88-11 水中用ゴーレム解析
一方、『アヴァロン』にいる仁は18日夜、『アヴァロン』に着陸している『ハリケーン』の船内で、老君からの報告を受けていた。
「なるほど、そういうことになっていたのか」
『はい、御主人様。水中用ゴーレム20体は回収済です。ご自分で確認されますか?』
「そうしたいな」
『でしたら蓬莱島へいらしてください』
「まだ時間はあるな。……そうしよう」
時刻は『アヴァロン』で午後7時なので、仁なら水中用ゴーレムを解析して戻ってくるくらいの時間は十分にある。
そこでエルザに一言行ってくると告げ、『ハリケーン』に搭載された『転移門』を使い、仁は蓬莱島へ飛んだ。礼子も一緒である。
* * *
時差により、『アヴァロン』の午後7時は蓬莱島の午後10時半。
空には星が瞬いているが、研究所内は明かりが煌々と点いていた。
「お、これが捕まえたゴーレムか。確かに水中用だな」
工房に横たえられている20体のゴーレムは、全てシームレスな『水中用スキン』とでもいうような被膜に覆われていた。
「かなり丈夫な材質だな」
『分析』によれば、『凶魔海蛇』の皮革を使用しているようだ。
体型は、水の抵抗を少なくするためか、非常にスリム。
そして泳ぐために足先にフィンを取り付けてあった。
両方の二の腕にも小さいフィンが取り付けられていて、水中での姿勢制御に一役買っているだろうと推測できる。
「ゴーレムのパワーでこのフィンを使えば、かなりの速度が出そうだな」
「そうですね、お父さま。でもウォータージェット系の推進器の方がいいのでは?」
「俺もそう思うが、このゴーレムの主人はそういった技術を持っていないんだろうな」
ちなみに『マーメイド部隊』はウォータージェットどころか『力場発生器』での推進も可能だ。
そして仁はゴーレムの構造を解析し始めた。
「これは……」
「最近よく見かける構造ですね」
「ああ。『始祖』のゴーレムによく見られる構造だな」
アドリアナ式ではなく、球体関節式でもない。言うなれば『二重関節式』とでも言おうか。
例えば膝関節。一軸の屈曲では正座のように180度近く曲げられないので、2軸にしている。
初期の可動フィギュア(ドール)にも採用された方式とちょっと似ている。
=◎=でなく=◎◎=、という感じだ。
見かけは人間っぽくならないが、動作性はいい。
もちろん『自動人形』にはこの方式は使っていない。
「筋肉も『凶魔海蛇』だな」
「パワー重視ですね」
「ああ。だから精密な動作はあまり得意ではなさそうだ」
また、このゴーレムには『魔素変換器』と『魔力炉』があった。
「『魔力反応炉』じゃないんだな」
『始祖型』とはいえ、全てを模倣したわけではないようだ。
その『魔素変換器』と『魔力炉』の効率もあまりよくはない。
「これは使った『魔結晶』の品質がよくないんだな」
「そうですね」
解析はどんどん進んでいく。
そして『制御核』。
「うーん、なんというか、古臭い魔法制御の流れ、無駄な魔導式、効率の悪い基礎制御魔導式……なんというかダメダメだな」
「仰るとおりですね」
とは言っているが、世間一般の水準と比較したら十分高性能ではある。
『アヴァロン』の水準との比較だとやや落ちるが。
「だが、こいつらの主人の情報がほとんどないな」
「そうですね、お父さま。単純に命令を実行するしか能がないゴーレムのようです」
手厳しい礼子の評価だが、当たっているだけに仁も苦笑しただけだった。
「手掛かりは船を運んでいくはずだった場所か」
「そうですね」
「ええと……む? この位置情報は……。礼子、この数値を老君に送って、蓬莱島の地図に換算してもらってくれ」
「はい、お父さま」
水中用ゴーレムの『制御核』に書き込まれていたポジションデータ。それは……。
「……老君によりますと、『アルキオネ島』です」
「やはりそうなるか」
アルキオネ島ということは、十中八九、転移魔法陣で送り出すのだろうなと仁は考えた。
「やはりアルキオネ島が鍵だな……」
『忍部隊』を転移魔法陣で送り出せば、ともちょっと考えた仁だが、まずは『アヴァロン』に任せる、と思い直す。
「そのためには『フェニーチェ』の量産化だな」
そういうわけで、その夜の解析はそこまでとし、もう一度『アヴァロン』に戻った仁であった。
* * *
『アリストテレス』がセルロア王国の船を曳航して『アヴァロン』に到着したのは19日の朝であった。
「間違いなく、我々の船です」
「そうですか」
救出した船員に確認させると、間違いなく自分たちの船である、と保証した。
「よし、それではセルロア王国と話し合ってみよう」
最高管理官トマックス・バートマンは、『魔素通話器』を使い、セルロア王国とこの件について話し合った。
セルロア王国は、船長以下全員の救出に対し、感謝の意を表してきた。
それと同時に、破損した船の修理も依頼される。
救出の謝礼と修理の代金として、積荷であるアダマンタイト20キロ、ミスリル銀100キロ、銅100キロ、錫40キロ、軽銀1トン、魔結晶30個を無料とすると言ってきた。
これは願ってもないことであった。
『フェニーチェ』量産のための資材が揃ったのである……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220802 修正
(誤)「ああ。『始祖のゴーレムによく見られる構造だな」
(正)「ああ。『始祖』のゴーレムによく見られる構造だな」




