96-85 2月1日の午後
ゴウたちだけでなく、『化学研究室』のケン・カシン、ルプラン・アルコー、それに『材料研究室』のシホ・リョウ・イザイとケン・ザイブ・ノモらからも報告書が提出されている。
「ふむ……『実験室用はともかく、量産用は『気体用』『液体用』『固体用』は分けるべき』か、なるほどな。それから……『量産用は、物質によっては専用のものを作るべき』確かにな」
合成ゴムや透明樹脂などは専用の『魔導高分子合成機』を用意した方が生産効率がいいというわけだ。操作ミスの心配もなくなる。
「ゴウたちとはまた違った判断だな」
仁はこうした『使う側の意見』を大事にしたい、と考えている。
仁自身の考えを押し付けるような独善は避けたいのだ。
ゆえに、分野の違う技術者からの意見は非常にためになる。
「『後から、よく使う物質の生成をボタンに割り当てられるようにしたらどうか』か……これもいいな。それには『補助魔導頭脳』を搭載する必要があるが……」
使い勝手というものは使い手によっても変わるわけで、そういう意味では『作った者』は、使い勝手のよし悪しを判断するにはあまり適していないことが多い。
むしろ初めて使う者の第一印象が的を射ていることも多いのだ。
* * *
ひととおりのチェックを終えた仁は、残りの時間を使って、採用できそうな意見をまとめてみた。
ゴウとルビーナは翌日の講義の準備のため、自室へ戻っていった。
1.『気体用』『液体用』『固体用』で分ける。将来的には特定の物質専用機を用意することも視野に入れる。
2.材料を入れてから、作れる物質とその量を表示できるようにする。
3.材料の補給はカートリッジ式にする。
4.余った素材、残った分子は専用の廃棄用容器を用意する。
5.出てくる物質の受け皿もしくは容器を用意できてない間は合成しないような安全装置が必要。
6.粘性の高い物質が出てくるノズルは使用するたびに『浄化』を掛ける必要がある。
7.『補助魔導頭脳』を搭載し、セキュリティおよび操作性を高める。
8.実験用・開発用など、少量生産専用のものは汎用機、量産するものは専用機とする。
「こんな感じか……」
互いに矛盾し合うような一部の意見は採用できそうもなかった。
「『補助魔導頭脳』が搭載されているなら『ショートカット』の登録もできるし……」
仁の頭の中に、次第に形ができていく。
「まず、『小型汎用機』はノズルを一工夫しよう」
『気体用』『液体用』『固体用』のノズルを設ける。
そして『受け皿』もしくは『専用容器』をセットしないと作動しないようにもする。
専用の『廃棄用容器』を用意する。
「各国への支援だが、最初は汎用機にし、要望の多い物質に関しては専用機を用意するかな」
汎用機は実験室レベルで使うにはいいが、量産には少々使い勝手が悪そうである。
「それとも、まずは汎用機を貸し出し、必要とする高分子がどういうものか、理解してもらうかな……」
その場合、危険物……メタンもペンタンも危険である……を、機械側が察知し、忠告してくれるといいかな、と仁は考えながら仕様をまとめていったのである。
* * *
同日午後、エルザとリシアは看護師候補生たちの面倒を見ていた。
今日はリシアが講師を務めている。
「今日は『病気』について勉強しましょう」
医師ほどではなくとも、そうした知識を蓄えるのは非常に重要である。
「看護するにあたり、病気について知っているといないとでは、大きな差があります」
病気によって禁忌があり、その禁忌を侵さないためにも知識は不可欠である。
「例えば、特定の食べ物にアレルギーを持った患者さんにアレルゲンとなる食材を使った食事を出すのは駄目です」
「それはどうすればわかりますか?」
「まずは初診時に問診を行いますので、自覚している患者さんの場合は自己申告してくれるでしょうから問題はありません」
が、自覚していない場合が困る。
「そのような場合、どうするか。……アレルギーは、本来なら無害である食物や薬剤、動物などの異物に対して反応するようになります。『医療魔法』は何を使えばいいでしょうか?」
これに答えたのはナルン・ド・カーン。
「ええと、『解毒』でしょうか」
「いいですね。患者さんが『何アレルギー』かを知っていれば『解毒』でアレルゲンを除去できますから」
ほっとするナルン。
「では、何アレルギーかわからない場合はどうするか、わかりますか?」
「……」
この質問には誰も答えられなかった。
「ではエルザ先生、解説をお願いします」
「はい。……症状の出方によって多少変わりますが、アナフィラキシーショックを起こした患者さんは、大体において緊急を要する状態のはずです。何アレルギーであるか調べている時間はありません。早急に処置をしないと命に関わることがあります」
まずは『診察』でどこがどう悪いのかを速やかに診断すること、とエルザは説明。
「炎症を起こしている場合は『治せ』もしくは『回復』を使います」
現代日本であれば『エピペン』(エピネフリンを注射するペン状の注射器)を打つことになる。
ここアルスにはそんなものはないので、『医療魔法』を駆使する必要があるのだ。
「看護師であっても『医療魔法』を使って患者さんを治す必要が出てくるでしょう。そのような場合に大事なのは患者さんの命です。『必ず助ける』という強固な意志で臨んでください」
こうした講義を通じ、看護師候補生たちは技術と知識、そして心構えを学んでいくのである。
* * *
「今日も、充実してた」
「そうだなあ」
仁とエルザは居室で1日の出来事を話し合っている。
「『アヴァロン』のレベルも上がっているし、信用も取り戻せたと思う」
「ん、同感」
「この調子で行こう」
『教育』は順調である……。
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本日は 異世界シルクロード(Silk Lord) も更新しております。
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