も含め、『レムリア』本来の機能を箇条書きにしてあります」
「おお、わかりやすいな」
その内容はと言うと……。
1.海上・海中を移動できる。海上は時速30キロ、海中は時速20キロ。潜航可能深度は200メートル。
2.武器・兵器多数。内容は別途記述。
3.居住空間。無補給で1000人が10年以上生活できる。
4.戦闘用ゴーレム51体、技術用ゴーレム63体保有。
5.魔導大戦当時の魔導具多数。内容は別途記述。
ということであった。
「おお、素晴らしい!」
「これをどうするか、が課題ですな」
「その前に『別途記述』されている内容を確認しましょう」
そういうことになったのである……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は6月15日(日)12:00の予定です。
20250613 修正
(誤)「おお、それならとそちらの方がよいと思いますぞ。
(正)「おお、それならそちらの方がよいと思いますぞ。




