96-38 整う準備
さて、1月13日の『アヴァロン』の様子。
こちらには一応、仁の『分身人形』がいる(本体は蓬莱島)わけであるが、各工房では独自に研究や製作を進めていた。
なので、仁の『分身人形』は大人しくしている。
* * *
『オーディナリー工房』。
「順調ね」
「やっぱり、原理を理解していると、製作の肝がわかるというか……」
「モチベーションも上がるわね」
「同感っす」
彼、彼女らが今作っているのは『魔導オシロスコープ』である。
『心電図』を表示するのに必要なため、という説明だけでは納得がいかず、用途を。
『設計基』どおりに作るだけということに不満があるため、動作原理を。
それぞれ説明してもらい、製作しているというわけだ。
応用範囲が広いので、追加発注も受け、20台の受注となっていた。
* * *
『ゴーレム研究室』。
騎士団の全身鎧と同じデザインの戦闘用ゴーレム、ということで鋭意製作中だ。
中身は標準的な戦闘用ゴーレム。
特別な機能は求められていない。
だが、通常の戦闘用ゴーレムに全身鎧を着せるのでは重くなりすぎてしまう、という問題点を抱えていた。
この問題を解決するため、『ゴー研』では、ゴーレムの外装をメッシュ(網)にするという解決法を編み出した。
軽銀製メッシュ(網)の外装を取り付けたゴーレムに全身鎧を着せることで大幅な軽量化に成功。
外装が柔軟性のあるメッシュ(網)なので、全身鎧も問題なく取り付けられた。
若干干渉する部分もあったが、そこは鎧側のサイズを1つ上のものとすることで対応。
結果、全備重量120キログラム(全身鎧30キロ+ゴーレム90キロ)に収まり、性能も落とさずに(元の外装時、ゴーレムの重量は120キロ)済んだのである。
「これなら問題ないな」
「大成功ですね」
『ゴー研』室長ラスナート・ハイルブロンは満足そうに頷いたのだった。
* * *
ゴウとルビーナ。
「ジン様から、『電池』実験のマニュアルと、実験の映像が送られてきたよ」
「助かるわね。さすがジン様だわ」
2人はマニュアルに目を通し、その出来栄えに舌を巻いた。
「電圧計、電流計、抵抗計も作ってくれたのね」
「それぞれの『設計基』も添付されてるよ」
「これなら講義も捗るわね」
「うん」
2人の『電気技術講座初級編』の準備は整いつつあった。
* * *
グローマとエイラ。
「できたな」
「なかなかだよ」
『カモメ』を模した『鳥ゴーレム』が完成したのである。
本物そっくりの羽ばたきができ、内蔵した『小型浮揚機』により、ゆっくり浮き上がることもできる。
が、飛ぶ姿はまだシミュレーションが不十分なため、お披露目はしない予定である。
むしろメインは同時に完成した『魔法式動作解析機』による『動作解析システム』だ。
いろいろなものの動作を解析し、応用するためのシステムであり、その用途は広い。
* * *
『ベルリッヒ工房』。
『医療用魔導頭脳』の方は一段落つき、『設計基』まで完成し、自己チェックを経て今は全体のチェックを外部に依頼しているところである。
『設計図』の場合でも『検図』は重要である。
機械図面の場合、『寸法検図』『機能検図』『生産検図』などが行われる(企業によって異なる)。
『寸法検図』は、寸法の記入漏れや大きさの単位など、必要な数値に漏れがないかを確認する。
複雑な形状の場合、寸法の記入漏れが起きやすいのだ。
『機能検図』は、組み上げた際にちゃんと組み立てることができ、動作(機械的な)をするかどうかを見る。
例えば、内径100ミリのパイプには、外径110ミリのパイプは入らない。
また、20ミリのスライドをさせたいのに、他の部品と干渉して10ミリしか動かせないのではまずいわけだ。
これらは、書いた当人だとどうしてもチェックが甘くなるため、第三者に依頼することが多い。
今は『デウス・エクス・マキナ3世』がチェックをしているのであった。
で、時間を無駄にしないために、彼らはもう1つの仕事を行っている。
オリジナル製品である『強化服』のさらなる改良として、『動作の入力と出力のタイムラグ』を極力減らすという研究だ。
これが小さくなるということは反応速度が上がるということで、素早い動作、精密な動作が可能となる。
「なんとか4分の1くらいにすることができたかな」
「それでも人間の倍くらいですね」
人間の神経細胞の反応速度は秒速120mくらいと言われる。
また、刺激が与えられてからの反応時間は、男性で約0.35秒~0.38秒、女性で約0.39秒~0.42秒というデータもある(平均)。
鍛えることで0.2秒を切ることもできるようだ。
で、今のところ、『強化服』の反応は0.1秒くらいまで早めることができていたのである。
これなら、着用して動く際に違和感を感じることはないだろうというわけだ。
とりあえずの成果が出たわけである。
「このあたりは、これからさらに研究していく必要がありそうだね」
ベルリッヒ・ベッカーはこの結果に満足せず、さらなる未来を見据えていた。
* * *
「え、ええと、この侍女さんたちは……?」
『アヴァロン3』の厨房には、料理に携わるスタッフの大半が集められており、彼らは仁が送り込んだ『五色ゴーレムメイド』である『ペリド』1から30の30体に面食らっていた。
「明後日の『世界会議』で新しい料理のメニューを発表するための準備の一環ですよ」
仁の『分身人形』、仁Dが厨房のスタッフたちに説明を行う。
「エリアス王国のアレクサンドラ侯爵に協力してもらい、集めたスパイスを使った料理です」
「なるほど」
「これから皆さんに料理方法をお教えします」
「おお! よろしくお願いします」
『アヴァロン3』の厨房なのは、カレーの香りは強烈なために一般人が利用する厨房でのコーチはできないからである。
「スパイスの配合は……」
「食材はこうカットして……」
「ライスに掛けますが、他にも使えそうな食材も……」
「このレシピは一例です。慣れてきたら工夫してよりよいものを作ってください」
ペリドたちはマンツーマンでコーチしていく。
「ううん、いい香りですな」
「これは……奥が深そうな料理です」
「スパイスのハーモニーがたまりませんね」
「どうしても高価になりそうですが」
調理人たちはその香りに魅せられたものも多いようだ。
「『世界会議』でお披露目しまして、各国代表に気に入ってもらえたならスパイスの生産も増やしてもらえるでしょう」
「期待できそうですね」
「それには、気に入られるものを作らないと」
料理人たちも、自分たちの役割を理解してくれた。
* * *
『世界会議』はまもなくである。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20240212 修正
(誤)「このあたりは、これからさらに研究いていく必要がありそうだね」
(正)「このあたりは、これからさらに研究していく必要がありそうだね」
(誤)料理人たちも、自分たちの約割を理解してくれた。
(正)料理人たちも、自分たちの役割を理解してくれた。




