91-36 ゴウの冴え
ゴウとルビーナの『1人用重力調整装置(仮称)』の検討は、マキナからのヒントにより、まずまず順調に進んでいる。
……はずであった。
まずゴウとルビーナは『互いに干渉できない、けど物質の出入りは自由な結界』について簡単に考察してみる。
『魔法障壁』は物理的な現象には干渉せず、魔力的な現象にのみ干渉する。
魔法障壁同士が接触した場合、互いに相手を透過させることはない。
仮に球体の魔法障壁同士を押し付け合うとすれば、接触面は互いを透過できないので潰れて平面になると考えられる。
「でも接触した別のマジックバリア内に腕をのばすことはできるわよね」
「うん、そのはずだね」
その場合でも、相手が装着した『1人用重力調整装置(仮称)』範囲に入るだけなので1Gであることは変わらず、違和感はないはずである。
まあ、相手が1Gに設定していなければ別であるが……。
「『1人用重力調整装置(仮称)』としての考え方は合っていると思う」
「そうよね。悪くないと思うんだけど」
「でも、マキナ様が忠告してくれたということは、何か僕らが見落としていることがあるんだ」
「それが何か、よね」
道が見えてきた、と思ったゴウとルビーナであったが、その道が行き止まりだったら困るので、慌てて走り出さないよう慎重になっていた。
「仮に『魔法障壁』を応用したとして、効果範囲をどう決めようか?」
「そうね、単純に球形じゃだめよね?」
「その場合、どんな不具合が生じるか、考えてみようか」
「ええ」
そう話がまとまり、2人は検討を開始した。
「例えば、0Gにした機内で、そこだけ1Gのエリアができたらどうなるかな?」
「え? ええと、別に問題ないんじゃない?」
「いや、さっきの環境の話でいうと、空気の流れとか、おかしくなるんじゃないかな?」
「あ、そう、か……。ゴウの言わんとすることがわかったわ……」
例えば球形の『1G』エリアを作ったとする。
わかりやすくするため、周囲は0Gに設定、無重力状態である。
空気分子の重さは0、密閉空間でない限り気圧は0になるだろう。
まあ、通常はキャビン内なので密閉空間かそれに準じたものになるであろうが……。
「まずそこでつまづきそうだ」
「居住空間の気圧維持はちゃんと考えないと駄目ね」
「それに0Gだと、対流も起きないんじゃないかな?」
「あ、そうね。重いとか軽いとかなくなっちゃうものね」
「強制的に空調を行わないといけないかも」
空調を行って、強制的に空気を循環させる必要があるかもしれない、とゴウは言った。
「まあそれはまた別途考えるとして、そんな空間に1Gのエリアを作ったらどうなるかな?」
「うーんと……空気がそのエリアに入った途端に重さを持つわけよね? 下へ動く?」
「そうなるのかな……アルス上では、標高が低いほうが気圧は高くなるからそうなのかな?」
「でも、下がっていって範囲から出ると0Gに戻るから重さが0になるわよね?」
「確かにそうだ」
果たしてどういうことになるのか。
ゴウとルビーナは頭を悩ませる。
「うーん、わけがわからなくなった」
「あたしも……」
2人揃ってため息を吐く。
しばらく無言で俯き、考えていた2人だったが、やがてゴウが口を開いた。
「マキナ様が言いたいのはそういうことかもね」
「そうねえ……はあ」
「まだ僕らはマキナ様やジン様の足元にも及ばないということか……はあ」
2人して小さくため息を吐いた。
だがそこでゴウに閃きが走る。
「……ねえルビーナ、『転移魔法陣』の範囲指定を使ったらどうかな?」
「あっ」
本当に今日のゴウは冴えている、と感じたルビーナである。
「そうよ、あれよ!」
『転移魔法陣』が転移させるものは、転移エリア。つまり魔法陣内の円形の特定エリアに触れている物体である。
この場合、固体である必要もある。
つまり気体や液体は対象外ということだ。
ただし、体表面の水分や体内、例えば鼻の穴の中の空気は転移対象となる。
わかりやすくいうと、ペイントソフトやレタッチソフトでいう『選択範囲を拡張』しているわけだ。
ゴウはこの指定方法を使い、その範囲にのみ1Gを掛けるようにしたらどうかと思いついたわけである。
「『転移エリアに触れている』という状態は、『1人用重力調整装置(仮称)を携帯している』という状況に置き換えることができるわけだ」
「確かにそうね。……うん、できそうな気がしてきた」
「だろう?」
「ほんとに、今日はどうしたのよ、ゴウ?」
「……その言い方だといつもはダメダメみたいじゃないか」
「いえ、そんなことないけどね……」
「おいおい、ちゃんとやってるのか?」
そこにマキナが現れた。
「あ、マキナ様」
「ノックくらい……」
ゴウが苦情を言いかけるが、マキナはそれを否定した。
「いや、何度もしたぞ? 返事はないのに部屋の中ではしゃいでいる声がしたから入ってきたんだ」
「そ、そうでしたか」
「……で? どうなった?」
後で見に来ると言っただろう、とマキナ。
「はい、こうなりました……」
「まずは……」
「で、『転移魔法陣』の……」
ゴウとルビーナは交互にマキナに説明をした。
「接触している固体の連続性がある場合のみ……」
「それをわずかに拡大した範囲を……」
聞き終わったマキナは満足そうに頷く。
「なるほど、いい判断だ」
「そうですか?」
「ああ。転移魔法陣を応用するというのはいいアイデアだったぞ」
「ありがとうございます!」
マキナに褒められ、ゴウとルビーナは喜び微笑んだ。
そんな2人にマキナがさらにアドバイスを行う。
「老婆心から1つだけ忠告しておく」
「は、はい」
「人間が立ち入る部分、つまり居住空間だな。食堂とかトイレとか、場合によってはバスルームなどもだな」
「はい……?」
「そういう部屋は、部屋ごと1Gにしておいた方がいいぞ。まあそれを検討するのはお前たちじゃないだろうが」
これはアーノルトにも言っておく、とマキナ。
「それじゃあ、俺は行く。……とにかく、2人とも、いい線いってるぞ。その調子で頑張れ」
「あ、ありがとうございます!」
そしてマキナはゴウの部屋を出ていったのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
本日2月23日(木)は14:00に
異世界でホムンクルスになっていたのでスローライフを目指す
https://ncode.syosetu.com/n8402fn/
を更新します。
こちらも応援のほどよろしくお願いいたします。




