91-40 試作の試作と機能試作
午後は『重力均等化装置』の『機能試作』の本格的な設計を行うことになった。
そこでアーノルトは指示を出す。
「ゴウとルビーナが中心になって行ってくれ」
「えっ」
「い、いいの?」
「もちろんだ」
少し慌てるルビーナからの疑問に、アーノルトは大きく頷いた。
「元々この『重力均等化装置』を開発したのは君たちだ。そして『試作の試作』も作っているんだからな」
「あ、はい」
「やってみます……」
が、技術があるのと、年上のベテランぞろいの面々に指示を出すのとは別の話。
特にゴウはそうしたことに慣れないようで、主にルビーナが指示を出す側に回った。
「グローマさんには『魔素変換器』と『魔力炉』をお願いするわ」
「うん、わかった」
「エイラさんは『内部フレーム』と『筐体』をお願い」
「いいだろう」
「タイナーさんとイーナさんは安定回路と魔力伝達経路をお願い」
「よし」
「いいわよ」
と、こんな感じでルビーナは次々に分担を振り分けていく。
ルビーナもゴウと同じく1人でやることに慣れていたが、ここへ来て大勢の力を合わせることの大切さも理解しつつある。
研究開発においてはワンマンプレイもときには必要だが、量産化の場合はやはりチームプレイが重要になってくる。
音楽(楽器)の演奏でも、独奏には独奏の、合奏には合奏のよさがあるようなものだ。
量産化の検討なら、大勢で行ったほうが、より一般向けの意見が出やすく、反映させることで使いやすいものとなるだろう。
一方ゴウは手伝ってくれる皆の間を回ってここはこうしてほしいとかそこはああした方が使いやすいなどの助言や要望を出し、調整役に回っていた。
そんな2人の役割分担を見てアーノルトは、やはりゴウとルビーナは2人揃うと相乗効果で2人前以上の働きをするなと再認識していたのである。
アーノルトが指名したルビーナによる割り振りは功を奏し、その日のうちに基本設計は完了。
最終的な調整を経て、図面上ではティッシュの箱より一回り小さいものになった。
ただ、残り時間の関係で製作と動作試験は翌日、ということになったのである。
* * *
「皆、よくやってくれたね」
夕食時、ささやかながら小宴会が開かれた。
もちろん『改良型重力魔法機関開発プロジェクト』のメンバーで。
実はアーノルトの私費である(彼は自動人形のボディを持っているため、人間よりも給料の使い途が少なく、貯まる一方だった)。
「リーダー、ごちそうさまです」
「ごちになります!」
「ああ、どんどんやってくれ」
「ゴウ、ルビーナ、君たちは凄いなあ」
「マリッカ女史の教えがよかったんだろうなあ」
「頑張ってくれよ!」
「リーダーもこっち来てくださいよ!」
「そうだね、今行くよ」
「アーノルト様、楽しそうですね」
「そうだね。……チェル、今、僕は……『楽しい』よ」
アーノルト自身、こうした『仲間』とのやり取りに憧れていたこともあって、この小宴会を心から楽しんでいたのである。
生前(?)は上司と部下、といった縦の関係のみで、しかも戦時中なのでギスギスしていたからだ。
「それはようございました」
心なしかチェルも嬉しそうである。
「明日も頑張ろうな」
「はい!」
『アヴァロン』の夜はにぎやかに更けていく……。
ちなみにアルコールはわずか(ゴウとルビーナは未成年なのでなし)しか出されなかったので、翌日に影響は残らなかった。
* * *
翌日、つまり9月5日は、まず朝一番で『重力均等化装置機能試作』の製作が行われた。
場所は2号工房、プロジェクトメンバー総掛かりでの作業なので大いに捗った。
そのおかげで、午前中いっぱいで『機能試作』は完成。
昼食時間を挟んでの動作試験となる。
* * *
「よし、起動!」
「はい、起動します」
テストを行ったのはチェル。
「おお、いいぞ!」
結果を述べると、動作試験は大成功であった。
これを受け、
「よし、さらに実験を追加する」
とアーノルトが言うが、これ以上何をするのかと皆首を傾げた。
「え?」
「どういうことです?」
アーノルトは笑いながら説明を行う。
「ほら、5号工房にはゴウとルビーナが作った『試作の試作』があるんだろう?」
「ありますね」
「その効果範囲の中に、今回作った『機能試作』の効果範囲が重複しても1Gが保たれるのかの検証をしたいんだ」
「ああ、なるほど!」
「それはいいですね!」
その説明で皆アーノルトの意図を理解した。
それでプロジェクトメンバー総出で2号工房から5号工房へ移動。
ゴウとルビーナが作った『試作の試作』を目の当たりにする。
「これか」
「でかいなあ」
「お恥ずかしいです」
「いやいや、ありあわせの部品でこれだけのものを作ってしまうというのは素晴らしい」
メンバーはその『試作の試作』をしばらくチェックして、その完成度に驚いていた。
「よし、それでは実験を行おう」
まずゴウたちの『試作の試作』を起動する。
これは1Gしか発生しないので特に目立った変化はない。
その効果範囲へ、『機能試作』を持ったチェルが踏み込んでみて重力値が変化しなければ成功である。
仮に重力が足し合わされても2Gになるだけなので、チェルならなんのこともない、というわけだ。
「では、まず『試作の試作』を起動します」
当然、見かけ上は何も起こらない。
「それではチェル、頼む」
「はい、アーノルト様」
チェルは起動させた『機能試作』を手にし、『試作の試作』に近付いていく。
「どうだ?」
「何も変わりません」
そしてチェルは『試作の試作』の上に腰を下ろした。
これで『試作の試作』と『機能試作』の効果範囲はほぼ重なったことになる。
「どうだ?」
「大丈夫です。変化していません」
チェルの返答に、プロジェクトメンバーたちは歓喜した。
「おお!」
「これで今後の設計が楽になる!」
「新時代が始まるぞ!」
「気が早いな。だが、そうしたいもんだ」
皆、苦労が報われた技術者に共通の笑顔を浮かべていたのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20230227 修正
(誤)ちなみにアルコールはわずか(ゴウとルビーナは除く)しか出されなかったので、翌日に影響は残らなかった。
(正)ちなみにアルコールはわずか(ゴウとルビーナは未成年なのでなし)しか出されなかったので、翌日に影響は残らなかった。
(旧)アーノルトによる割り振りは功を奏し、その日のうちに基本設計は完了。
(新)アーノルトが指名したルビーナによる割り振りは功を奏し、その日のうちに基本設計は完了。




