88-05 一旦報告
『転移の中継点を設けているなんて、用心深い相手ですね……』
実際、仁も『しんかい』という転移の中継基地を設け、万が一転移ルートを辿ってこられてもそこでカットできるように構成している。
この相手も同じように警戒し、中継点・チェックポイントを幾つか設けているようだと老君は察した。
しかも、その中継点で魔結晶をはじめ、送られてきた資材のチェックを行っているようで、老君が送り込んだ『魔力を帯びた魔結晶』は魔力を消去されてしまった。
蓬莱島勢も、中継基地『しんかい』で同じような保安措置を行っているので、この用心深さは理解できる。が、手強い相手であることを再認識させられる一件であった。
* * *
『……』
老君は少しではあるがもどかしく感じていた。
こういう場合は中継点を奇襲して占拠し、最終転送先を特定。
そこへ大部隊で乗り込み、制圧。
これが最も手っ取り早い方法だからだ。
しかし今の仁の方針は違う。
できる限り今を生きる人たちの手で解決できるよう、裏方に徹する、というのだ。
もちろん大勢の人命に関わるような脅威の時は別だ。
『おそらく御主人様は、いずれヘールで隠遁生活を送るおつもりなのでしょうね……』
そんな気持ちがわかってしまうから、老君としても仁の意思を尊重しているのである。
『損害といっても回復できないようなものではないですし、人的被害は出ていませんしね……』
さらにいえば、この相手を蓬莱島勢が100パーセント制圧できるという保証はないわけで、万が一にも制圧できなければもう打つ手はないわけである。
慎重に相手のことを探ることにも意味はあるわけだ。
『ただし、手遅れにならないようにしませんと……ということで、『エントス山』の施設を探れるだけ探っておきましょう』
* * *
老君は『覗き見望遠鏡』を使い、『エントス山』の施設を探り始めた。
『ふむ、ここは……この形式からすると、元は『始祖』の施設だった可能性が高いですね』
その様式と堅牢性から、老君はそう判断した。
『位置関係からすると、『魔法探求者』を抜けたリノウラ・モギは東進し、ここの遺跡を偶然見つけた……ということになるのでしょうか。あるいは、まだ『魔法探求者』に所属している時にここを見つけ、その後脱退したのでしょうか』
いずれにせよ、ここを発見した者……それが『リノウラ・モギ』であることを半ば確信している老君は、その発見内容があの『飛行船』なのだろうと推測した。
が、同時に、得られたものは飛行船くらいで、ゴーレムや自動人形、またその他の魔導具や魔導機についての情報はほとんど残っていなかったのだろうという推測も行った。
『そうでなければ、使っているゴーレムがあのレベルでしかない説明になりませんからね』
だが、ここで1つの疑問が浮かぶ。
『そうしますと、その遺跡に不完全なデータしか残っていなかった理由が不明ですね……もしかして、別の誰かが既に遺跡を漁っていた……?』
その可能性もゼロではないことに老君は気が付いている。
ただ、もう1人あるいはもう1組、『始祖』の施設を発見してその技術を知った者がいる可能性がある、ということだ。
『その『誰か』は、まだ表舞台に出てきていないのでしょうね』
そのため、老君としても仮説の構築時に考慮していないのである。
これは致し方ないことでだった。
『オッカムの剃刀』という言葉がある。
これは、『説明する理論・法則は比較的に単純な方がよい』というような意味だ。
老君が、『謎の黒幕』がリノウラ・モギ1人である前提で仮説を立てているのもこの原理からだ。
だが、ここへきてその前提が揺らぐ。
『もしかして、もう1組、『始祖』の知識の一端を得た者がいる……?』
それは考えようとしなかった可能性の1つ。
いるかいないか判明しなかったため、条件から除外したのだった。
『いたならば、どうしてこれまで知られずにいたんでしょうね……』
それはそれで謎であった。
『『第3勢力』の存在を想定しておいたほうがいいのでしょうか……』
ここまで不明なことが多く、多岐にわたるようになると、リノウラ・モギの他にも暗躍している存在がいると仮定したほうが筋が通るのだ。
『備えは必要でしょうね』
少なくとも『フェニーチェ』の量産と各国への配備は進めておきたいと老君は考えた。
それで、『フェニーチェ』に乗ったマキナとレイを帰投させることにした。
空中にあった『アリストテレス』と共に『アヴァロン』へ。
その際、『通信筒』を使って地上にいるジョルダ・カーターらに知らせた。
通信筒とは、文書を入れて飛行機などから地上に投下される筒のこと。
軽金属もしくは樹脂、あるいは皮革でできており、小型のパラシュートで減速するものが多い。
通常用途のものは蛍光イエローに塗られており、視認性が高い。
ゆっくり落ちてくる通信筒は、かなり前から見つけられており、地上に落下したそれを拾ったのはアレオ・ヨカ・ナイツだった。
それはすぐにジョルダ・カーターに届けられ、開封される。
「ふむ、『中継基地』らしきものが『アルキオネ島』にあるというわけか。で、マキナ殿はその島の調査をどうするか、『アヴァロン』で打ち合わせをする、というわけだな」
「さすがマキナ殿、行動が早い」
「で、我々は?」
「それについても『アヴァロン』で検討してくるそうだ。それまで待機だな」
「でしたら、あのゴーレムの解析をできる限りやりましょう」
「そうだな」
そういうわけでジョルダ・カーターらは、新たな指示が来るまで、ここ『ドーサ鉱山』でもう少しデータを集めていくことにしたのである。
* * *
デウス・エクス・マキナ3世は『アヴァロン』に着くと、すぐに報告を行った。
相手は最高管理官トマックス・バートマン、最高管理官副官イルミナ・ラトキン、世界警備隊情報局局長マーカス・ハガード、アヴァロン技術管理官リンカス・カンデ、アカデミー技術指導主任アーノルトら。
「……というわけで、『こそ泥ゴーレム』は『謎の飛行船』に盗んだ魔結晶を積み込み、『アルキオネ島西部』にある偽装された建物へ運ぶ。そしてそこにある転移魔法陣で送り出している」
「そういうことでしたか」
「転送先は調査中だ」
そうした報告の後、これからの方針を決めていくことになる……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
20220727 修正
(誤)それで、『フェニーチェ」に乗ったマキナとレイを帰投させることにした。
(正)それで、『フェニーチェ』に乗ったマキナとレイを帰投させることにした。




