92-02 『アヴァロン2』順調
『アヴァロン2』が着水した9月17日の前日、つまり16日には、アーノルトは休暇を終え『アヴァロン』に戻っていた。
『アヴァロン』の『アカデミー』では『改良型重力魔法機関開発プロジェクト』がその役目を終え、プロジェクトメンバーたちは新たな課題に向け、ある者は学び、ある者は自分の研究に没頭し、またある者は英気を養っている。
その頃のゴウとルビーナはというと、『助手』について話し合いをしていた。
「そもそもルビーナは『アリス』を作っていたよね?」
そう、3900年に『オノゴロ島』で開かれた『自動人形競技』に参加した時のことである。
「よく知ってるわね? ゴウはあの時、参加していなかったでしょう?」
「うん。でも、マリッカ様に連れて行ってもらって観戦していたから」
「そうだったのね」
「あと、ゴーレム『ブリッツ』と『ドンナー』も」
「ああ、うん。高速艇競技用にね」
「それはどうしてるんだい?」
「ええとね、『ブリッツ』と『ドンナー』は休止中。『アリス』は……」
ルビーナは少し言い淀んだあと、もう一度口を開いた。
「あたしなりの『レーコちゃん』だったんだけど、競技の結果を見て、まだまだだなあって、封印したの……」
「そうだったのか」
ルビーナはルビーナなりに、『最高の』自動人形を作り上げたいと思っていたようだ。
「そんなこと言ったらさ、ゴウだって助手ゴーレム『ピスティ』とメルちゃん専用の自動人形『ララ』を作っているじゃない」
「うん、そうなんだけど、『ピスティ』はジン様に見てもらいながら作ったものだし、『ララ』だってジン様、エルザ様、それにルビーナにサポートしてもらったし……」
「なるほど、拘っているわけね。……わかるけど」
「ルビーナだって……」
「違うとは言わないわ」
「……」
「……」
どうやら2人とも、成長途上の技術者にありがちな『拘り』を抱えているようである。
傍から見たら面倒くさいと思われるかもしれないが、頂点を目指す者としては小さな妥協もしたくない、そういうものなのだろう。
「もう少し、技術を習得したら」
「もう少し、腕が上がったら」
「……そうしよう」
「そうしましょう……」
「ほ、ほら、メルツェだって『ララ』を連れてきてはいないし」
「そ、そうよね。あたしたちだけ、助手を持つわけにもいかないわよね」
「うん」
それが結論のようである。
* * *
9月17日。
『アヴァロン』には、完成した『アヴァロン2』が『アヴァロン』目指して航行中、という連絡が入った。
とはいえ、どういったコースで向かっているのかまでは知らされていない。
また、『アヴァロン2』は『幻影結界』装置を使っているため、上空からも見つけにくくなっている。
この『幻影結界』装置は蓬莱島の航空機『ラプター2』に搭載されており、エリアス半島南部を通過後、折を見て解除する予定である。
装置そのものは『ラプター2』と共に蓬莱島へ帰還することになり、『アヴァロン2』には残らない。
実際は、既にプレアデス諸島のエレクトラ島とエリアス半島の間を抜け、エリアス半島西部の海域に出たところである。
「いよいよか」
計画を知っているアーノルトは、到着を心待ちにしていた。
あと半日……。
* * *
同じ頃、仁は『分身人形』である仁Dを用いて『アヴァロン2』を訪れていた。
最終確認のためである。
「『ファースト』、調子はどうだ?」
『はい、ジン様。全く問題はないと判断いたします』
「それはよかった」
『はい。月からの航行中も貴重なデータを収集することができました』
「うん。宇宙空間を航行するなんてそうそうできることじゃないからな」
『はい。この『アヴァロン2』は宇宙船ではありませんから』
「そうだな」
『そして、ここアルスの海を航行して、関連するデータも検証できています』
「なるほど」
知識として蓄えられていた情報を現実と照らし合わせることができた、と『ファースト』は言った。
「そうだな。実践と経験に裏付けられた知識は有益だからな」
『はい、ジン様』
「そしてこれから向かう『アヴァロン』での役割はわかっているな?」
『はい、大丈夫です。『アヴァロン2』の統括管理魔導頭脳として、そして『データベース』の管理者として、微力を尽くします』
「頼む。何か不具合があったら老君に連絡してくれ。すぐに対応する」
『わかりました。ありがとうございます』
『ファースト』と仁Dとのそういったやり取りを通じ、蓬莱島にいる仁と老君は今回の『イベント』が問題なく最終段階に入ったことを確信したのである。
* * *
『『アヴァロン2』、『アヴァロン』まであと70キロ。『幻影結界』解除します』
蓬莱島では老君が計画全体を管理、遂行している。
『現地到着まで、あと1時間半の予定。スケジュールに対し1パーセント早まっています』
「そうか。もう少しで終わるな」
『はい、御主人様』
蓬莱島時間は午前10時を少し回ったところ。
『アヴァロン』では午前6時半だ。
「向こうでも待っているだろう」
『はい、御主人様。ほぼ全員が思い思いに到着を待っているようです』
「そうだろうなあ」
『それから『世界会議』の関係者も既に全員が集まっております』
これは『アヴァロン』の一大イベントである。少し大袈裟に言うと歴史的瞬間である。
それを見逃してはなるものか、と思うのは自然であろう。
『4日後から『臨時世界会議』が開催されることになっておりますし』
『アヴァロン2』について全世界に知ってほしいということ、それから運用についてなど、決めるべきことも多々ある。
仁とマキナも出席する予定だ。
「まずは『アヴァロン』と『アヴァロン2』の連結を終わらせないとな」
『はい、御主人様』
『アヴァロン』と『アヴァロン2』の合流まで、あと1時間……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230306 修正
(誤)「うん、そうなんだけど、『ビスティ』はジン様に見てもらいながら作ったものだし
(正)「うん、そうなんだけど、『ピスティ』はジン様に見てもらいながら作ったものだし




