96-78 中継基地の検討
マーサの誕生会の後。
蓬莱島で、仁は老君を相手に検討を続けていた。
ベースとなっているのは、昼間ラインハルトと行った話し合いである。
「ハブとなる『中継基地』をどうするか、決めなきゃな……」
これまで使っていたのは『仮』の施設であり、本格的に『転移魔法陣のネットワーク』が完成し、稼働し始める前に、セキュリティをなんとかしなければならない。
そのために仁はラインハルトの意見を聞いていたのだ。
「やはり海底に設置しよう」
『はい、御主人様。その際に先日の『古代遺物……魔導高分子合成機』を見つけた、ということにしますか?』
「うーん、どうだろう? あれって水深8000メートルくらいの場所にあったということになっているんだろう?」
『はい。……中継基地を設置するにはちょっと深すぎますね』
「うん。せいぜい1000メートルくらいにしておきたい」
『でしたら、『アヴァロン』の下に設けますか?』
「そうだな、それもアリか」
『アヴァロン』から直接乗り込むことはできないよう、密閉構造にする。
出入りは転移のみ。
『1系統だけ『転移魔法陣』ではなく『転移門』を設けるのがよろしいかと』
「ここから行き来できるように、だな?」
『はい、御主人様』
「うん、その方向性で行こう」
形状は水圧に耐えるよう球形。
直径は50メートルから100メートルくらい。内部は幾つかのフロアに仕切る。
「『首都』は同じフロアにまとめよう」
『そうしますと、州都のような、格が落ちる場所に設置した『転移魔法陣』は別のフロアとするのですね』
「そういうことになるな」
利用できる大きさも制限する。
巨大ゴーレムはもちろん、馬車くらいの大きさのものは転移不可とする。
「転移に依存しすぎると交通手段が衰退するからな」
『そうですね、御主人様』
大型の魔導機のようなものは在来の移動手段を使うことになる。
今は大型の輸送機があるので、それを使えばいいわけだ。
こうして、『ハブ基地』あるいは『中継基地』の構想は固まっていったのである。
* * *
さて休憩時間。
お茶を飲み終えた仁に、老君から思いがけない提案が出てきた。
『御主人様、使い物にならなくなった『球形基地』と思われるものを発見しましたが、使えるのではないでしょうか?』
「何? 『球形基地』というと、旧ディナール王国の遺産か?」
『はい、蓋然性90パーセント以上』
「なるほど。まあどこのものでもいいが、発見した場所は?」
『はい、『ナウダリア川』の河口から2キロメートルほどの沖合、深さ400メートルほどの海底です』
ナウダリア川はエゲレア王国とセルロア王国の国境をなす大河である。
水源は『アスール湖』および『セドロリア湖』。
セルロア王国の首都エサイアの南でトーレス川と合流している。
『球形基地は直径100メートル。金属製とはいっても中空ですから、全体の比重は1に近いため、大水で流されたとも考えられます』
「ああ、だからあの大河の河口から2キロも離れた場所に沈んでいたのか」
『はい、おそらくは』
「川の流れで沖に押し出されたということか……」
いずれにせよそれは使える、と仁は判断した。
特に先日は海底から『魔導高分子合成機』を発見したと誤魔化したばかりである。
「俺が海中を探査することができることは周知の事実だからな」
『はい、御主人様。その引き上げを『アヴァロン』と共同で行い、同時に技術指導を行う、というのはどうでしょうか』
「おお、よさそうだな」
『では、計画を練ってみます』
「よし、頼んだ」
老君なら数分で幾とおりもの計画を立案、検討できる。
仁がお茶を飲みながら待つこと4分。
『御主人様、よさそうな案ができました』
「よし、聞かせてくれ」
『はい。……まず、御主人様もしくはマキナ3世がその『球形基地』を発見したことを『アヴァロン』に伝えます』
「うん」
『ポジションが比較的陸地に近いこと、水深が浅いこと、そして『球形基地』の比重が1に近いことを説明し、サルベージすることを提案するわけです』
「いいな」
『その際に考えられる反応は主に2つ。御主人様に引き上げを任せるか、協力して引き上げるか、です。ちなみに0に近い可能性ではありますが、『アヴァロン』だけで引き上げる、という選択肢もあります』
「まあそうだろうな。……だが、どこに沈んでいるか俺が教えない限り無理だろう」
『仰るとおりです。ですので3番めの可能性は除外します。そして最も可能性が高いのが『協力して』です』
「全面的に任された場合は?」
『マキナ3世が音頭を取り、『アカデミー』の有志を募ってサルベージを見学させます』
「なるほど」
その際、最低でもアーノルト、ゴウ、ルビーナは参加するだろうと老君は断言した。
「そうだろうな。他にもいるかもしれないし、まったくの独り相撲にはならないだろう」
『はい、御主人様』
「で、サルベージの方法は?」
『はい、3つほど考えてありますが、一長一短があり、決めかねますので御主人様に判断をお願いしたく』
老君が決めかねるなんて珍しいな、と思いつつ、仁は頷いた。
「わかった。内容を聞かせてくれ」
『はい、御主人様。1つ目は『アヴァロン』の艦艇の大半を使い、海中から引き上げる方法です』
「うん」
『2つ目は『アヴァロン』の艦艇と御主人様もしくはマキナの艦艇が協力する方法です』
「うん、3つ目は?」
『最後は御主人様もしくはマキナの艦艇を、『アヴァロン』の有志が使って引き上げる方法です』
「なるほど」
『いずれの場合も、御主人様もしくはマキナのゴーレムが海中で予備作業を行うことになります』
海中での予備作業としては、沈んでいる『球形基地』の損壊部分を応急的に塞いでから内部に空気を満たすことで『球形基地』に浮力を与えることであると老君は説明した。
「なるほどな。決めかねるというのはどんな理由でだ?」
『はい、御主人様。『指導』という意味では、できるだけ『アヴァロン』の技術を使うことが望ましいのですが、それでは引き上げるのに時間が掛かってしまうのです』
「そうか、俺が主導でやれば早く済むか」
『仰るとおりです』
「確かにな……だが、ゴーレムを使って海中にある『球形基地』を修理するのは変わりないんだな」
『はい。ですが、途中から『アヴァロン』のゴーレムを参加させるという方法もあります』
「それはそうだ」
そして、『アヴァロン』の実力をアップさせたいという仁の希望に沿うには、できるだけ『アヴァロン』主導で行う方がよい。
老君としては、仁の希望を優先するか、仁に時間を取らせないようさっさと済ませるか、その最終判断に迷ってしまったということになる。
あくまでも仁の主観になってしまうので、老君が決定するのは不遜であると判断したというわけだ。
さて、仁の決定は……。
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