96-51 ショウロ皇国北部の村の疾患
さて、同日の『世界会議』。
この日は、技術者の育成と『アヴァロン』の役割についての話し合いがなされた。
「では、あくまでも『アヴァロンのアカデミー』は最高学府としての位置づけでよろしいですね」
「異議なし」
昨年度における仁とマキナのテコ入れによる躍進で、『アヴァロン』の権威は急速に回復。
『学びの場』としても最先端の学問と技術が学べると評判になっている。
ここで問題になっているのは技術者の流出である。
そこで、名誉顧問であるデウス・エクス・マキナ3世は、1つの提案を行っていた。
その元となったのは現代日本における『大学』のあり方である。
もっとも、仁は大学には通っていないので、聞いた話が元になっているのだが。
それはそれとして、マキナ3世による草案は、以下のようになっていた。
1.『アヴァロンのアカデミー』(以下、単に『アカデミー』と呼ぶ)は一定の規模で学生を受け入れる。
2.『アカデミー』は、学生を受け入れる際、『入学試験』を行い、合格した者を受け入れる。
3.『アカデミー』は一定の期間、学生を教育する。
4.『アカデミー』は、適宜、一般に向けた公開講義を行う。
5.『アカデミー』で学んだ学生は、『卒業試験』に合格することで卒業できる。
6.『卒業』した学生は、『アカデミー』で研究員となる資格を得る。
7.研究員になるには、登用試験に合格しなければならない。
8.研究員は、元の国籍を離れ、『アヴァロン』に属する。
9.通常の研究員とは別に、『客員』としての研究員も受け入れる。『客員研究員』はその者の国籍を維持する。
10.学生は、決められた額の授業料を『アカデミー』に収めるものとする。
11.優秀な学生には、『奨学金制度』の利用を認める。奨学金制度とは、一定期間の授業料を免除する制度である。
12.奨学金は、卒業後10年以内に返済するものとする。例外として、『アカデミー』が制定する『奨学生試験』に合格した者は返済する必要はない。ただし、卒業後2年間、『研究員』として『アカデミー』に所属する義務が生じる。
13.『研究員』には、『アカデミー』から、所定の給金が支払われる。
14.『学生』には、『アヴァロン』内に居室が貸与される。賃貸料は学費に含まれている。
15.『研究員』は、『アヴァロン』内に居室を所有することができる。賃貸もしくは所有のどちらかを選べるものとする。
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など、30ほどの規約の草案が提示された。
こうした規約は、このアルスでも初めてのものなので、特に異議は出ずに仮承認された。
『仮』であるのは、運用された実績が皆無なので、問題が起きた際には適宜変更・修正するという条件が付いているからである。
この『あり方』により、『アカデミー』に対する各国の不満と不安……優秀な技術者が『アカデミー』に流出してしまうのではないか……はかなり軽減されたようである。
* * *
引き続いて、『アヴァロン世界医師団』の報告が行われた。
「第1014回世界会議で決定しましたように、『アヴァロン世界医師団』は昨年の12月23日から29日までの1週間、ショウロ皇国北部の村々を訪れました」
報告をしているのは巡回に参加した、当時の医療研副室長メイ・シャイ・ジョーイ。
「原因不明の体調不良が多発していると、事前に聞いていましたので、特に注意しました」
現地に赴くことで、体調不良の内容がはっきりしたとメイ・シャイ・ジョーイは説明。
「症状としてはまず『慢性的な貧血』が上げられます。それから息切れ、めまい、心拍数の増加が見られました」
「ほう……」
「筋力低下や疲労も症状として表れます」
「確かに、そういう報告を聞いた覚えがある。が、我が国の治癒師では治せなかったようだ」
ショウロ皇国の厚生相、ゼムリップ・プリング・フォン・バロックが残念そうに言った。
「そうでしたか。……確かに、治癒系魔法を掛けても、数時間で効果は切れてしまいます。この事実から、単なる疾病ではないことがわかります」
殺菌系、解毒系の『医療魔法』でも治せなかった、とメイ・シャイ・ジョーイは説明。
「ですが、同行してくださったエルザ先生が、特定栄養素の欠乏ではないかという可能性を指摘してくださいました」
「ほほう……エルザ殿が」
「そこでエルザ先生は、患者とそうでない方たちの食生活について調査したのです」
その結果、患者は全員が肉類を口にしていないことがわかったという。
「『菜食主義者』ということかね?」
「ご自分でそう意識されてはいないようでしたが、結果として菜食となっていたようです」
「そうすると、どのような症状が出るのかね?」
急き込んで尋ねるゼムリップ・プリング・フォン・バロック厚生相。
「順を追ってご説明いたします。……人体に必要な栄養素は数多くありますが、『ビタミン』と呼ばれる栄養素群がありまして、その内の『ビタミンB12』というものは、野菜からは摂取できないのです」
この『ビタミン』という名称は古の大学者『賢者』がそう呼んでいた、と補足するメイ・シャイ・ジョーイ。
「ビタミンB12は、魚介類、肉類、藻類、卵、ミルクなどに多く含まれています。 野菜、果実、きのこなどの植物性の食品には含まれていません」
これを聞いてゼムリップ厚生相は、納得したような顔になった。
「なるほど、北部の村は魚介類や藻類の流通がほとんどない。肉類も意識しなければ食べない者がいてもおかしくない」
「そういうことです。自分は食べずとも、子供や孫に食べさせている、という方が多く発症していましたね」
「それで、治療はどうなったのですかな?」
「原因が分かれば、治療は簡単です。ビタミンB12を含む食品を食べればいいのですから」
「なるほど、道理ですな」
ビタミンB12を多く含み、ショウロ皇国北部でも入手可能な食品には、『メジカ(鮭)』『鮎』などの淡水魚、『コカリスクの卵』などがある。
この他にも『クルム(アサリ)』『カキ』などの貝類、『海苔』『ワカメ』もビタミンB12を多く含むので、『アヴァロン世界医師団』は、そうした食品を取り寄せ、患者に食べさせたという。
「食べてすぐ元気になるというものではありませんが、先日確認したところ、9割以上の患者さんが、症状が軽快したということでした」
「おお、それは朗報ですな」
「ですが、まだ油断はできません」
まだ20日足らずなので、引き続き経過観察が必要であるとメイ・シャイ・ジョーイは言った。
「それ以外には『破傷風』患者さんが1名。こちらは『滅菌』による破傷風菌の滅菌と、『解毒』による毒素除去、それに『治療』による体細胞の賦活で治りました」
「おお」
「それから、右腕の単純骨折が1名。こちらは『快癒』で治りました。そして……」
「ふむ……」
「……以上です。カルテの内容は『データベース』でご覧になることもできます、閲覧レベルは5です」
メイ・シャイ・ジョーイは、症状と治療内容を逐一報告していったのである。
* * *
こうして、『世界会議』は順調に日程を消化していくのであった。
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20240225 修正
(誤)子供や孫に食べさせている、という方多く発症していましたね」
(正)子供や孫に食べさせている、という方が多く発症していましたね」




