92-01 『アヴァロン2』着水
9月14日。
『アヴァロン2』はアルスに接近してきている。
『夜』の側から、しかも途中からは『幻影結界』を使い、地上から見つかりにくくして。
出発したのは月の工場。
アルスと月の中間地点までは月の管理魔導頭脳『ジャック』が制御を行っていたが、その後は『アヴァロン2』自身、つまり魔導頭脳『ファースト』である。
随伴しているのは『ジャック』が建造した護衛艦『ベテルギウス』。
アルスに近付いてからは直径300メートルの特殊宇宙艦『アトラス』も随伴している。
『アトラス』はその艦体のほとんどが『力場発生器』と『魔力反応炉』が占めており、同じ300m級の『アドリアナ』の実に200倍、つまり4000Gという途轍もない推力を誇る。
仮に『アヴァロン2』が故障し、加減速できなくなったとしてもアルスに軟着陸させるくらい朝飯前である。
アルス到着は9月17日の予定。
あと3日である……。
* * *
9月15日。
『御主人様、『アヴァロン2』の飛行は順調です。予定どおり蓬莱島時間で18日の未明、南半球に着水します』
「よし」
アルスの南半球は比較的海の面積が大きく、人の住む陸地が少ない。
秘密裏に着水させるには好都合だ。
『着水予定海域は蓬莱島の南、蓬莱島地図で経度0度、南緯20度』
「それも予定どおりだな」
その付近はなにもない大海原である。夜のうちに大気圏に突入し、未明に着水、という予定だ。
「結局、隕石や宇宙塵の衝突はなかったか」
『はい、御主人様。まだ油断はできませんが、観測できる範囲内に危険な浮遊物はありません』
「それならよし。……アーノルトは今日戻ってくるんだっけ?」
『はい、御主人様。今朝蓬莱山に登頂なさったようです』
「そうか」
『アヴァロン2』到着まであと2日である。
* * *
9月16日。
『ベテルギウス』は月に戻っていき、今は『アトラス』単艦での随伴となっている。
『アヴァロン2』は順調に減速中。
アルスの大気圏突入前に一旦停止する予定だ。
蓬莱島の司令室では、仁が老君の報告を受けている。
「そこからは『アトラス』のパワーで牽引するんだったな?」
『はい、御主人様。『アトラス』のエネルギーをもってすれば十分可能です』
面倒な計算も緻密な操作も必要としない力技であるが、これが一番手っ取り早く、なおかつ失敗の可能性が小さいと判断してのことである。
空気抵抗も断熱圧縮も突入角度も、結界とパワーで無視。
『『アトラス』と『アヴァロン2』、大気圏に入りました』
「順調だな」
『はい、御主人様。予定どおりです』
「よし」
そこへアーノルトがやって来た。
「ジン殿、どんな様子かな?」
「やあ、アーノルト。順調だよ」
仁は超大型魔導投影窓を指差した。
「おお、壮観だな」
そこには、漆黒の宇宙をバックにした、巨大な構造物が映っていた。
「明日には着水だったね」
「そう。そこから1日掛けて『アヴァロン』まで運んでいく」
「その頃には、僕は『アヴァロン』にいるからね。向こうで待っているよ」
「楽しみにしていてくれ」
「うん」
『アヴァロン2』と『アトラス』は大気圏に突入。
とはいえ、巨大な『アヴァロン2』の負担を考慮し、時速10キロ程度の速度で、である。
アルスの大気圏は地球と同じくらい、つまり100キロほどの厚みなので、10時間ほどで着水する予定だった。
* * *
9月17日未明。
当該海域上空に、『アヴァロン2』と『アトラス』が到着した。
速度は時速4キロ、人が歩くくらいの速度まで落としている。
それでも、直径1キロ、全高1キロの円柱(ただし底部は半球状となっている)が着水すると大波が起こった。
「成功だ」
『はい、御主人様。おめでとうございます』
「ありがとう、老君。よくやってくれた。……『アトラス』の『金時』もご苦労だった」
仁は蓬莱島の統括管理魔導頭脳『老君』、そして『アトラス』の統括管理魔導頭脳『金時』を労った。
「『ジャック』もありがとう。無事届いたぞ」
《おそれいります》
続いて『アヴァロン2』を建造し、途中まで送ってくれた月の管理魔導頭脳『ジャック』にも感謝の言葉を送ったのである。
* * *
「さあ、あとは所定のポジションまで航行させるだけだな」
『はい、御主人様。位置情報は私が送りますが、航行させるのは『ファースト』です』
「そうなるな」
『アヴァロン2』は最高時速50キロ、巡航時は時速40キロで航行できる。
着水地点と『アヴァロン』まで航行すべき航路は1200キロほどなので、所要時間は約30時間。
今現在蓬莱島時間で午前5時なので、30時間後というと翌日の午前11時となる。
『アヴァロン』との時差、マイナス3時間半を考慮すれば、現地時間7時半。時間の余裕を見込んでも午前8時頃には『アヴァロン2』は『アヴァロン』に到着することになる。
これが仁たちの立てたスケジュールである。
航路の概要としては、着水点からプレアデス諸島を目指し、エレクトラ島とエリアス半島の間を抜け、エリアス半島西部の海域、つまり『アヴァロン』のある海域へ出ることになる。
幸い、台風や低気圧のたぐいは発生しておらず、順調な航行が期待できた。
「あとは見守るだけだな」
『はい、御主人様。それはお任せください』
「うん。老君、頼むぞ」
明日には、『アヴァロン2』が『アヴァロン』と並ぶであろう……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230305 修正
(誤)『着水予定海域は蓬莱島の南、蓬莱島地図で軽度0度、南緯20度』
(正)『着水予定海域は蓬莱島の南、蓬莱島地図で経度0度、南緯20度』
(旧)「ジン殿、どうなってますか?」
(新)「ジン殿、どんな様子かな?」
(旧)「おお、壮観ですね」
(新)「おお、壮観だな」
(旧)「明日には着水でしたね」
(新)「明日には着水だったね」
(旧)「その頃には、僕は『アヴァロン』にいますからね。向こうで待っていますよ」
(新)「その頃には、僕は『アヴァロン』にいるからね。向こうで待っているよ」
(旧)「ええ」
(新)「うん」
アーノルトの口調が丁寧すぎました……




